表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜華女子高等学校野球部  作者: name
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/50

勝負Ⅶ

(えっ!?)


「タ、タイム」

 これまでサインに首を振ることなどなかった亜美が、首を振ったことに戸惑った克也は、慌ててタイムをかけマウンドへ向かう。

「どうしたの?」

 その問いに克也の目を真っすぐ見据え亜美は言った。

「全力で勝負したいの」

 勝負に勝つことは大前提だが、克也は公子の良さも引き出しつつ勝つというリードをしている。理由は公子の実力を皆に知ってもらうためだろう。

 一打席目も簡単にアウトになったように見えるが、初球のインコースの残像が残る中、きちんとボールを見極めバットにも当てた。それも投手有利の右打席で。克也はそれがわかっていたのだろう。そして、敢えてアウトコースを続け公子のタイミングが合ってきているのを皆に見せたのだ。ストレートのみとはいえ野球初心者にしては驚異的だ。さすがに負けるわけにはいかないと最後はインコースでの勝負になったが、あのまま外を続けていたら打ち返されていただろう。

 アウトになったとはいえ二打席目は完全にやられた。

 この二打席で公子の実力は十分わかった。もう公子の実力を疑う者はいない。

 だとすれば出し惜しみはせず、持てる力を全て使わないと公子に対して失礼だ。

 なによりさっきは完全に捉えられた、その借りを返さなければ気が済まない。

 亜美の言葉は公子の実力を認めた証拠だった。

 その言葉に、決意のこもった目に、克也は何も言わず頷いた。


 そして運命の最終打席が始まる。


(初球は――)

 サインを出しミットを外に構えた。

 亜美は振りかぶり克也のミットを目掛け腕を振る。

 アウトコースいっぱい、注文通りのコースだ。

「もらいましたわ」

 二打席目と同じコースに公子は迷わずバットを振り抜く。

「!?」

 だが、ボールは公子のバットを避けるように外に曲がりながら沈んだ。

「ストライク!」

 シンカー。初めて見る変化球に、公子のバットは空を切りボールはミットに収まった。


「……」

 公子は無言のまま構えなおす。

 集中しているのだろう、その目は亜美しか見ていなかった。


(次は――)

 今度は内角にミットを構える。

 初球とは対照的に角度のあるボールがインコースに食い込んでくる。

 そんな左右の揺さぶりも今の公子には効果がない。ストライクだと判断すると、ボールを捉えるべくバットを振る。

 だが、ベースの手前でボールが内に流れる。ストライクからボールになるスライダーだ。

「ストライク!」

 慌ててバットを止めようとする公子だったが、止めることができずスイングを取られる。


(最後はこれだ!)

 克也がサインを出すと亜美は頷く。

「これがわたしの全力よ!」

 全力で投げられたボールは、一直線にミットに向かう。

「馬鹿にしていますの!」

 克也はど真ん中に構えていた。外内とコースをついてきたというのに最後は真ん中のストレート。

 一球外すと思い打つ気がないと思われたのか? だとしたら自分は低く見られてると公子は憤慨した。 

 確かに今までより一番速いが、たとえ外すと思い油断していたとしても対応できない速さではない。コースはど真ん中、打ち損じることはない。


「ここですわ!」

 ポイントを合わせスイングされたバットから快音が、

 

 “スパーン”

 

 響いたのはバットからの快音ではなかった。


「ストライク!バッターアウト!」

 三球勝負。

 克也は無駄球を使わなかった。使わなかったというより使いたくなかった。理由は余計なボールを見せたくなかったからだ。無駄球を見せて亜美の投球にあってくれば、たとえジャイロボールでもカットされたかもしれない。そうなるとこちらも苦しくなる。凡フライでも外野まで飛ばされたら負けなのだ。公子を警戒したからこその三球勝負だ。

 それに亜美が全力で勝負するといった以上亜美の力を見せつける、克也はそういうリードをした。公子には酷だが経験が違う。

 最後のど真ん中も作戦だ。甘いコースは打たれやすいが、甘すぎるコースというのは逆に力が入る。無駄な力が入った状態で亜美のジャイロボールに対応するのは難しい。しかも初見なら尚更だ。 

 とはいえ、さすがの克也も勇気がいったのは事実だ。

 マウンドを見ると亜美が小さくガッツポーズをしていた。

 克也より亜美の方が何倍も勇気が必要だっただろう。

 好き好んでど真ん中に投げるピッチャーなどいない。打たれる恐怖で腕が振れない可能性もあった。亜美はその恐怖に打ち勝ち見事投げ切った。

 小さなガッツポーズは、安堵と達成感が無意識に現れたものだった。


お読みいただきありがとうございます。

次話もご一読いただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ