遊撃手 鳥谷真琴Ⅶ
「噂のマコト君が男子じゃなくて残念だったな」
真琴のことを男子だと思い野球部に勧誘しようとしていた克也の肩を叩き哀れむ進次郎。
「ボクが男子だったらどうだというのさ?」
事情を知らない真琴は進次郎の言葉の意味を問う。
「実は……」
克也は真琴に事情を説明した。
「そんなことになっていたのかい」
克也の話を聞いて真琴は驚愕する。
中学時代はどんなに努力しても報われなかった克也。それが実力不足なら納得もできるが、そうではない。
克也の実力に気づけず、絶対的エースである高橋の顔色ばかり窺う監督は、選手起用も高橋の言うがままであった。
そんな理不尽な状況でも腐ることなく野球を続けた克也。そんな克也の実力が認められ桜華女子にスカウトされ、今までの分もこれから報われると思っていた。
克也を近くで応援したくて桜華女子に入学した真琴。
それなのに当の野球部は、他の選手には断られ推薦は克也だけ。おまけに現在の部員は克也を含め四人しかおらず、規定人数を満たしていないため、このままだと活動することなく廃部だという。
そもそも設立さえしていないので廃部というのは違うかも知れないが……。
そんなのあまりにも残酷すぎる。
野球をするために桜華女子にきたのに、野球ができないというのは話が違う。
転校すべきだと真琴は思った。
だが、何故諦めずに部員を集めているのか?
それに今集まっている部員は皆女子だという。
いったい何故?
選手は諦めてコーチでもするつもりなのか?
女子とイチャイチャしたい?
どっちも無いだろうと真琴は思った。
特に後者は進次郎ならともかく克也には絶対に無い。
そんなことを考えていた真琴はあることに気付く。
他の部員が女子なら自分でもと。
「そうだ! 真琴だったら適任だ。よかったら野球部に入ってくれないか」
野球部への入部、今まさに真琴が考えていたことだ。だが真琴は、入部する前に訊いておきたいことがあった。
「こんな奴入部させたら暴力事件で廃ブッ……」
茶々を入れる進次郎を一蹴する真琴に克也は苦笑いを浮かべる。
源五郎丸進次郎、空気の読めない馬鹿である。
「克也はここで野球をするつもりなのかい?」
「ああ、桜華で甲子園を目指す」
真琴は「甲子園」という言葉に驚きを隠せなかった。
「知っているとは思うけど、女子と一緒に甲子園は目指せない」
克也がそんなことを知らないはずが無い。真琴はあまりのショックにどうにかなってしまったのではないかと心配になった。
「そこは学園長がどうにかしてくれるらしい」
「それを信じるのかい?」
「ああ」
克也は力強く肯定し言葉を続ける。
「学園長の目は本気だった。本気で性別など関係なく野球好きが甲子園を目指せるようにすると言っていた」
克也の目は真剣だった。その目を見れば克也が本気だと分かる。
だが……
「現実問題、男子と女子の体力差はどうにもならないと思うよ」
投手一つとっても男子と同じ球速を出せる女子はいないだろう。
「凄い投手がいるんだ」
克也の目を輝かせながらそう言った。
「男子にも通用すると?」
「ああ、リード次第で男子にも通用する。真琴だって男子の進次郎をノックアウトしているじゃないか」
「なっ、」
いたずらっぽく笑う克也に、何か言いたげに膨れる真琴の顔は普段のクールなものではなく、可愛い女の子の顔であった。
「それに、楽しそうに野球をするんだ」
その姿を思い出したかのように微笑む克也を見た瞬間、真琴は反射的に「入部する」と口にしていた。
「ありがとう真琴」
「ああ」
喜びながら手を握る克也にぶっきらぼうに答えた真琴の顔は、窓から差し込む夕日のせいか赤くなっていた。
「早速で悪いけどお願いがある」
克也は真面目な顔でそう言った。。
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