3話 楽しい銃剣作り 下
「......これは驚いた。とんでもない才能の持ち主がいたものだ」
安全な観測エリアからモニター越しに戦闘を眺めていた俺は、思わず感嘆の息を漏らした。
ローズの戦い方は、まさに守りを捨てた超攻撃的なものだった。
迫り来るモンスターの群れに対し、彼女は一切の怯みを見せない。鋭い踏み込みで敵の攻撃を紙一重で躱し、流れるような動作で一気に懐へと潜り込む。
今も──────、
「そこッ!!!」
ガァァァンッ!!
ローズの気迫のこもった声と共に、市販の銃剣が巨大なモンスターの分厚い皮膚を捉える。彼女はただ斬りつけるだけでなく、刃が食い込んだ瞬間にトリガーを引き、銃剣の『斬撃強化』の魔弾をモンスターの懐へとゼロ距離で直撃させているのだ。
爆発的な衝撃がダンジョンの壁を揺らし、巨大なモンスターが紙屑のように吹き飛んでいく。
これは、とんでもなく面白いものができそうだな。
そう思いながら、俺は手元の測定器のモニターへと視線を落とす。そこには、彼女の両腕のデバイスから送られてくる、目を疑うような異常なグラフが表示されていた。
「平均の3倍、いや、4倍は『正方向』の魔力波長が大きい。攻撃力に特化させれば、そこら辺のモンスターなら一撃で灰燼と化すほどの出力が出るぞこれ......!!」
しかも、彼女の膂力と魔力出力が高すぎるせいで、俺が渡した市販の銃剣のフレームが既に悲鳴を上げ、ひび割れ始めている。
欲しいデータは十二分に取れた。これ以上やらせると武器が爆発しかねない。ここら辺で切り上げよう。
「もう大丈夫だ! 切り上げて休んでいてくれ!!」
なおも戦いを続けようとするローズに向かって、俺は少し離れたところから大声で呼びかける。
ローズは俺の呼びかけに気づいたようで、迫ってきていた最後の一体の首を難なく両断して倒し、チャージングハンドルを引いて空のマガジンを排出しながら、満足そうにこちらへと帰ってきた。
◇◇◇◇◇
「よぅし。ここからは俺の作業だ」
俺は大きく一息吐き、ぐっと腕を伸ばして背伸びをする。これが俺の、本気の作業に入る前のルーティーンだ。
ダンジョンのエントランスには、冒険者がすぐに銃剣を整備できるように簡易的な作業場が設置されている。どこにでもあるわけではないが、流石は世界の中心とも言えるロンベルのダンジョン。ここは設備がかなりしっかりとしている。
さて。先ほどの測定器から得た膨大なデータをもとに、彼女専用の魔弾を設計する。
魔弾の構成要素は、大きく分けて三つだ。
弾頭: 「撃つ」という不可逆の行為を、純粋な破壊力へと変換する部位。
雷管: その弾頭の力を、使用者の魔力で爆発的に増大させるための媒介。
カートリッジ: その全てを包み込み、撃ち出すための『弾』として形作る外殻。
これらを一から設計図に起こし、銃剣本体のシステムに情報を埋め込むことで、初めてその人専用のオーダーメイド魔弾が完成する。これが、かつてスミスさんが大成させた現代銃剣の基礎理論だ。
それを踏まえ、今回のローズのデータと照らし合わせる。
彼女の魔力量や質は、控えめに言って異常だ。これなら、暴発を防ぐための『安定性』の項目は思い切って度外視していい。とにかく、彼女の出力に応えられるだけの『火力』に全振りさせよう。
大体の構想を頭の中で組み立て、端末に向かって猛スピードで設計図を書き起こしていく。
──────それから数時間。だいぶ悪戦苦闘しつつ、何とか魔弾のシステムが形になった。
「......いや待て。これは、フレームが耐えられない、か」
確かに魔弾の設計は完璧だ。しかし、火力を引き上げすぎたせいで、市販の銃剣のフレームでは強度が足りず、数発撃っただけで暴発して自壊してしまう。こっちも抜本的に改造しなければ。
剛性を極限まで高める。旧時代の銃剣ならば、ここで重量の増加が避けられない問題として挙がっただろう。だが、その問題は現代の魔法科学によって既に解決されている。
昔の英雄が使っていたという『魔装』の技術。その発展により、今では軽くて丈夫な新素材が山のように発明されているのだ。今回はその中でも、比較的安価で加工しやすい『プラマジッティクス』という素材を使って、剛性と軽量化の両方をカバーする。
◇◇◇◇◇
「......ぁ、で、できた......ぞぉ」
俺が死力を尽くして組み上げた、世界に一振りしかない特注の銃剣が。徹夜の作業の末、遂に夜明けの光とともに完成したのだ......!!!!
──────すぐ横のベンチで、大口を開けて爆睡しているローズと共に、だが。
「......おーい、起きてくれ」
俺はフラフラの身体でベンチに近づき、爆睡しているローズの肩を揺すって起こした。
限界まで眠いが、この熱が冷めないうちにローズに試運用させて、起きたらすぐにフィードバックを受けよう。そうしよう。
「ん......あ、出来たのね。お疲れ様」
ローズは一瞬だけパチリとこちらを向き、短く労いの言葉を掛けた後、また眠そうにゆっくりと上体を起こした。
「俺は、もう限界だ......寝る。俺が寝ている間に、ダンジョンでその剣を実際に使ってみてくれ。起きたら、使った感想を教えてほしい。そこで最終調整して完成させるから」
「あ......!! ちょっと、リンネ......」
ローズが何か言いかけていたようだったが、俺はもうその声に返事をする余力すら残っていなかった。重力に引かれるように長椅子に倒れ込み、強烈な眠気に逆らえず、泥のように深い夢の中へと落ちていった。
◇◇◇◇◇
眠い。死ぬほど眠い。でも起きなければ。
「......ふぁぁぁぁああ」
「ずいぶん大きな欠伸ね。まあ、これだけの物を作って徹夜したんだから無理もないか」
身体を起こして目を擦ると、すぐ横には、すっかり目が覚めた様子のローズが、退屈そうに待っていただろう佇まいで座っていた。その膝の上には、先ほどまで彼女がダンジョンで試し切りをしてきたであろう、俺の作った特注の銃剣が静かに置かれている。
「......おはよう。それで、どうだった? 暴発はしなかったか?」
「ええ。文句の付け所もないわ。まさにアタシが欲しかった、理想のその物よ」
ローズは銃剣の柄を撫でながら、心底満足そうに笑った。
「そりゃよかった」
これで完全に依頼完了だな。
彼女という最高の使い手と出会い、俺の技術の全てを注ぎ込んだ、ロマン溢れる最高の銃剣。この平和な時代にこれほどの武器が活躍する場など、せいぜいこのダンジョンの奥深くくらいしかないだろうが、それでも技術者としては感無量だ。
「よし、それじゃあ片付けて帰る──────」
俺が立ち上がり、そう言いかけた、その時だった。
ピキッ......。
ガラスにヒビが入るような、ひどく不快な音が世界に響いた。
「......え?」
見上げたダンジョンの天井、いや、空が。空間そのものが。
俺たちの謳歌していた、この平和で退屈な世界のあちこちに──────まるで巨大な爪で切り裂かれたかのような『無数のひずみ』が、唐突に発生した。




