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桜華女子高等学校野球部  作者: name


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32/48

三塁手 新井菜那Ⅲ

「お姉ちゃん」

 聞きなれた声に呼び戻されると、美帆がこちらに駆けてきていた。

 菜那は笑顔で声をかけ、美帆に何かあったのか訊ねると、噂に出てくる女子は菜那のことじゃないかと訊かれた。

「にゃ?」

 噂なんて全く知らない菜那は、思わず素っ頓狂な声を上げる。

 そんな菜那に美帆は、噂になっているという今朝の出来事について説明を始めた。

 !!!

『今朝』の言葉に菜那は大事なことを思い出す。

「にゃ!今朝といえにゃ――」

 菜那は興奮気味に亜美が桜華女子に入学していることを伝えたが、すでに亜美と出会っているばかりか、同じクラスである美帆の反応は、菜那が思っていたものではなかった。

「美帆、那奈先輩」

 自分たちの名を呼ばれ自然と視線が向かうと、そこには今話していた人物の姿があった。

 思わぬ亜美に登場に、とんだ偶然もあるものだと声をかけるも、偶然ではなく美帆を心配し追いかけてきたとのことだった。

 何をしているのか訊いてきた亜美に、感激していた美帆は噂になっている出来事について語り始めた。

 話を聞いて、亜美は今朝の事だと思い菜那に伝えた。

「そうにゃ!菜那にゃ、菜那自転車で転んだにゃ」

 事の真相が判明し、菜那を叱るような態度を見せるも、どこか安心している美帆、そんなやり取りを見ながら懐かしそう見守っていた亜美の笑い声に、その場は温かな空気に包まれる。

「また三人で野球ができるね」

 亜美の言葉に、菜那は美帆の方を見た。

 しかし美帆はブランクがあるからと亜美の誘いを断った。

 美帆の表情から、本当は野球をやりたいのだと察する菜那、何より断るまで間が美帆の葛藤を物語っていた。

「菜那もバレー部に入ってるにゃ」

 まともな活動はしておらず、菜那が抜けたところで影響はないが、自分一人、野球をするわけにはいかず、バレー部に所属しているからと断った。

 さすがに亜美も、退部しろというわけにはいかず、せめて美帆だけでもと再び誘う。

 野球の事になると熱くなるのは相変わらずだと、懐かしく眺めていると、不意に「那奈先輩もいいと思いますよね」と同意を求められた。

 だが、菜那は答えることが出来なかった。

 美帆にとってこれはいい機会だと思うも、本当に美帆の為なのか?美帆はそれを望んでいるのか?と、相反する思いが交錯していた。

「野球楽しくなかった?」

 野球をすることをためらう美帆に同意をためらう菜那。そんな二人の様子に、亜美の口から出たのは思いもよらぬ言葉だった。

 菜那は亜美の悲壮な表情に胸が苦しくなり、そんなことはないと伝えようとしたその時、「違う!そんなことない」と菜那よりも早く美帆が口を開いた。

 そんな美帆を見て、美帆も自分と同じ思いだと確信した。

「考えさせて」と美帆は言った、野球をやりたい気持ちはあるのだろうが、最後の一歩が踏み出せないのだ。そんな美帆に亜美は「待ってる」と言ってくれた。

 美帆が一歩を踏み出すきっかけがあればと菜那は思うのだった。


「そう言えばミズッキーも来てるのにゃ?」

 亜美が来ているなら、もしかしたらと菜那は瑞希も来ているのか訊いてみたが、中学からソフトボールに転向した瑞希は、結果を残し、強豪校に誘われ、そちらに進学したとの事だった。

 それから亜美が桜華女子に進むきっかけとなった出来事など、中学時代の話を聞いた。

 三年、言葉にすれば一瞬だが、皆、色々なことがあった三年だったのだと菜那は思った。

 

「どうかしたにゃ?」

 学校からの帰り道、自転車を押しながら隣を歩く美帆に訊ねた。

 カバンを取りに戻ってから美帆は心ここにあらずといった様子だ。

 本人は気付いてないが、何か思い出したかのように溜息を吐いたり、顔を真っ赤にして首を振ったりと、落ち込んでいるようでありながら、どこか嬉しそうでもあるその仕草は、美帆に何かあったことを物語っていた。

「みーちゃん!」

「えっ、何、お姉ちゃん?」

 何度目かの呼びかけに、ようやく応える美帆。

「何かあったのにゃ?」

 心配半分、興味半分の菜那は美帆に訊ねた。

「べ、べつに何でもないよ」

 慌てて否定する美帆の態度に、これは何かあったと確信する奈那だったが、深刻な様子ではないので、これ以上追求するのはやめた。

 それに、いつも他人の目を気にしている美帆が無意識とはいえ周りのことを忘れて思案している姿は良い傾向ではないかと思った。

「みーちゃんは、どうして噂のことを訊きたかったのにゃ?」

 菜那は話題を変えようと気になっていたことを訊いた。

 身内が関わっているかもしれないといっても、別に大けがをしたとかいう話ではない。たとえそうだったとしても、菜那から返事が来た時点で、菜那が無事なのは分かるはずだ。

 だとしたらなぜ、あんなにも気にしていたのか?

 他人と関わろうといない美帆が噂に興味を持ち、帰宅するまで待てず菜那に連絡してきた。菜那はそのことが気になっていた。

「それは……」

 もじもじしながら小さな声で理由を話し出した。

 美帆は噂になっている男子と出会っていて、とてもそんなことをするような人間とは思えず真相を知りたかったのだという。

 その理由を聞いて菜那は驚いた。

 あの美帆が、男子のことを気にしていたのだ。

 亜美との出会いや、その男子との出会いは、美帆に良い変化をもたらしてくれる。

 そんな予感と同時に、その男子に興味を持つ菜那であった。

お読みいただきありがとうございます。

次話もご一読いただければ幸いです。

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