勝負Ⅲ
「あんたなんて約束してんのよ!」
亜美の言葉に同意するように皆が非難の目を向ける。
「大丈夫だよ」
そんな視線を気にすることなく克也はあっけらかんと答えた。
「簡単に言うけど、保証はないのよ! 負けたら野球部はどうなると思ってるの!」
克也の態度に亜美はものすごい剣幕で捲くし立てた。
「小林さんの球なら大丈夫だよ」
「なっ!」
微笑む克也に亜美はすぐさま言葉が出てこなかった。
「勝負って何するのさ?」
亜美に代わり真琴が克也に訊いた。
「三打席勝負でどうかな。一打席でも出塁できれば真弓さんの勝ち。どう?」
「よくってよ」
克也の提案に公子は頷く。
「ちょっとまってよ!」
承諾した公子とは対照的に亜美は叫んだ。
「どうしたの?」
「どうしたの? じゃないでしょ! こっちは五人しかいないのよ!」
そう、三打席勝負と言っても、こちらは克也、亜美、美帆、菜那、真琴の五人しかいない。バッテリーは問題ないが、残りの三人で他のポジションをカバーするなんて不可能だ。
三打席とも三振に取れば話は別だが、如何せん亜美の投球スタイルは打たせて取る技巧はタイプだ。
それでも、相手は野球初心者であり、亜美には強力な決め球がある。勝算は十分あると克也は考えているのかもしれない。
だが、公子はその克也本人が実力を認めた人物だ。それに初めてのバッティングで百三十キロを打ち返したという、ということはバットに当てることにおいてはそれなりのものをもっているだろう。
克也は『ヒット』ではなく『出塁』といった。仮に当てられた場合、平凡な当たりでも守備がいないところに打球が飛べば出塁されてしまう。
これはあまりにも不利な勝負だ。
「問題ない」
突然背後から聞こえた声に、皆が振り返る。
「理事長……えっ!?」
そこにいたのは理事長である桜小路虎子と三人の男。
虎子の部下である若林ら黒服が二人ともう一人……。
「「「誰?」」」
グラウンドに皆の声が木霊する。
黄色に黒の縦縞模様のジャージに、虎の覆面を被った男がそこにいた。
「り、理事長、その人が?」
覆面男のインパクトに思考が止まりかけた克也だったが、なんとか言葉を絞り出した。
「ああ、彼は虎男(仮名)。今回の助っ人だ」
「その人セカンド守れますか?」
公子との勝負に際し克也は虎子に相談をした。
真琴が入り五人となったことで、野球部設立の条件は満たした。だが、克也は公子との勝負を反故にしたくはなかった。公子の打撃センスに感銘したのもあるが、なによりバッティングセンターでの楽しそうな顔が忘れられなかった。その笑顔を見て思った。公子は野球を好きになってくれると。
だが、公子との勝負には重大な問題があった。
それは人数だ。
勝負するには人数が足りない。公子との勝負にはあと一人必要だった。
リストに残っているのは、もう公子だけだ。今から当てもなく勧誘してもいつになるかわからない。
そこで克也は他に候補がいないのか虎子に相談しにきたのだ。
虎子は「一人いいのがいる」と答え。
それに対する克也の問いが「セカンドを守れるか」というものだった。
克也の問いに虎子は頷く。
克也にはそれで十分だった。
克也が求めていたのはたった一人、セカンドを守れる者だった。
公子の打撃センスには目を見張るものがあるが、とはいえ野球は初心者だ。
生きた球とマシンの球は違う。いくら速いとはいえバッティングセンターはあくまで打たせるための球であり、勝負となれば打ち取るための球になる。
緩急やコース、変化球を交えれば、そう簡単に打てるものではない。公子には悪いが、いいとこ当たり損ねの内野ゴロが関の山で、外野まで打ち返すのは無理だろうと考えていた。
だが、当たり損ねを侮るわけにはいかない。
当たり損ねということは打球が遅いということであり、グラブ捌きの差で内野安打になりかねないからだ。
だからこそ、内野を経験者で固めたかった。
美帆はファースト、菜那はサードの経験がある。真琴の実力は知っている。真琴ならどこでもこなせるだろうが、あの運動神経を活かすならショートだろう。
となると残りはセカンド。セカンドが揃えばこの勝負はいけると。
そして今、その助っ人が目の前にいる。
見た目はアレだが虎子のお墨付きだ、間違いないだろう。
これでこの勝負のピースが揃った。
(よし!)
克也は心の中でそう呟いた。
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