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天使の願いは聖夜に叶う  作者: 川崎 春


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7

 サビアの最初の婚約者は、王が手段を択ばずに王女から引き離したのも納得の屑だった。そして余命の少ない妹も、それを免罪符に好き勝手する屑。そして屑に心変わりした二番目の婚約者も屑。

(だめだ。この天使は屑に狙われている!)

 ノエルは早く怪我を治して、サビア(てんし)を守らなくてはと強く誓った。


 そこからのノエルの回復は驚異的で、もう復帰できないかも知れないと悩んでいたのが嘘の様だった。

「俺には崇高な使命があるので」

 リンディア夫人はにっこり微笑んだ。

 騎士として復帰したノエルは、国境付近に戻るには筋力が落ちているとして、屋敷の警備隊で鍛錬をする事になった。


 屋敷の警備は主に国境付近に十五年以上居たベテランが大半を占めていて、若い騎士は居ない。嫡男を身を挺して守ったノエルは、ベテラン騎士達に可愛がられていた。

 丁度短い春が北国に訪れる時期で、サビアはこの頃になると屋外であれば屋敷の敷地で食事が出来るようになっていた。

 サビアは庭でサンディと共にランチボックスを拡げて一緒に食べる様になった。


 十歳のサンディは、サビアを一目で気に入って懐いた。サンディの婚約は政略で既に決まっていて、相手はサビアの母国のハウザー伯爵家の嫡男であるヘクセンだ。

「ヘクセン様にお手紙を書きたいの。あちらの言葉で書けるかしら?」

「勿論です。一緒に練習しましょう」

「やったぁ!」


 嬉しそうに話ながら食事をする二人を、ベテラン騎士達は微笑ましく見守っている。……その様子を見て緩んだ顔をしているノエルも。

 ノエルの恋心は一目瞭然だったが、サビアが婚約関連のいざこざで傷つき母国を出てきた事は屋敷全体で情報共有されていた。これ以上サビアを傷つけない為にリンディア夫人がした事だった。

 だから屋敷でこの話題は出ないが、夜になると騎士達はじれじれな二人の様子を話題に酒を飲むのだ。


 ノエルは騎士達に呼ばれても酒場に行かない。

『フォトンさんを一人にできませんから』

 そう言って軽い足取りで帰って行く。そして二人で食事をするのだ。

「もう半年近くも二人で飯食ってるのに、名前すら呼んでないのかよ」

「あ~、本当にじれったいなぁ」

「もうちょっと何とかならんのか、もどかしい」


 サビアは、婚約ありきでしか男性と親しくした事がなかった。

 唐突に始まったノエルとの交流は不思議だったが、過去の自分を見つめ直す気持ちになれた。

 ノエルの無骨な物言いは、サビアに厳しい事もあったけれど嘘偽りのない心配と優しさに溢れていた。ノエルを知って、過去の婚約者達との違いを知ってしまった事が一番の原因だった。


 サビアはエントと婚約した時、恋心を優先して我慢ばかりしていた。それなのにエントがサビアの願いを聞いてくれなかった事がとにかく辛くて……報われない可哀想な自分を否定したくて、意固地になっていた事に気付いた。


 学校には通っていた頃、エルシャに会いに行っていた事が原因で、同年代と交流が少なく評判も良くなかった。あの頃、自分しかエルシャの友人は居ないから仕方ないと思っていた。しかしクロースの様に学校の女生徒を紹介しても良かったのだ。けれど、サビアはそうしなかった。


 何故なら、サビアはエントにまだ未練があって、他の女性と会わせたくなかったのだ。そして……彼と彼の妹にこんなに尽くしている自分を無碍にした事実に気付き、謝って欲しかったのだ。

 クロースとの婚約後、エントへの気持ちも薄れたと言うのに、続けたそれのせいでクロースとの未来も潰してしまった。

(私、沢山間違えてしまったのだわ……)

 それに気づいてから、サビアは屋敷での食事や他の人達との関わりに対する抵抗感をゆっくりと解消していったのだった。


 短い夏が終わって秋になる頃、ノエルは出会っていた頃に食べていた量の二倍を平らげ、体が一回り大きくなっていた。

「十分たくましいと思っていたのですが……その、それが怪我をなさる前のお姿なのですか?」

 ノエルはちょっと笑いながら頷く。

「お姿って。ええ、そうです。……真面目な話、寒いので痩せていると辛いんですよ」


 異民族達に対して辺境伯は、自領への移住を繰り返し勧告しているが、彼らはそれを無視して国境を侵犯し、略奪を繰り返している。被害を抑えるべく北限の村を南下させてしまうと、異民族が南下してくる。そして略奪を繰り返すのだ。だから引くに引けない事情があるのだ。

「そうは言っても、あちらに居た部族の半分は既に辺境領に移り住んで定住しています。根気よくこれからも、小競り合いをしながら説得するしかないですね」


 そこでノエルは真面目な表情になって言った。

「俺は……来年の春から国境に戻る事になりました」

 サビアは驚いてノエルを見る。いつかはそうなる分かっていても、サビアは嫌だった。

(嫌……そんなの嫌!)

 言葉が出ないまま、サビアはボロボロと涙を流していた。

 ノエルは身を乗り出して、サビアの目元を指で拭う。

「泣かないで。俺も行きたくないです。でも、俺はリンディアの騎士だから」

「あなたも、私を捨てるのですか?」

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