醒める
この世に生まれて17年
今世では一度も体験したことのない柔らかな寝具に包まれて
快適なはずのその場所で目が覚めたのは
すっかり夜が更けた頃
何もかもが高級で、何もかもが上等
でも、作業場を除けば、二間しかない狭くて
そして、古くて、隙間風の入るあの森のそばのボロボロの家が
大きな体の男と身を寄せ合って寝ていた、あの硬く小さなベッドが
恋しくて、涙が零れる
ぼうっと涙を流す私を見つけたのは部屋に入ってきた男
男は慌てた様子で私の元へ駆けつけ、いつものように抱きしめる
でも、もう同じじゃない
頬に当る男の着ている服の柔らかさがそれを私に伝える
「大丈夫だ、ずっと一緒だ」
男がそう繰り返すのは昨日までと一緒
男のその言葉が、男から伝わる暖かさが
いつも私の冷え切った体と心を包んでくれた
でも、もう、そうじゃない
翌朝、男が着ていたような上等な服を渡す侍女たちに断って
昨日まで来ていた服をいつも通り着た
ドアから出ると、男が待っていた
男は私の姿を見ると、
いつものように仕方がないというように笑って
いつものように私に手を差し伸べる
私は一瞬迷って、でも、その手を取った
それが最後だとわかっていたから。