3.3
そして最後五組目、祥平さんの出番が来た。
今日の中で一番の人の多さだ。いや、今日だけじゃない。
私が働いてからここまでの人が集めているのを見たことがない。
男女様々。
ここから一切動けそうにない。ステージは見えるけど、この薄暗い店内と人ごみで祥平さんから私を探すことは難しいんじゃないか。
登場までにいろんな人たちの会話が聞こえる。
「本当に久しぶり」
「祥平さんに会えるの嬉しすぎる」
「また一緒に呑みてー」
「どんくらいぶり?」
「本当昔お世話になってさ」
会話の内容からマスター同様、みんなに愛されていることが分かった。
「人気者なんだな、祥平さんって」
自分がすごい人に助けられたんだな、と改めて感じていたら祥平さんの出番がやってきた。
歓声がすごい。
柱で姿は見えないけど、マスターの声も聞こえる。みんな祥平さんの登場に歓喜していた。
話すことなく早々に始まった祥平さんの歌は、前の4組の比じゃなかった。
うますぎる・・!!
なんだろ、上手いだけじゃない心臓をつかまれるこの感覚は。
感情が揺れた。
盛り上がっている会場の中で思いっきり歌う祥平さんはいつも見る姿とはまた違ってすごく楽しそうでかっこよかった。
「みんな久しぶり。元気してるー?ってみんなが僕に聞きたいことだよな笑。」
彼の心地よい声と調子のよいMCに歌だけじゃなく会場が飲まれていく。
50分なんてあっという間だった。
「最後にオリジナルソング聞いてください」
「チョコレート」
笑っている店内の中であたし一人だけが涙を流していた。
気のせいかもしれない。この人ごみの中で歌い終わった彼は私をみて悲しそうな目で優しく微笑んだ。




