0話「え!?お前が俺の推し!?」
俺の名前は雨崎 疾風
どこにでもいるような黒髪の普通のVTuberオタク男子高校生だ。
趣味はVTuberの配信を見ること。
性格は、
好きな食べ物は唐揚げ、嫌いな食べ物はピーマンだ。
俺の愛する陽炎カエデは、2年前から配信を始めた中堅〜若手の個人系獣人VTuberである。
ファンネームは陽エイ。
燃える炎のようなやや黄みを含んだ紅緋色のショートヘアーに獣耳と尻尾、黒色の瞳、美しい素肌でスタイル抜群の獣人。
茶色と白のゴスロリのような衣装に身を纏う。明るくて少しドジで、いじられ要素と愛嬌を持つ所が最高に魅力的だ。
そんな俺には特技があった…。
それは推しである陽炎カエデの事なら、大々的な所から些細な所まで、どんな魅力があるのかなどを全て語れる事だ。
推しであるカエデのためなら遠征だってするし、バイトで稼いだお金は推しのグッズに全て消え、スパチャを毎回送り、推しの出てきた配信は1コマ1コマの表情一つ一つや細部まで何度も確認するほどの愛があった。
だからこそ推しである陽炎 カエデの事ならいくらでも語れるし、活動当初から辛い時や楽しい時もファンとして喜びを分かち合えた事が嬉しかった。
そんな俺は、今日も今日とて推しであるカエデの配信を見る予定だ。
俺の部屋だが、壁一面には陽炎カエデのタペストリーが飾られ、ショーケースにはフィギュアたちが所狭しと並べられている。使い込まれた茶色の机の上には、どこにでもあるようなスペックのPCと大きなモニター。そして、その前に置かれたゲーミングチェア。
趣味の全てを詰め込んだ、まさに絵に描いたような隠れ家だ。
「さぁ。もうすぐ18時だし、カエデちゃんの配信が始まるぞ~!!今日は土曜日だし、バイトはないし、心置きなく配信を見れる!!耐久配信どんと来いだ!!」
俺は、心踊らせながら推しの配信を見るために椅子に座り、パソコンを手慣れた手つきで起動させた。
パソコンのファンが静かに回り始め、ディスプレイが部屋を明るく照らし出す。
推しである陽炎カエデはいつも決まって18時から配信を開始する。
「今日もカエデちゃんの配信楽しみだな~」
楽しみのあまり大きく独り言を呟いた。
外は暗いが俺の気分は明るいままだ。
動画配信サイトを立ち上げ、急いで登録チャンネルのリストを上からなぞる。
「おお!!ここだ!ここだ!見つけた!」
チャンネル登録をしてる事もあり素早く推しの配信を見つける事が出来た。
ようやく見つけた今回の動画のサムネイル。
サムネイルに映る推しの表情は、今にも泣き出しそうな儚げで、とてつもなく尊い"守ってあげたい表情"だった。
自分が望んでいた耐久配信な事もあり、心を躍らせる。
サムネイルから推しの尊さは充分に伝わるのだが、ふと文面に目を細めるとある事に気付く。
サムネイルには、こう記されていた
『【耐久配信】伝説のニンジンを求めるまでやめられないんですけど!?』
「ん?今日は~。あ、あのゲーム実況か。今人気だもんな~。」
それは、今回の配信は今大人気のゲームでもある「ハンラビィー」の実況をすることだ。
大人気で多くの実況者が配信してることもあり、サムネイルを見てすぐに気付いた。
大人気中のゲームであるハンラビィー、通称は色々な兎が伝説のニンジンを求めて冒険するアクションRPGなのである。
そのポップなキャラデザインや見た目からは想像もつかない鬼畜仕様から耐久配信にもってこいと数多くの配信者が実況する大人気ゲームだ。
「やほ~!!みんな~。あ~あ~。聞こえてる?」
そうこうしてると、待機画面から明けてマイクチェックのような一言が聴こえ、推しのカエデが3Dで姿を現す。
「きたきたきた!」「待ってたよ~」「3D最高!」「聞こえてる~」と、登場と共に、コメントの流れる速さは最高潮に達した。
「おおおお!!!今日も可愛すぎるぞぉぉぉぉぉ」
かという俺も、大きな独り言と共に、負けじと猛烈なタイピングで愛を詰め込んだスパチャを叩き込む。
「今日はあの鬼畜難易度で有名なハンラビィーの実況とか……最高かよ……。カエデちゃんの喜怒哀楽を余すことなく拝める神配信!!あああ楽しみすぎて心臓がもたない!!」
「カチカチカチ……よし!!書けた」
配信開始早々に5000円のスパチャを送った。
推しのためなら実質無料である。
「よしよし、聴こえてるみたい!!こんカエデ~!!皆を夕陽のように優しく照らす陽炎カエデです!!今日も配信に集まってくれてありがとうね!」
コメントの勢いはとどまる事を知らず、次々とコメントが流れていく。
「あ!ハヤテさん、配信始まったばかりなのに5000円もの高額スパチャ、本当にありがとうございます!!てか!いつも送ってくれるよね!?」
スピーカーから響く、聞き慣れた、けれど何度聴いても耳が幸せになる声。
認知ともとれるその嬉しい反応。
「えっと~。〜〜(コメント内容)……って、ちょっと待って? このコメントって絶対、私が苦しむのを楽しみに待ってるでしょ(笑)。」
もう、しょうがないなと言わんばかりのあきれ顔。
素干しをつかれても喜びに満ち溢れる俺の心情。
推しに呆れられたり、素っ気なくあしらわれる事も喜びなのだ。
……ふぅ(一呼吸置く)。
「気を取り直して。そうなんです!今日はなんとハヤテさんも!!楽しみにしてる喜怒哀楽が見れる鬼畜で有名なハンラビィーを実況するんです!!ほんといけるかな?不安だけどみんなのためにも頑張ります笑」
笑みを溢しながら話す推しの可愛い姿。
流れる前にスパチャを読んで貰えた事への喜び。皮肉じみた名前呼びすらも愛おしい。
「フフッ…。今日もなんて可愛いんだ!!」
不意に溢れた笑み。
推しのいつも通りの尊さに思わず無意識の独り言を言ってしまう。
独り言を言ってて気持ち悪いと思われるかも知れないが、オタクとはそういうものだ。許して欲しい。
俺は、そんな自分に誇りを持っている。
そうやってニヤケながらいつも通り普通に配信が進んで、引き続きコメントを打ちながら画面に釘付けになって見ていた。
配信から30分ほど経った頃だろうか。
突然事件は起こった。
「え~。まじこの敵強すぎじゃない!?皆もそう思うよね……ん?どうした?」
難敵に苦戦するカエデの姿。
すると、突如として画面が乱れる。
「え……? みんな、何でそんなに騒いでるの? ……えっ、トラッキング切れてる!?」
ふとコメント欄に目を落とすと、そこには異常な速度で流れる文字列があった。
「え、普通に素顔可愛くない…?(困惑)」「放送事故きたあああああああ」等々…
突如としてコメント欄が荒れた。
「え!?なに…ちょっとまって!!素顔!?え?」
顔出し事故が起こり、推しの素顔が公になってしまったのだ。
「やばっ、ちょ、待っ……!」
慌ててカメラを隠そうとした拍子に、さらにマイクをなぎ倒す鈍い音が響き渡る。
「え!?まって…この顔って」
俺は衝撃を受け、呆然としている。
何故なら推しの中の人の素顔は、幼馴染みでもある咲下 理恵だったからだ。
その瞬間、パソコンの画面から一筋の光が指した。
それと同時に俺は、意識を失った。




