生徒会③
よろしくお願いします。
「先日、宝石が欲しいと言っていましたね。」
アレクサンドリアが話しかける。
部屋の隅の方で固まっていたハイル。
自分がここに居ることに気が付きませんようにと、できる限り気配を消してみたのだが、あっけなく気が付かれた。(そもそも気配を消す魔法は、ハイルは使えない。)
銀髪マッシュが揺れる。かわいい顔の眉間に刻まれたシワも伸び、もはや眉はハの字だった。
宝石の話をしたのは確かなので、頷いたが、ここで頷いてはまずいと、すぐに首を振る。
よくよく考えてみれば、欲しいと言ったのではなく、国に返すべきだと言ったのだが、今のハイルはそこまで頭が回らない。そして、欲しいと思っているのも本当だ。
アレクサンドリア―目の前の、本物の魔女の娘、アレクサンドリアが何を言い出すのか、固唾をのんで見守る。
フードに遮られた顔は、その表情が見えない分、想像力をかきたてる。
「あの石は、母から作ってもらった誕生日石です。9つ目は旅の最中にもらったので、私が持っています。」
それを聞いたとき、ハイルはなるほどと思った。そして、しまったとも思った。
なるほど、救国の魔女が作った物ならば、国宝にもなり得る。そして、しまった。アレクサンドリアが作ってもらったものなのだから、そもそも『欠けた宝玉』の最後の一欠片はアレクサンドリアの物だ。
知らなかったとはいえ、それを国に返せと。どこで取ったと。なんてことを言ってしまったのだ。
「あれは、私が遺跡でかくれんぼをしていた時、置いてきてしまったものです。」
(遺跡で…。)
(かくれんぼ…。)
部屋にいる者たち皆、心の中で言いたいことが沢山渦巻いていたが、何とか口に出さずに、事の成り行きを見守った。
「ですので、あの石はあげることはできません。できれば、8つの石も返してほしいです。」
(たしかに…。)
返却が妥当だろう。むしろ、国が盗っ人扱いを受けてしまってもおかしくない。皆、アレクサンドリアの口から責める言葉が出てくるだろうと身構えた。
しかし、アレクサンドリアは優しかった。
「そのかわり、この石を作ってきました。国宝にはならないかもしれませんが、なかなか上手にできたと思います。」
アレクサンドリアの手には、『欠けた宝玉』とそっくりな、しかし色違いの首飾りがあった。
それを見つめて、我を忘れて喜ぶハイル。
「なんて、なんて美しい…!」
両手を叩いて飛び跳ねるハイル。
「これを、これを本当に僕にくれるというのですか?」
そして、狂喜乱舞するハイルに水をさすウィリアムス王子。
「ハイル。魔女の娘からいただいた宝石を、個人の所有物にするつもりかな?」
ピタリと動きを止めるハイル。
確かに自分が言ったのだ。これ程の宝は国が持つべきだと。
「個人的にあげた物ですので、所有物にしていただいて構わないと思っています。」
アレクサンドリアの言葉に、ハイルの瞳が希望でキラキラ輝く。
「ですが、この国の風習を知りません。ハイル先輩が言うように、国が所蔵するべきなのだとしたら、そうしてください。」
自分が言い出した手前、個人所有にするとは言えなかったハイル。
(後日、粘りに粘って、『所有者:ハイル 閲覧場所:国立博物館』とすることで決着をつけた宝石マニアだった。)
「あの、あなたが本物の、6月生まれの魔女の娘?なら、なぜドレスを作りに来たの?…じゃなかった、作りに来たのでしょうか?」
落ち込むハイルを無視して男爵令嬢が尋ねる。
「エマ。」
それを制するウィリアムス王子
「だって、気になるじゃない。しかもこの子は勤労学生だって聞いたわ。魔女の娘ってお金ないの?」
あけすけな聞き方をするエマに対して、アレクサンドリアは動じない。
「ご心配ありがとうございます。案内状には、『ドレスを作る』ではなく、『異国民の意見を参考にしたい。』と書かれていたので、ここに来ました。」
後ろに控える側近をちらりと見るウィリアムス王子。
側近は頷く。手紙を実際に書いたのは側近だった。側近が頷いたのを見て、ウィリアムス王子は話を続ける。
「その通りだ。今回は意見を聞くために来ていただいた。思いがけぬ客人だったことに驚いたが、趣旨としては『異国民の意見を参考にしたい。』ということに変わりはない。」
「あと、お金もありません。母も特に必要としていませんでしたので。」
何とか話をそらしたかったウィリアムスだったが、アレクサンドリアが話題を戻した。
「ドレスは作れますが、お金を作るのは違法だと聞いたので。」
そう。救国の魔女はお金を必要としていなかった。必要なものは作ればいい。
アレクサンドリアも必要なものは作ればよかった。しかし、自宅として使用している古城で働く庭師のために、お給金を用意してあげたかった。また、古城の固定資産税も必要だった。
救国の魔女はそれらを現物給付で済ませていた。古城の税金も、役人に宝石などを押し付けて済ませていた。しかし、アレクサンドリアはこの土地の風習に合わせてきちんと支払いたかったのだ。
そのため、パトリックにお願いして職に付き、結婚後は夫と協力して定期的にお金を稼ぐように環境を調えた。
そんな個人的な財布事情をここで言う必要もなかったので、「お金を作るのはやめておきました。」とだけ伝えた。
周りも、なんとはなしに、なるほどと納得した。
資産はあるけど現金はあまり持たない。
資産家の現金事情に似ている気もした。
「ところで、卒業パーティだが。」
第二王子が仕切り直しをはかる。
突然の大物の出現に驚いた王子だったが、ここで得られる最大限の利を得ようと画策する。
稀代の魔女と言われる、救国の魔女。その娘のアレクサンドリアと共に学園に通えること。そして、自分の卒業式に華を添えてもらえることを期待して、パーティに招待することにした。
話を続けようとするウィリアムスだったが、アレクサンドリアが先に言葉を発する。
「申し訳ありません。今月でもう卒業することにしました。」
読んでいただきありがとうございます。
今日のアレクサンドリアメモ『年頃の男の子でも、ビー玉を欲しがる。』




