2話 楽しい銃剣作り 上
さて、本来の形に近い銃剣を作るのに必要なものは、大まかに以下の通りだ。
使用者の魔力波長のデータ、専用の魔弾、マガジン、そして剣身。
これさえ揃えば、あとは銃剣のフレームに組み込むだけでいい。形を作るのは簡単だ。
今、市販されている銃剣には、そのユニークさがない。汎用性を高めるため、とにかく誰にでも扱えるように大衆向けに作られているのだ。
難しいのは、本人に合わせた特別な銃剣の調整だ。元々、伝説の時代に使われていた魔弾は、今のようにあらかじめ用意されているものではない。術者の魔力を使って、その場で生成するものだったはずだ。
それを可能にする、最高にロマンのある武器を、俺が作ってやる。
「......まずは、ダンジョンに行って戦闘データを集めよう。実力を見せてくれ」
出会って間もないというのに、俺は理想の銃剣を作れるかもしれないという喜びで浮き足立ち、ついワクワクした口調で話しかけてしまった。
「それが第一歩、ってわけね。アタシはこれでも小さい頃から戦闘のトレーニングを積んでるの。宝の持ち腐れにはならないと思うわよ」
ローズはにこっと笑ってそう返答する。確かに、そこら辺の平和ボケした冒険者とは違い、彼女の纏うオーラ、立ち姿の隙の無さは凄まじいものがあった。
......待てよ。
そういえばさっき、ローズ=アーゼリアって名乗っていたよな。
アーゼリア、か。
......んんんッ!?
「あの......。もしかして、あの『アーゼリア家』の子孫、ですか?」
「お、よく知ってるね。そう、アタシは一応アーゼリア家の人間だよ」
あああああ......。
アーゼリア家。つまりは、かつて勇者を支えた一族であり、あの偉大なる魔法科学の始祖”スミスさん”と共に戦ったとされる、伝説の魔法使い、ソフィア=アーゼリアの子孫ってことか!?
「あはは......」
思わず顔が引きつる。とんでもない名家じゃないか。万が一、失礼でも働いて機嫌を損ねたら、一族の力で社会的に消されるんじゃないか?
「そう遠慮しないでよ。アーゼリア家は既に歴史的な役割を終えてるし、ちょっと有名なだけだから」
固まる俺を見て、ローズはカラカラと笑いながら手を振った。
「それに、アタシはそういう家柄とかあんまり興味ないしね。だから気楽に接してよ」
そう言われても、相手はあのアーゼリア家だ。
頭の中がぐるぐると回るうちに、俺は一つの結論に達した。
──────深く考えるのは、やめよう。
俺は魔法技師として、俺にできる最高の仕事をするだけだ。
「よし。じゃあ切り替えて、ダンジョンに行きますか!」
ローズの元気な号令と共に、俺も強引に思考を切り替え、伝説の始まりとなる武器を作るための第一歩を踏み出した。
◇◇◇◇◇
「......久しぶりに来たな。ダンジョン」
俺たちは大通りから外れ、整備された巨大な地下施設──────ロンベル・ダンジョンのエントランスへとやってきた。
かつては死と隣り合わせの魔境だったらしいが、今のダンジョンは奥の奥まで完全にルートが整備されている。冒険者はその安全な誘導路に従って湧いてくるモンスターを倒し、倒した分だけ国から報酬がもらえるという、まるでアトラクションのようなシステムになっているのだ。
「じゃあ、まずはこの機械を付けさせてくれ」
俺は持参したバッグから、黒光りする二つの腕輪のようなデバイスを取り出した。
「”魔力計測器”だ」
......これは本当に高かった。ローンを組んで買った時は泣きそうになった。
じゃなくて、これから最高の銃剣を作るためには絶対に欠かせない、超大切なモジュールだ。
「これを両腕に付けながら戦うことで、その人の基礎的な強さや魔力の波長、得意な魔法の属性まで、全部データとして可視化できるという優れものってわけだ」
「なるほどね。これを付けながら戦うってことね。オーケー」
ローズは嫌がる素振りも見せず腕輪を装着すると、軽く跳ねて準備運動を始めた。既にやる気に満ち溢れているのが伝わってくる。
「それから、今日は『これ』を使って戦ってほしい」
俺はさらにバッグから、現在市販されている量産型の銃剣と、予備の魔弾が詰まったマガジンを3つ取り出してローズへと渡した。
「マガジンのサイズは10発。剣の柄の横に差し込む格納タイプだ。撃ち尽くしたら、その横にあるチャージングハンドルを引けば、空のマガジンが排出されて次の魔弾がリロードできる」
「了解。操作は簡単そうね。......じゃあ、ちょっと行ってくる」
ローズは重いはずの市販銃剣を羽のように軽く片手で振り回すと、自信に満ちた笑顔をこちらに向けた。
そうして、アーゼリアの血を引く彼女の、計測器を用いた力試しが始まったのだ。




