1話 『明日』の世界
運命の歯車は、残酷なまでにその調律を狂わせ、この”現在”へと分岐した。
──────さあ、絶望に浸ろうか。
◇◇◇◇◇
世界は、平和だ。
と言っても、俺のおじいちゃんのおじいちゃんくらいの時代には、世界を脅かすほどの組織がいたらしい。まあ、今の俺には関係のない話だが。
「面倒くさいが、やるかぁ」
眠い目を擦り、家を出る準備をする。俺、リンネは、このロンベルの地で魔法技師を務めている。街のインフラを支える道具や素材を作るのが、俺の仕事だ。
いつも通り作業着に着替え、軽くストレッチをする。これが毎朝のルーティーンだ。
「あれ? 道具箱どこにやったっけか」
俺は魔法技師だが、そこまで魔法が得意なわけじゃない。こんな平和な世の中で、魔法を極めようとするやつは珍しい。俺も平和を享受する一人として、この『魔法サポートモジュール』に頼り切りだ。
これを作ったのは、俺の憧れの人物。言い伝えに出てくる勇者や剣聖と共に戦い、今の魔法科学の始祖となった伝説の鍛冶師──────スミスさんだ!
モチベーションってのは、やっぱり憧れを思い出すことで湧いてくるよな。
──────そんなことを考えながら、俺は自宅である二階から、下にある工房へと足を運んだ。
借りた当初はかなりの薄暗さだったが、増設したランプのおかげで、室内はまあまあ明るい。客から見えるカウンター周りだけは綺麗に整頓しているものの、それ以外の作業スペースは部品や工具が散乱し、ひどく乱雑な状態になっている。
......片付けるのいっつも後回しにしちゃうんだよな。
「ん? 珍しいこともあるもんだな」
そんな工房の前にいたのは、美しい金髪の女性だった。ここに来るのは大体、馴染みの整備のおじさんくらいだ。こんな朝早くに女性が一人で来るなんて、めったにない。
背が高いな。俺より大きい。これには思わず圧倒されてしまう。
「い、いらっしゃい。どんなご用件ですか?」
女慣れしていない俺は、不意の来客に思わず目が泳いでしまう。接客業として敬語を心掛けてはいるが、どうもむず痒いし、落ち着かない。
「ここには、”銃剣”って置いてある? 色々と回ったんだけど、アタシの欲しいのが無くてね」
銃剣、か。なかなかセンスのある人だな。
伝説の鍛冶師、スミスが作り遺した、現在のダンジョン攻略の花形。それが銃剣だ。
銃剣は魔弾を装填、発動し、斬撃を強化する剣。魔弾は量産できるし、ダンジョンに湧いてくるモンスターなら、それを使えば簡単に倒せる。
今なお存続している冒険者のお供に最適な代物だ。なぜ未だに冒険者が居るのかは忘れてしまったけどな。何だったか、ダンジョンを壊すと何かが起こるとかだった気がする。
しかし、その銃剣は最適化されすぎており、ロマンも何もない。やっぱり原典は、今はどこに行ったのかわからない二振りの銃剣。
──────「ゲヴェニア」
──────「ピースメーカー」
その二つに憧れる人は少なくない。この人もその口だろう。
そんなことを考えていると、その女性は、とびぬけて明るいハキハキとした口調で切り出した。ポリポリと頭を掻きながら、少し考えた後、さらに言葉を続ける。
「アタシの勘が、ここならいい物が売っているって告げていてね。どう?」
......確かに、ここはロンベルの大通りから一本奥に入った目立たない場所にある。悪い意味で「珍しい物が売っていそうな店」という雰囲気がプンプンしているだろう。
だが、銃剣か。今は置いていないが、それこそ俺の憧れそのものだ。研究なら誰よりもやっている。 皆は「あんな物もう使うことはない」と平和ボケしているが、だからこそのロマンがあることを分かっていないだけだ。
「ない。......が、俺なら作れる、かもしれない」
その返答を聞いた瞬間、女性は「ホントに!?」と大げさなリアクションを見せ、目を輝かせて身を乗り出してきた。俺はそれを手で制止し、カウンターの上で静かに手を組んで、交換条件を告げる。
「ここには、材料も人手も足りない。だから、手伝ってくれ! それなら、ご所望の物が作れるかもしれない」
その条件を聞くと、女性はパッと花が咲いたような笑顔になり、二つ返事で大きく頷いた。
「よし! じゃあよろしくな! アタシはローズ。ローズ=アーゼリア。アンタは?」
こうして、俺たちの協力関係が始まった。
みなさん、こんにちは。一ノ瀬隆です。
この作品は、「百折不撓のアルゴリズム」シリーズ第二作となっています。
先に前作を見ていただけると、更に面白さが増すと思いますので、よかったら見てください!
百折不撓のアルゴリズム-UnderLing-もよろしくお願いします!!!!




