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6月生まれの魔女の娘  作者: 成若小意


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23/28

卒業パーティ

よろしくお願いします。

ハレキソスの占い『千客万来』





「申し訳ありません。今月でもう卒業することにしました。」

アレクサンドリアの言葉に『え?』と驚く生徒会室の面々。言っている内容がなかなか頭に入ってこない。


「なので、皆さんの卒業パーティには参加できません。」


その言葉に慌てるウィリアムス王子。


「まだ入学して3ヶ月ですよ?」


確かにまだ3ヶ月しかたっていない。しかし、一所ひとところにとらわれることなく旅を続けてきた魔女の娘にとって、3ヶ月同じ場所に所属するのはむしろ長い方だった。


「卒業の時期からは、はずれているそうですが。学園長に聞いてみたところ、特例での飛び級で卒業できるそうです。」


あのたぬきジジイ…。とつぶやくのはヒロ。


きっと学園長は面倒を避けたかったのだろう。本物の魔女の娘が通うことの栄誉より、それによって起こるトラブルの方が気になっていたから、学園長はアレクサンドリアの早期卒業もすんなりと受け入れていた。


切り替えが早いウィリアムス王子は、腰に手を当てて一考した後、こう提案した。


「もしよければ、学期末の終業式に、お礼のパーティを開かせてください。お一人だけですが、その式をもって特別に一人だけの卒業式とすればいいと思います。」


「ありがとうございます。卒業式も体験できるのですね。」


「せっかくですので、是非。」

そう言って、ウィリアムスは満足そうにニコリと笑った。

思っていた展開とは全く異なるが、何とかうまくいきそうで、安心したのだった。





こうして、何とかアレクサンドリアとの関わりを示せる機会を得た第二王子は、大々的に告知をした。

『留学生が諸事情で早期卒業をする。』

『来賓には大物が来る。』と。


3学期制の学園。4月から始まり、今は6月。暑くなる7月に入る前、6月末が学期末となる。その時期に終業式が行われる。


通常なら単なる終業式だが、今回は特別に保護者も観覧できる。


ウィリアムス王子はこの会をうまく盛り上げてみたかった。第二王子は野心家ではないが楽しいこと好きだ。さり気なく皆の気を引く噂も流す。






アレクサンドリア一人の卒業式当日。


来賓として来る大物。それが誰なのか、噂だけがまわってそわそわする生徒達。


アレクサンドリアから事情を聞いているハレキソスは、アレクサンドリアが心配でたまらない。


アンナ、マーラ、レティシアの三人娘は、『きっと何かやらかすから、顎が外れないよう固く口を閉じていよう』と決心する。



来賓の挨拶がある。壇上には、上司のパトリックも居る。見習い魔法使い三人組や、同僚の上級魔法使い達もいる。


さらに、そうそうたる顔ぶれの中に、5英雄の一人、聖騎士がいるではないか。


女子も男子も歓声をあげる。聖騎士は若者に人気だ。


こんなにも豪華な来賓が揃う生徒とは何者なのか。生徒達はコソコソ話しては首を傾げる。


その中で壇上に上がっていくのは、ローブ姿の女の子。


アレクサンドリアと、呼ばれていたが、アレクサンドリアはこの学園の中でも数え切れないほどいた。


しかし、変わっているのは、名字が呼ばれなかったこと。―アレクサンドリアの父も母も家を捨てているため、名字を持たない。そのことはあまり知られていなかった。


アレクサンドリアと名がつくものは、区別のために通名でも呼ばれることが常だったので、皆通名が呼ばれるのを待った。


「救国の魔女の娘。6月生まれの魔女の娘、アレクサンドリア。貴殿の卒業をここに証する。」


皆がその名前に息を呑む。しかし、式の最中。騒げない。


前へ、と呼ばれて壇上で更に一歩前に足を踏み出し、賞状を受け取るアレクサンドリア。書かれた内容はわかるが、この紙になんの意味があるのかはよくわからない。でも、キラキラとした模様が書かれていてなんだか嬉しい。


「皆さんありがとうございます。私はここで、この国の普通を学べました。」


アレクサンドリアの声はあまり大きくない。それなのに、大きな会場の隅々にいる人間に声が届く。


「かわりに、私の普通を披露したいと思います。」


そう言ったアレクサンドリアの周りから、突如花吹雪が吹き出す。花吹雪だけではない。色々な生き物も混ざっているようだ。


それがアレクサンドリアを中心とした噴水のように、次から次へと、高い会場の屋根まで突き抜けていく。


それだけではない。魑魅魍魎ちみもうりょうと言ってもいいかもしれない。奇っ怪な生き物や、美しい生き物。誰も見たことのない生き物が会場中に溢れ出す。


会場の外では地鳴りが聞こえ、窓になにかの巨大な影が写る。


しかし、不可思議な生き物たちもさることながら、フードが外れて素顔を見せたアレクサンドリアの美しさに皆目が釘付けになる。


今まではハレキソスとライオネルしかこの学園では見たことがなかったアレクサンドリアの素顔。


陶器のような肌。人形のような丁寧な造りの顔。そして、それを包み込む、水晶のような水色がかった銀髪の髪。


その顔を見たものは、何も言えなくなる。


そんな中、夫が近寄る。

「この生き物たちは、君が呼び出したのかい?」


嬉しそうな顔でアレクサンドリアは振り向く。

「いいえ、私がやったのは、花吹雪だけです。みんなはお祝いに来てくれたのだと思います。」


「幻の生物が、卒業の祝に駆けつける…君らしいや。」


会場の混乱はまだ収まらない。


それこそ、まさに古今東西の魔法が展開している。生徒達は喜ぶというよりも、空いた口が塞がらない。


人々はみな口を開けて上を見上げるしかできない。


時折、床いっぱいの大きさの鯨のような生き物が、何故か透けている床下を、大口を開けて地面を泳ぐように登ってくる。その迫力に婦人方は気絶してしまうのだが、そばにいる花の妖精の祝福ですぐに目を冷ます。目の回る展開に、皆わけがわからなくなっている。


「私、とても楽しかったです。それに、みんなにお祝いしてもらってとても嬉しい。」


一人だけ楽しそうなアレクサンドリア。


そして、奇妙な生き物たちの、地鳴りだか音楽だかわからないリズムが最高潮を迎えたとき、花火のような音と共に、アレクサンドリアと夫はかき消えた。


―アレクサンドリアと夫は、雲の大海原の上にいた。夕陽に雲が照らされて大変美しい。その上で踊るように歩くアレクサンドリアは、さらに、大変美しい。


空を飛べない夫の手を取り、微笑むアレクサンドリア。


「嬉しくなるとどこかへ飛んてしまうのは君の悪い癖だ。」


夫にそう言われて恥ずかしそうに笑う。


「でも、それだけ嬉しかったんだね。よかった。君が学園に通えて。」






雲の上で夫婦二人ダンスパーティーを行っていることなど露知らず、会場に残された者たちは、しんとしていた。


魑魅魍魎も消え、花びらも何もかも元からなかったかのように床には何も残らず、心なしか照明も薄暗く思える。


主役のいなくなったこの会場をどうすればいいのか。


皆が途方に暮れかけたとき、第二王子ウィリアムスが手を叩いて注目を集めた。

「6月生まれの魔女の娘、アレクサンドリア殿のはからいは皆楽しめただろうか。」


皆を見回しながら堂々と話し続ける。


「見慣れない魔法の数々だったが、今日この光景を見た者たちは皆、歴史に残るものを目にすることができたということだ。その事を、何代先までも、誇るといい。」


「そして祝おう。


長く暗いこの国の闇を消し去ってくれた救国の魔女、その娘のアレクサンドリア殿の卒業を!」


先程の光景の後で何を言っても無駄かと思われたが、なんとか人々の心を動かし、拍手喝采を起こし、卒業式を締めることができた第二王子。


彼の人気は密かにまた上がったのだった。






今日のアレクサンドリアメモ 『式の途中で帰ってはいけないらしい。』

読んでいただきありがとうございます。


このお話で、一旦本編を終了といたします。


なんとか最後まで書ききることができました。全速力で駆け抜けた感じがします。


皆様の感想やいいねがとても励みなりました。

毎日確認してました。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。


救国の魔女の話や、アレクサンドリアの夫の話なども別のお話として投稿する予定です。


よろしければ、そちらもお付き合いいただければ嬉しい限りです。

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