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醒める  作者: 沙羅双樹
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たからもの


馬車に乗る前、それまでずっと黙ってぼうっと立っていた男が

ようやく起動して、私の体をいつものように包み

いつもよりずっと強く、痛いほど強く抱きしめる


そして、まるで願うように私の耳元にささやく

「必ず、必ず、いつか辿り着く」



私の感情を読めるのは祖母と男だけ

泣きたいのに泣けない私を泣かせてくれたのは男だけ


それでも、私は男の手を放す


それが私にできる唯一の、ただ愛していた、その証明


そして、男との日々を愛し続けることのできる道


そんな私を、私の考えを許してくれるのは

やっぱり、男だけ


きっと、これからも、ずっと、男だけ



生国との境にある領にある海辺の、男の国の最大の商業都市


男の生家に行く道で、私が体調を崩し、一か月いた場所


男がまるで今を惜しむように私を恋人として

今まで以上に慈しみ、愛を差し出した場所



この場所に何日か滞在したいと申し出る私を

御者や護衛たちが拒否しないのは

私の願いを聞くように指示を受けたからだろう


そして、憐れんでいるからだろう



何日か静かに過ごし、少しずつ都市をぶらぶらする


男と行った店、男と手を繋いで歩いた海辺


それを少しずつ、少しずつ、一人歩く


はじめは悪目立ちを恐れ、離れて付き添っていた護衛たちも

私が過去とのお別れをしているのだと気づくと一人にしてくれた


男の家族も、男の家の人たちも本当に善良で、誠実だ


だから、男はあんなにやさしく、そして、思慮深く、何より暖かい


男の侍従が来る前から、男は時折ぼうっと考え込んでいた

そして、男の侍従が来て、話を聞いたとき

表情は変わらなかったけど、男が何かを掴んだのに気付いた


責任感が強く、誠実な男が思い出してしまった己の人生に

そして、私への愛に苦しんでいたのは気づいていた


互いに迷って、惑って、でも、日に日に感情を鈍化させる男に

私が耐えられなかった



18になったら、あの森の沢で二人だけで結婚の誓いを立てる


12で出会って、妹のように見守ってくれた

町での私の扱いに憤って、私の様子をできる限り見に来るようになった

13になる頃には男は町で私を一人にしなくなった

14になる頃には汚名をかぶっても私の所で暮らすことを決めた


15になった頃にはもう互いが互いなしでは生きられなかった


でも、男はケジメを付けたがった

18の成人まで、妹のような恋人として愛する

そして、結婚の誓いを立てたら、妻として愛する


男のそんな律義さが私にはよくわからなかったけど

ずっと一緒ならいい、そう思っていた


そして、ずっと一緒だと、何も変わらない、と

その時はこんな日が訪れると私も、きっと男も思わなかった。



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