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醒める  作者: 沙羅双樹
7/7

おわり


いつものように宿を出て

そして、いつものように街歩きをする振りをして

教会へ辿り着く


そこで、男の両親からもらったお金を寄付として渡す

そして、その代わりに男の生家への手紙を託す

老齢のシスターは何も言わず受け取ってくれた


それから、毎日少しずつ作り

売った魔法薬で買ったチケットを持って船に乗る


息を引き取る前、祖母がくれたのは

祖母が通った学び舎への推薦状


その学び舎のある隣の大陸の国に行くというこの船が

私の、新たな進む道



私は祖母から仕込まれた錬金術師だったが

魔力が扱えないから、祖母がいないと作れないモノが多かった


でも、もう、魔力は使える


あの日、ひどい頭痛に苛まれたその時に私は()を知った

そして、魔力をつかんだ


私がこんな、親に似ない容姿をもって生まれたのは

前世を色濃く残した魂とそれによる魔力の性質のせい


それをあの日、前世を思い出し、魔力を己のものにしたとき

理解した


理由はない、神様に会ったわけでもない


ただ、そう理解した



大陸一の錬金術師で、でも、その偏屈さで

宮仕えはしない、とあの辺境に居を構えていた祖母は

私にあらゆる便利な道具を与えてくれていた


山一つは軽く入るという、時間停止の収納袋に

ブレスレットに変化する錬金道具一式、

身を隠すためのマントや自動で身を守るアクセサリーなどなど


あらゆる、私が身を守るために

生きていくために必要になるであろうそれらを

祖母はその技術のすべてをつぎ込んで

私専用の、決して誰にも分からない、私以外使えない道具を

私のためだけに作ってくれた


それは魔力をろくに扱えない私にとって

最高の守りで、最大の庇護


だけど、男に会う前の私は生きていきたいと思えなくて

ただ、それらを祖母がお守りとして掛けてくれたネックレスに封印したまま

流されるように、祖母との過去を繰り返していた



だけど、あの日、男の妻を見て

男の、あったはずの人生を知って

私の唯一が、一部が剝ぎ取られる瞬間、私は絶望の中、前世を思い出した


私は私として生きていかないといけないと、覚悟した



男に愛され、男の妻として

あの、何もない、祖母から受け継いだ9割の技術を封印したまま

男以外から無価値な女として生きていくつもりだった


端から見れば、つまらない、そして、ありふれた人生


でも、あの時の私にとって、いや、記憶や魔力を取り戻した今でも

もし、記憶や魔力を捧げて、男以外からあの無能と無価値と蔑まれていたけど

私にとって男が、男にとって私が確かに唯一だったあの日々に戻れるなら

一切躊躇いなく、それらを捨てるといえるほど夢のような日々だった


大切な、宝物のような日々だった



だから、あの夢のような日々を汚されないために

愛した男が、そして、男の愛した私が失われる前に

私は私のまま生きていく


夢は醒める


そう、もう私は知っている。


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