プレイボールⅢ
桜華女子高等学校は共学である。
「校名に女子と入っていれば女子高でないとだめなのか。否である。是であるなら乙女以外も通う早乙女学園は認められない。ここは昨年までの『桜華』女子高等学校ではない。『桜華女子』高等学校、共学である。新入生諸君常識に捕らわれるな、諸君らの可能性は無限である」
桜華女子高等学校理事長桜小路虎子は入学式の挨拶の中でこう語った。
常識に捕らわれないのは結構だがせめて女子の二文字は抜いてくれと克也を含めた数少ない男子生徒は一同にそう思ったことだろう。
教室に戻りクラス全員の自己紹介が行われ、担任からこれからの学校生活について簡単な説明がなされ本日は終了となった。
克也は入学式からずっと他の生徒と距離があるように感じていた。最初は初対面だし、しかも大多数が女子なのでこれが普通なのかと思ったが、何かが違う。担任の教師さえ自分に対しよそよそしかった気がする。現に今も教室に残っている生徒が克也をチラチラ見ながらヒソヒソ話をしている。理由は分からないがあまり気分のいいものではない。
「よっ、有名人」
怪訝に思っていた克也は背後からかけられた声に振り返ると、ニヤニヤ顔をしたロン毛の男子生徒が立っていた。
「有名人?」
「校門でパンツ見たさに小学生の子を押し倒したんだろ。噂になってるぜ」
「は?なんだよその噂、それじゃまるで、おれがロリコンの変態みたいじゃないか」
「違うのか?」
「当たり前だ!向こうからぶつかってきて倒れたんだよ。それに小学生じゃない。相手は先輩だ。年上だ」
「でも見たんだろ?」
「見えたんだよ!」
必死で否定していた克也だが男子生徒の表情を見てあることに気付く。
「もしかしてからかってるのか?」
「すまん、すまん、必死に否定する姿が面白くてつい、俺は源五郎丸進次郎。確か矢野だったか、少ない男同士仲良くしようや」
笑顔で右手を差し出す進次郎。
「ああ、おれは矢野克也、よろしくな」
そう言って克也は進次郎と握手を交わした。
「克也でいいか?」
「構わない、こっちも進次郎と呼ばせてもらう」
共学といっても男は数えるほどしかいない。友人どころか知り合いさえいない孤独感に加え周りの視線、この状況に打ちひしがれそうになっていた克也に進次郎の行動はありがたかった。
「でも噂になっているのは本当だぜ」
なんてことだと克也は思った。こちらは自転車に撥ねられた言わば被害者なのだが、加害者になっている。それも尾ひれがついて変態の加害者に。
思わず頭を抱える克也。
「ご愁傷様」
そんな克也を拝む進次郎。
「それはそうと克也はどうして桜華に?やはり女子が多いから?」
「いや、野球部に誘われた。そう言う進次郎は?」
自分を気遣ってか話題を変えるばかりか冗談も交え質問してきた進次郎。見た目はチャラいが実は友達思いのいい奴なのだ。この友人を大切にしようと克也は思った。
それにもしかしたら数少ない男子生徒の進次郎も自分同様野球推薦じゃないかと心の中で期待し進次郎の答えを待った。
「おう。当然女の子目当てだぜ」
目を輝かせ親指を立てる進次郎。
「去年まで女子高だったんだ、まさに女の園。素敵なイベント目白押しだぜ。早速克也は登校中のぶつかりイベント羨ましすぎるぜ。俺は遅刻ギリギリに食パン咥えて走ってきたのにクソ~、こうなったらお風呂でバッタリイベント目指すぜ」
何が「こうなったら」か分からんが学校でお風呂でバッタリはないだろう。
「常識的に考えてそんなイベント起こるはずないだろ」
「チッチッチ。常識に捕らわれるなって理事長も言ってただろ。可能性は無限大だぜ」
人差し指を振りながら力説する進次郎。
前言撤回、源五郎丸進次郎……悪い奴ではないのだがこいつはだだのバカだ。
「一年C組矢野克也君至急生徒指導室に来てください。繰り返します――」
進次郎とくだらない話をしていると克也を呼び出す校内放送が流れた。
それも生徒指導室に。一抹の不安を覚えながらも行かないわけにはいかず克也は生徒指導室に向かった。
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