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一塁手 新井美帆Ⅱ

「また一緒に野球をしよう」

 その約束を胸に引っ越した美帆は、こっちでも当然野球をするつもりでいた。


 転校生というのは周りの興味をそそるものである。

 例に漏れず美帆も、前に住んでいた所や学校など質問攻めにあった。

 これまで亜美たちと野球に打ち込んできた美帆、野球の話になるのは必然だった。

 野球をやっていたこと、一塁手で、しかもレギュラーだったこと、こっちでも野球をしたいなど美帆は話していた。

 周りの子たちも「凄い」と賞賛の声を上げる。

 そんな中、男子グループの一人が言った心ない一言。

「ファーストってデブがやるんだろ」

 その一言に、周りの男子が爆笑する。

 さらに「ごっつあんです」と手刀を切る男子。

 この相撲を真似たポーズは、人気のプロ野球選手がホームランを打った時に行うパフォーマンスだ。

 その選手も一塁手で、恰幅がよく、相撲を真似たこのポーズが様になっていた。

「野球って動かないからデブるんだよ。サッカーにはそんな選手いねーもん」

「そうそう。サッカーの方が格好いいよな」

 そう言って、ごっつあんポーズをする男子たち。


 人は、自分の好きなものが一番だと主張してしまう。

 自分の好きなものが一番でないと気にくわないのだ。

 サッカーが好きだった彼は、野球の話で盛り上がっていることが気に入らず、つい皮肉を言ってしまった。

 野球とサッカー、どっちが上というものではない。それこそ相手を敬うのがスポーツマンシップだ。

 しかし、その考えに至るには、彼は幼かった。

 彼の中で、自分がやっているサッカーこそが一番だったし、そうでないと許せなかった。

 ある意味、この純粋さこそが子供なのだ。

 純粋にサッカーの方が格好いいと言いたいだけだった。

 皆に、美帆にもサッカーが好きになって貰いたかった。 

 本当にそれだけだった。

 決して美帆を嫌っての言葉ではなかった。

 しかし、周りの男子が悪乗りしすぎたのもあり、結果的に美帆をからかうこととなってしまった。

 体が大きく、ぽっちゃりしていた美帆は自分のことを言われたと思い傷ついたことだろう。

 その証拠に、この出来事以降、美帆の口から野球という言葉が出ることはなかった。

 美帆は男子が笑っていると自分が笑われているのではないかと疑心暗鬼になり男子と話すことができなくなると同時に、他人に本音を語るのが怖くなった。

 美帆にもそれなりに話をする友人はいたが、本音を語れない美帆に、気が置けない友人なんてできることはなかった。


「何もされなかった?」

 ハンカチを奪うようにして駆けてきたため、乱れた呼吸を整えている美帆に当然かけられた声。

「何かって?」

 見たことのある顔だ。見たことはあるが話したことはないはずだ。そんな彼女が自分になんの用だろう?と不思議に思う美帆。

「今の男子、例の噂の男子よ」

「噂?」

 彼女が何を言っているのか分からず、思わず素っ頓狂な声を出してしまう美帆。

 そんな美帆の様子を見て察したのか、彼女は嬉嬉として噂のことを教えてくれた。

 なんでも、今朝校門で小さな女の子を自転車ごと押し倒したうえ、下着を覗いていた男子生徒がいたそうだ。

 その男子生徒こそ、今し方、美帆のハンカチを拾ってくれた彼なのだそうだ。

(親切そうに見えたのに)

 美帆には信じられなかった。

「それで何かされたの?」

 好奇心に満ちた目で美帆に訊ねる女子生徒。

「ハンカチを拾ってくれただけ」

 美帆がそう答えると「なんだ」とつまらなそうに、待っている友達の方へ足早に駆けていった。

「でも本当に信じられないな……。」

 女子生徒が言っていた噂話を思い返しながら一人呟く美帆。

(ん?)

 美帆は何か引っかかった。

 さっきの女子生徒は「その女の子って実は先輩だったらしいけど」と笑いながら言っていた。

 自転車、小さい先輩……!!!。

 まさか!?

 美帆には、そのワードに思い当たる人物がいたのだった。


お読みいただきありがとうございます。

次話もご一読いただければ幸いです。

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