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プレイボールⅥ

 翌日克也が登校すると状況はさらに悪化していた。

 嫌悪感に満ちた女子生徒の視線が突き刺さり、克也の前後左右の机は真っ直ぐ並んでおらず、明らかに克也の席から距離がとられている。もちろん挨拶が返ってくることはない。


「やってくれたな有名人」

 昨日の再来か、進次郎が背中を叩きながら声をかけてきた。

「今度は覗きかよ、克也は勇者だな」

 その一言に克也は全てを理解した。

「違う!野球部の部室に行ったら女子が着替えてたんだ。女子野球部があるなんて知らなかったんだ」

「ウヒョー、今度は着替えでバッタリかよ。なぜ克也ばかり……羨ましいぜコンチクショー」

 克也の苦労など知らない進次郎は本気で悔しがっていた。


「なあ進次郎、女子に好かれたいならおれと話をしているとまずいんじゃないか」

 女子の態度を見るに、噂のせいで自分は嫌われているだろう。今の自分とは関わらない方が学園生活を楽しく過ごせるはずだと克也は思った。まして進次郎は女子が多いという理由でこの高校を選んだくらいである。

 にもかかわらず気さくに声をかけてくる進次郎。

(進次郎本当に君って奴は……)

「心配すんな。俺も昨日やらかしちまって女子から避けられてんだ」

 進次郎口から衝撃の事実が告げられる。

「何をしたんだ?」

 昨日克也が生徒指導室に行った後、進次郎は浪漫を求めて女子に声をかけまくったが全て玉砕したという。

「一体何て声をかけたんだ」

「別に普通だぜ。一緒にスポーツしようと誘っただけだ」

「どうしてそれで避けられるんだ」

「ベッドでやる裸のスポーツだけどな」

「普通じゃねーだろ!」

 進次郎の言葉に思わずツッコミを入れる克也。

「一人じゃ不安なら友達と一緒でもOKと言ったんだがことごとく……」

 悲しそうに語る進次郎の目には光るものがあった。

「節操ねーな」

「克也はバカか!男の浪漫だろ!」

(……頭痛くなってきた)

 さも当然の如く熱弁する進次郎に自分が間違っているかのような気さえしてくる克也。


――ピンポンパンポーン――

「一年C組矢野――」

 まさにデジャヴ克也は二日連続で生徒指導室に呼び出されたのだった。


「失礼します」

 生徒指導室のドアを開けると昨日同様桜小路虎子がそこにいた。

 その光景は本当に同じ一日をループしているのではと克也に思わせる。だとたしたらどんなに良かったか。

 次は絶対部室のドアを開けないし噂が酷くなることもないだろう。

 しかし現実はそうではない。同じ日を繰り返すなんてあり得ないのだ。

「今度は覗きか、次から次へと面倒事を」

 虎子の溜息まじりの言葉。

「野球部と書いてあったので……」

「女子ばかりの部室の中に男子の部室があるわけなかろう。男子の部室はグラウンドの隅だ」

 呆れたように言い放つ虎子。

「女子野球部があるなんて知らなかったんですよ」

「ないぞ」

「は?」

「だからないぞ。女子野球部なんて」

 女子野球部はない。その事実に克也は困惑した。

 克也が見たプレートには確かに野球部と書いてあった。見間違いの可能性もゼロではないが野球の二文字を克也が見間違うはずはない。

「プレートには野球部と書かれてましたよ」

「そうだ。あれは野球部の部室だ」

「でも部室はグラウンドの隅だと」

「それは男子のだ。部室棟にあるのは女子部員の部室だ」

 女子野球部はないと言いつつ女子部員がいる。虎子の言ってることは支離滅裂だった。

 困惑している克也に虎子は一段と大きな溜息を吐くと、こう言った。

「桜華女子高等学校野球部には男も女もない。男女混合で甲子園を目指す!」

 突拍子のないことを言い出した虎子を克也は冷静に諭す。

「女子は甲子園はおろか公式戦すら出られませんよ」

「今はな」

「まさか、何かする気ですか?」

 虎子の含みのある言い方と若林の言葉が合わさり克也の口から言葉が飛び出した。

「君は気にするな。これは大人の仕事だ」

 この人は何かやるつもりだと克也は直感する。

「野球をやりたい者が野球をしてなにが悪い。まして高みを目指し努力するものを性別だけで排除するなんてあっていいはずがない」

 虎子の言葉はもっともだと克也も思う。男だろうと女だろうと野球をやりたい者が野球をやって悪いはずはない。ただ高校生ともなると男女一緒というわけにもいかないだろう。体格からして全然違う。相手になるはずはない。これは差別ではなく区別なのだ。だが……

「そんなに凄い選手が?」

 虎子がこれほど熱く語るのは女子部員の中に男子並の選手がいるからなのかと克也は思った。

「小林亜美。現在唯一の女子部員だ」

 唯一の女子部員と聞き克也は理解する。その小林という女子が……。

「そうだ。君が着替えを覗いた女子生徒だ」

 克也の考えを察した虎子はそう言うとさらに言葉を続けた。

「一度亜美君の球を受けてみるといい。そうすればわかるさ」

 百聞は一見に如かずと言うことなのだろう。

 しかし今の状態で亜美が自分と一緒に練習をしてくれるとは思えなかった。

(これは本気で誤解を解かないとな)

 虎子にああ言われた以上困難だが関係改善は必須だと克也は考えていた。

 

 克也はまだ知らなかった。それ以上の困難が虎子からもたらされようとしていることを。





お読みいただきありがとうございます。

次話もご一読いただければ幸いです。

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