生徒会①
よろしくお願いします。
ハレキソスの占い『開けてはいけない箱がある』
「やあ、もしかして、君がローブのアレクサンドリアかい?
これから素敵な場所へ案内してあげよう。」
そう言って手を広げてアレクサンドリアを待っていた人物は、生徒会の一員だという。
名前はヒロだと名乗った。
背は少し高めで、痩せていて、この国の基準で美形だった。髪の色も珍しい紫。そして、優しく微笑むその表情に、だいたいの女の子は惚れてしまうことを、彼自身も自覚していた。
そんなヒロに対して、アレクサンドリアは少し警戒した。
彼女が警戒する時と言うのは、彼女に何かをしてくるのを恐れているのではなく、それに対してどこまでやっていいのかわからないので、やり過ぎるのを恐れている時だ。あまりやりすぎると夫に怒られてしまう。
「これから生徒会室に案内するよう言われている。」
ヒロは、人好きのする笑みでアレクサンドリアを棟の中へと案内する。
観察した結果、女の子に対して万遍なく積極的にアプローチするタイプの人間(=女好き)と判断し、アレクサンドリアは警戒を解いた。
自分に対してのみ好意を押し付けてくるタイプは面倒なことが多いが、このヒロという人物は大丈夫そうだ。
棟の入り口からつながる廊下を歩いていくのかと思っていたが、ヒロは入り口すぐ横の、少し重厚そうな扉を開いた。
「普通に行ってはつまらない。特別に来賓が通る方の通路を通って連れて行ってあげる。」
そこは、来賓が通るというだけあって、しっかりとした絨毯が敷き詰めてある廊下だった。左右には様々なものが展示してあった。
確かに素敵な場所かもしれない。
アレクサンドリアにとって懐かしいものが多かった。
少し前を行くヒロが、魔法学園が保管している貴重品だとか、何やら解説をしながら進んでいた。アレクサンドリアはそばに展示してあった小さな箱を眺めていた。
「ああ、それかい?」
「手に取ってもいいですか?」
「ああ、それは触れてもいいものだ。」
アレクサンドリアの様子に気がついたヒロは戻ってきて、小箱についての解説を始める。
「それは、『開かずの小箱』だ。どんな力を持ってしても開けることはできない。現在は開けることよりも中に何が入っているのか、透視魔法をつかって研究することが主流になっている。その方法は、」
「開きました。」
「え?」
「開きました。」
ヒロは、アレクサンドリアの手にある、蓋がバラバラになった小箱を見た。
「昔これと同じようなものを持っていました。最初は難しいですが、コツを掴んで、パズルの要領で魔力を上手に込めていくと開けることができます。」
「…そうか。君は異国を旅してた子だったね? 色々な知識が役に立つこともあるのだな!」
ヒロは意外にもアレクサンドリアを手放しで褒めた。
「ところで、中には何が入っていたんだい?」
そう言って、中を除きこもうと近づいてくるヒロに対して、ちょっと躊躇したあと、アレクサンドリアは蓋をもとに戻し閉じてしまった。
「…中は、見ない方がいいです。」
そう言って箱をもとの場所へ戻したとき、聞き覚えのある大きな声が聞こえた。
「ヒロ〜!ローブのアレクサンドリアは僕が案内するよう言われてたんだぞ!」
おなじみライオネル少年だ。相変わらずの大きな声で、廊下の反対側から声をかけてくる。
「久しぶりだね。アレクサンドリア。今日は生徒会室に来てくれることになってよかったよ! いつもは断られているからね。留学生のドレス作りの案も、僕が持ちかけた案なんだよ! これで、アレクサンドリアもダンスパーティーに出られるね! よければ、僕がエスコートするよ!」
息つく暇もなく、ライオネルが一気に話しかける。
そこでアレクサンドリアは思い出す。
「そう言えば、私の家族が、ライオネル先輩に会いたいと言っていました。」
「えっ!? もう挨拶かい?」
満面の笑みで、うかれるライオネル。
自分に対してのみ好意を押し付けてくるタイプは面倒なことが多いが、ライオネルは警戒に値しない。最近では見ていて少し面白いとさえ思えるようになってきた。
ライオネルのことをうるさそうにするヒロと、3人で来賓用廊下を抜け、目的の生徒会室へと向かう。
生徒会室の扉を開けると、そこにはピンクの髪をおさげにした女の子が立っていた。
第2王子お気に入りの男爵令嬢だと、ヒロが耳打ちした。
「あなた、ローブのアレクサンドリアね。あなたの噂を聞いたことがあるわ。私が一緒に素敵なドレスをデザインしてあげましょう。」
男爵令嬢は笑顔でそう言った。
読んでいただきありがとうございます。
本日のアレクサンドリアメモ『笑顔にも色々な種類がある。』