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プレイボールⅤ

 部室棟の前は静かだった。

 以前、桜華は部活動が盛んではないと聞いたことがあったが入学式当日から活動をしている部は少ないのであろう。

 克也は野球部の部室を探しながら歩いていく。『陸上部、テニス部、ラクロス部……』活動が盛んではないというが一通りの部はあるようだ。

「あった。ここだな」

 野球部と書かれた部室の前で立ち止まると中から物音が聞こえてきた。

「他の部員はもう来ているみたいだな」

 生徒指導室に呼び出された自分が最後だろうと克也は思った。

 部室のドアを開けようとした克也に不安がよぎる。

 恐らく他の部員も噂のことを知っているだろう。クラスの男子(進次郎を除く)からも同類と思われたくないと距離を取られている克也。部活でも同じような状態になれば、自分だけグラウンドの隅で寂しくボッチ練習なんてことにもなりかねない。

(ネガティブでは駄目だ。もっとポジティブにいかないと)

 克也以外の部員はスカウトされた一流の選手たちである。一般部員もいるかもしれないがみんな野球が大好きで情熱を持っているに違いない。

 噂は本当ではないと分かってもらうためにも野球に真剣に打ち込んでいる自分の姿見せなければならない。

 克也は気合いを入れ直し大きな声で挨拶よろしくドアを開けた。

「チュースぅ!?」

 !!!!

 ドアを開けた瞬間、克也の目に下着姿の女子の姿が飛び込んできた。

 何が起こったか理解できず思考がショートする。

 何か言わなければと思うも克也の口は金魚のようにパクパクするだけで言葉は出ない。

 驚いた表情をしていた女性の顔がだんだん紅潮し怒りに満ちた表情に変わる。

 !!!赤鬼だ、そこには赤鬼がいた。

「いつまで見てるのよ」

 怒りに震える声に我に返った克也は「ごめん」と一言だけ告げるとすぐさまドアを閉じた。


(びっくりした。まさか女子が着替えているとは……)

 心臓が早鐘のように打っている。

 昨年度まで桜華に野球部はないと聞いていたが男子野球部のことだったのか、はたまた女子野球部も今年度設立されたのか新入生の克也には分からない。

 それよりも問題なのは『野球部』と書かれたプレートである。女子高時代ならそれでもいい。しかし今年から桜華は共学だ。男女で同じ部活があるなら分かるように女子野球部と書いておくべきだ。

 これは決して自分のせいではない。学校側の怠慢である。自分は学校に嵌められた被害者だ。校名に女子と入れるくらいだったらこっちにも『女子』と入れといてくれと克也は思った。

「しかしあの女の子どこかで……」

 部室で着替えていた女子生徒に見覚えがあった。当然のことだがこの学校に知り合いはいない。それではいったいどこで……。

 考えていた克也の左頬がヒリヒリと疼く。

「あっ!」

 克也は思い出した。着替えていた女子生徒こそ今朝校門で克也の左頬に強烈なビンタをくらわせたその人だった。

「まいったな」

 勘違いとはいえ出会いがアレである。そして今回の出来事、誤解は益々深くなることだろう。

(怒ってたよな絶対。最悪だ。まずは謝ってそれから誤解を……)

 先程まであれこれ自分に言い訳をしていた克也だったが、まずは謝ろうと考えていると部室のドアが開き練習用ユニホームに着替えた女子生徒が姿を見せる。

 女子生徒は部室から出てくるやいなや克也を睨みつける。

「あ、えっと、ごめ――」

「この覗き魔!」

 怒号と共に振り下ろされる右手、周囲に乾いた音がこだまし克也の左頬に本日二度目の衝撃が走る。

(相変わらずスナップの利いたいいビンタだぜ)

 涙目の克也に一瞥もくれずランニングに出かける女子生徒。

 謝るつもりだった克也は取り付く島もなく彼女の小さくなる背中をただ見つめていた。

(このままじゃ駄目だ。故意ではないにしろ着替えを見てしまったのは事実だし、今度会ったら謝って誤解を解こう)

 そんなことを考えていた克也は気づいていなかった。

 さっきまで人気のなかった部室棟に、数人の女子生徒の姿があったことを。


お読みいただきありがとうございます。

次話もご一読いただければ幸いです。

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