表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/42

一塁手 新井美帆

「そこの君、ちょっと待って」

 入学式が終わり教室に戻っていた美帆は、その声に体に緊張が走った。

 恐る恐る振り返ると、案の定そこには男子生徒が立っていた。

 声をかけられた瞬間、男子だと分かってはいた美帆だったが、実際に男子生徒を目の当たりにし体が強張る。

「ハンカチ落としましたよ」

 そんな美帆の様子を見て、優しく微笑みながら拾ったハンカチを差し出す男子生徒。だが、

 !!!!!!!!

 美帆は差し出されたハンカチを奪い取ると逃げるように渡り廊下を駆けていった。


(またやってしまった)

 自責の念に駆られる美帆。

 入学式だというのに制服が汚れていた男子生徒。

 普通は何かあったのかと思うのだろう。

 だが美帆はそうではなかった。

 そんなことを思う余裕などなかった。

 男子に声をかけられ、頭が真っ白になり、お礼も言わず差し出されたハンカチを奪い逃げ出したのだ。

 決して美帆に悪気があった訳ではない。

 美帆はただ、男子が苦手なのだ。

 

「はぁ……」

 真新しいの制服に袖をしながら美帆は溜め息を吐いた。

 入学式という晴れの日だというのに、美帆は憂鬱でしかたがなかった。

 理由は明確だ。

 美帆が入学する桜華女子高等学校が今年度から共学になったからだ。

 美帆は桜華女子が共学になることを知らなかった。

 桜舞島の女子なら余程成績が悪くない限り、希望すれば桜華女子に進学することができる。

 島への往来を考えると島外の高校へ進学するには、親元を離れるしかない桜舞島だからこその措置であろう。

 逆に一般入試で桜華女子に入学するには、かなりの学力を有する必要がある。

 つまり、桜グループに将来を見込まれた人材でなければ入れないということだ。

 一般ではない美帆は、入試は受けていない。

 もし受けていれば会場に男子がいたはずだ。いくら美帆でもさすがに気付いただろう。

 平常心で試験は受けられなかっただろうがそれは別の話だ。

 思い込みと言えばそれまでだが、今までの当たり前が急に変わるなんて夢にも思わなかった。

 一体何故共学に?

 元々、桜舞島の住民のために設立された桜華女子高等学校。

 どうして女子校だったのか不明だが、今までだって大々的に生徒募集は行っておらず少子化の煽りを受けたとは思えない。

 ましてあの、桜小路恒雄が設立した学校だ。経営難なんて考えること自体馬鹿げている。

 桜華女子に通っている姉、菜那は何も言ってなかった。

 知らなかったのか?知っていて教えてくれなかったのか?はたまた忘れてたのか?あの姉ならどれもありえると美帆は溜息を吐いた。

 姉の菜那は気まぐれな自由人だが、自分勝手で我儘というわけではない。

 素直で明るい性格で皆から好かれている。

 恥ずかしくて本人には言わないが美帆にとって菜那は自慢の姉だ。

 それに、桜華女子が共学になると知っていたとしても、美帆が他を受験することはなかっただろう。

 他を受験するということは島の外に出るということだ。

 島から出て一人暮らしなんて美帆にはとてもできない。

 分かってはいる。分かってはいるが、事前に知っているのと知らないのでは気持ちの面で全然違う。

「はあ」と美帆はまた溜め息を吐くのだった。


 美帆がこれほどまでに男子が苦手なのには理由がある。

 この島に越してくる前、亜美たちと一緒に野球をやっていた美帆。

 男子に混じって野球をやっていたことからも分かるように、当時の美帆は男子が苦手ということはなく、男子とも普通に接していた。

 そんな美帆は父親の転勤で、五年生の春休みに桜舞島に引っ越してきた。

 美亜美との約束を胸に、こっちでも野球を続けるつもりだった美帆は、小学校で起こったとある出来事が原因で野球から遠ざかっていた。



お読みいただきありがとうございます。

次話もご一読いただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ