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桜華女子高等学校野球部  作者: name
第一章

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21/50

一塁手 新井美帆Ⅵ

 翌朝、まだ始業まで一時間はあるかという早い時間に、美帆は登校した。

 別に課外があるわけではない。この時間なら他の生徒に会うことがないからだ。

 席に座り、鞄から取り出した本を読む。

 特段読書好きという訳ではないが、これが美帆の日課だった。

 こうしていれば、ホームルームが始まるまで、誰かに話しかけられることが殆どないのだ。

 読書をしているうちに教室も賑やかになってくる。

「聞いた、昨日の男子がまた――」

 そんな中、聞こえてきた言葉に美帆の読書は中断された。

 昨日の男子とは噂になっているあの男子生徒のことだろう。

 殆どの生徒は真相を知るすべもなく、未だ噂になっているのは仕方がないことだと言える。

 だが、『また』とは。

 あの男子生徒がまた何かしでかしたということだろうか。

 気になった美帆は、その会話に聞き耳を立てる。

「昨日の男子、今度は覗きをしたそうよ」

 その女子の話では、昨日の放課後、どこかの部室で覗きがあり、犯人は、昨日噂になっていた男子だというのだ。

 更に、覗きが見つかった男子は、部室から出てきた女子に思い切り平手打ちをくらい呆然としていそうだ。

「そんな獣みたいな男子がいるなんて嫌ね」と周りの女子が騒いでいた。

 あの男子が覗きをするなんて、美帆は信じられなかった。

 しかも部室なんて、ありえないと美帆は思った。

 部活動が盛んではない桜華女子では、入学式当日から活動をする部なんてない。

 桜華女子の殆どの部がそうであるように、姉の菜那の所属するバレー部も一週間後に行われる新入生歓迎会後から新年度の活動を開始する。

 新入生歓迎会の中で部活紹介が行われ、各部のアピールを見て、新入生が見学や体験入部をすることになり、それに合わせて活動を開始するのだ。

 活動もしていないのに部室に人がいるとは思えなかった。


 !!!

 美帆は昨日の亜美の言葉を思い出した。

「部活に行く」

 確か亜美はそう言っていたはずだ。

 その言葉が事実なら、もしかして覗かれた女子というのは……。

「おはよう美帆」

「……。亜美ちゃん、おはよう」

 考えていた美帆は、少し返事が遅れるも、そのことを確認すべく言葉を続けた。

「亜美ちゃん、昨日部活て言ってたけど」

「ええ、自主練しかできなかったけど」

 昨日美帆たちと別れた後、亜美は部室に向かった。

 桜華女子の殆どの部活が来週から活動することを知らなかった亜美は、人の気配がなく静まりかえっている部室棟の姿を不審に思い、理事長に確認することにした。

 理事長に確認すると、桜華女子の慣例や野球部も来週から始動すると説明を受け、それなら自主練だけでもと頼み込み、部室の使用許可を得て一人自主練を行ったという。

「それがどうかした?」

「あの……その、昨日部室で」

 さすがに覗かれたのかとストレートには訊けず、もじもじする美帆に?マークを浮かべる亜美だったが、「入部考えてくれた?」と、一緒にやろうオーラ全開でそう言うのだった。

 しかし美帆は「ううん、まだ」と返事をする。

 美帆も亜美と一緒に野球をやりたいと思っている、思ってはいるが、どうしてもその一歩が踏み出せない。

「また一緒に野球をしよう」

 幼いころ交わした約束。亜美は忘れていると思っていた。

 でも亜美は約束を覚えていた。

 美帆だって……。

 約束を覚えていたのは同じだった。

 違ったのは約束が叶うと信じ野球を続けたことと、約束を、野球を諦めてしまったこと。

 瑞希は中学でソフトに転向したと聞いた。それでも亜美は一人、男子に交じり野球を続けてきた。

 きっと辛いことも沢山あったに違いない。それでも諦めず野球を続けてきた。

 野球が好き。ただそれだけの理由で。

 堂々と野球が好きと言えていたら、周りのことなど気にせず好きだった野球を続けていたら、二つ返事で入部することができただろう。

 しかし美帆は、そうできなかった。確かに再開は嬉しかったが、昔と変わらぬ亜美の姿は美帆の瞳に眩しく映り、そんな亜美に美帆は引け目を感じていたし、今の自分の実力を見て亜美にがっかりされるのが怖かった。

『親愛なる桜華女子の生徒諸君――』

 美帆がそんなことを考えている中、衝撃的な校内放送が流れてきた。


お読みいただきありがとうございます。

次話もご一読いただければ幸いです。

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