小箱と鍵穴
昔々、ある所におじいさんとおばあさんが暮らしていました。
おじいさんは、山へ柴刈へ。
おばあさんは、川へ洗濯に行きました。
いつものように川で洗濯をしているおばあさん。
すると、その川から小箱がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。
その作りがよさげな小箱を拾い上げると、その小箱には鍵穴が付いていました。
もしやこの中になにかお宝がと思い、
その小箱を持って帰り、帰ってきたおじいさんに斧で壊してもらいました。
すると、その小箱の中からは一つの鍵が出てきました。
何に使う鍵なのかわからず、その鍵は取っておくことにしました。
翌日。
朝起きると、昨日壊したはずの小箱は元通りの原型に戻っていました。
それに仰天するおばあさんとおじいさん。
そして、その鍵穴を見ておばあさんはもしやと思い、昨日の鍵をその穴に差し込みました。
すると、ガチャっと鍵は開き、中からは大きな小判が一枚出てきました。
それにおばあさんは大喜び。
おじいさんはその箱が不思議でならず、箱の蓋を閉めて開け直そうとします。
が、その小箱は開きません。
それをあばあさんに伝えると、驚いた様子で鍵穴を見やり、そして何かを閃いたかのようにその鍵穴に先程の鍵を差し込みます。
しかし、その小箱が開くことはありません。
おばあさんは、またその小箱を壊せばいいんではないかと思い、斧を持ってこようとしますが。
その間におじいさんが、差し込んであった鍵を持ってガチャリと鍵を開けてしまいました。
それにおばあさんはビックリ仰天。
そしてその小箱を開けると、・・・・中からは一個の大福が出てきました。
それを見て、おじいさんは大喜び。
そんなおじいさんを見て、呆れるおばあさん。
再度その小箱の蓋を閉じて鍵を差し込みますが、やはり開きません。
おじいさんにやらせるも、結果は同じ。
そこでおばあさんは思いました。
この小箱、一度開けた者が開けようとするともう開かないのでは、と。
そうしてそれを確かめるべく、おばあさんは小箱を持って下の家のおばあさんの家を訪ねました。
そして、そのおばあさんに鍵を渡し、小箱を開けさせるおばあさん。
すると、思っていた通り。
ガチャっと音がなり、小箱は開きました。
そして、おばあさんは目を光らせながらその小箱の中を覗き見ると、そこには・・・・・。
なにもありませんでした。
小箱を振って覗き込んでも、やはりなにも出てきはしません。
それを見てガッカリするおばあさんを見て、箱を開けたおばあさんはなんのことやら。
仕方がなく、その箱を持って帰ろうとするおばあさんは、帰り道にふと思いました。
『この小箱は、私やおじいさんが開けた時には、私らが欲しかったモノを出した。
あの家のおばあさん、もしかするともうボケていて、欲しいモノが分からなくなっていたりするんではないか・・・・・?』と。
そう思い、おばあさんが次に向かった先は、貧乏な家に住む近所の男の家。
寝そべっている彼に、その小箱を開けさせると・・・・。
なんと、小箱から溢れ出すほどの小判が出てきだした。
そんな夢のような光景を前にして、目を輝かせる2人。
小箱から出てきていた小判が止まると、男はその小箱を無理やり奪おうとしだす。
そうはさせないと、おばあさんは小箱を奪え返し、それを持って外へと駆け出した。
小箱を抱えながら、おばあさんはこれでようやく確信した。
この小箱には、開けた者が望むモノがなんでも手に入るのだと。
小箱を手に、おばあさんは街へと出る。
街には大勢の人がいて、おばあさんは片っ端から小箱の鍵を開けてもらった。
しかし、なかなかさっきのように小判がざっくざくといったのは出てこない。
日が暮れてきた頃、おばあさんは街から出る最後にベンチに座る男に小箱を開けさせる。
小箱から出てきたのは、小さいビー玉。
大きくため息を吐くおばあさんは、そのビー玉を男に渡して帰り道を帰っていく。
が、しかしそれと同時におばあさんは思い出した。
この小箱は開けたモノが欲しいモノが出てくる。
つまり、街にいるような人達なんかではなく、最初のように貧乏な者達を狙えばよかったんだ!と。
それを思い返った途端、こうしてはいられないと、おばあさんは慌てて貧乏人らの元へと駆け出して行った。
日は暮れて、辺りはすでに暗くなった頃。
おばあさんは明らかに貧乏そうな家を見つけて、その家の中へと入りこんでいく。
その家の中には、まるで座敷童のような男が一人、ボソッと座っていた。
その男におばあさんは鍵を渡しこういった。
「この鍵をこの箱の鍵穴に差し込むんだよ。いいかい、そうすればお前の欲しいモノが手に入る」
そうして、無気力なその男性に鍵を渡し、男性はその鍵穴に鍵を差し込んだ。
ガチャ。
小箱の鍵が開き、おばあさんは目を輝かせながらその小箱を開ける。
すると、中からは・・・・・なにも出てこなかった。
なんだい、なにも出てこやしないじゃないか。
そう言って、その男の方を見ると、男はいなかった。
その瞬間、おばあさんはゾッとして、小箱を持って一目散にその場を離れた。
外はもう真っ暗。
おばあさんは、小箱を捨てようと決意し、そして森でその小箱を叩き壊した。
それと同時に、おばあさんは飲み込まれてしまった。