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天使の願いは聖夜に叶う  作者: 川崎 春


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6

 翌日、サビアがサンディの元で家庭教師をしている間に、リンディア夫人がノエルを訪ねて来た。

「奥様、俺はここに居てもいいのでしょうか。天使が隣の部屋に居るのですが」

「いいに決まっているじゃない。というか居なさい。早く傷を治してあの子を守るのよ。あの子は屋敷に住めないのだから」

「どうしてですか?」

 リンディア夫人は苦い表情で、サビアがこの国に来た事情をノエルに話した。

 ノエルはあんなに可愛い女性に何故そこまでの事が出来たのか、元の婚約者達が全く理解できなかった。


「サビアちゃんは、優し過ぎるのよ」

 ノエルが足をひきずっているのを見ただけで、椅子を引き、茶を淹れ、食事を共にして片付けまでしていったサビアを思い出していた。

「そもそも次の婚約に差し支えるから、縁の切れた家同士は関係を断つべきなのよ。それなのに、親友だの、他に友達がいないだの、いつもありがとうだのと……彼女が逃れられない様に縛り付けていたみたい。サビアちゃんの次の婚約者は、次男で家督を継げない人だったそうよ。元婚約者との関係を疑われていたから釣書がこなかったみたいね」


 それはそうだろうとノエルは思った。他所の家の子を産まれては困ると思うのは何処の家でも同じだ。

 サビアは異国の文字で手紙が書けるほどに頭がいい。……分かっていたが、元婚約者の妹の為に良縁を諦めたのだろう。

「そこまでしたのに、その次男坊までもが彼女を裏切ったと」

「そうよ」


 リンディア夫人はため息交じりに言う。

「サビアちゃんは、元婚約者の家で家族同然と言う括りに入れられてとても辛い思いをしたせいか、お姉さんの嫁いだ伯爵家に滞在中も、本宅の部屋ではよく眠れないしご飯も食べられなかったそうなの。別宅に移ったら安定したという話も聞いているわ」


「重症ですね……」

 リンディア夫人が何故ここにサビアを住まわせているのか、ノエルは納得した。

 ノエルが礼を言うと、恥ずかしそうに笑う様子を思い出す。ぐっと拳を握ったノエルは言った。

「俺、頑張って治します」

 リンディア夫人は満足そうに微笑んだ。


 騎士としての誇りを失っていたノエルは、その日から真面目に治療を始めた。

 リンディアの領主街は、辺境伯家に仕える騎士達が怪我をすると湯治に来ている大規模な温泉街である。あらゆる場所に湯治場が点在している。

 ノエルは湯治に行く気力もなく、部屋でぼうっと過ごしていたのだが、嘘の様に毎日通う様になった。


 更に規則正しい暮らしをするようになった。サビアが夜に戻ってくると食事を一緒にするようになったからだ。サビアはノエルが嫌だと言わない様子から、軽く片付けまでするようになった。

(これは……なるほど)

 ノエルはサビアの不幸の源を理解した気がした。


「お昼も帰ってきていますよね?」

「はい。実はお屋敷でご飯を食べるのが、ちょっと苦手なんです」

 ちょっと困り顔でサビアは言う。

 サビアは家庭教師に出かけても、昼にはこちらに戻ってきて食事をしている。その時はノエルの部屋の前に食事の籠を置くだけで一緒に食事はしていない。

 サンディに出したテストの採点をしたり、午後の授業の予定を確認しているからだ。


「シュトレさんは、リンディア家の腹心の部下だとお聞きしています」

 ノエルはただ黙って頷いた。

「私の事情……ご存じなんですよね?」

 サビアは悲しそうに言う。

「分かっているんです。大勢の方に気を使わせてしまっているのは。でも……まだ上手くできなくて」


「上手くできなくていいと思いますよ」

 ノエルの言葉にサビアは驚いて目を丸くしている。

「……失礼ですが、あなたには普段から頑張ってしまう癖がついている気がします」

 サビアは何かを思い出したのか、苦い表情になって視線を逸らした。

「そう、かも……知れません」

 特に金銭面で困っていない、どちらかと言えば裕福な子爵家の令嬢だと聞いている。

 それなのに配膳や部屋の片付けを普通にこなせてしまうし、侍女やメイドが居ないのに一人暮らしをしていて苦労している様子もない。


(この子は……元婚約者と本気で結婚するつもりだったんだ。平民になって支えようと準備していたから、ここまでできてしまうんだ)

 ノエルは胸の痛みを隠して続けた。

「無理をして支えねばならない婚約者もその家族もここには居ません。頑張らなくていいんです」

 サビアは、しばらくノエルを見てから言った。


「何かしていないと……落ち着かないんです」

 サビアは目を潤ませながら言う。

「私……最初の婚約者に初めての恋をしました。その時の私は十四歳であの人は五つも年上。だから恋が叶うとは思っていませんでした。でも一度くらいは婚約者らしく、二人で会いたいと……婚約が解消される前にお願いしたのです」

「ん?婚約していた時に二人で会った事がなかったのですか?」

 サビアはハンカチで涙をぬぐいながた小さく頷く。

「仮の婚約者でしたので」

「そんな馬鹿な……王女様にその子爵令息を諦めさせる為の婚約だったのですよね?どうやって諦めさせたのですか?」

「いつも、彼と彼の妹と一緒に外出していて……その様子を見られて諦めたと聞きました」

 ノエルは呆れてしまった。

「それで、二人で会いたいと頼んだら断られたと」

「はい」

 ノエルは天を仰いだ。

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