生徒会からの案内状
よろしくお願いします。
ハレキソスの占い『幸運の色:恋をしたければ紫色』
「英雄…聖騎士様。」
招いた先の部屋にいる人物をみて、3人娘は口を揃えてそう言う。
そして、3人はキャー!と叫んで目の前の聖騎士に駆け寄った。
「本当に聖騎士様ですよね?!」興奮するマーラ。
「あの、ずっと憧れていました。」うっとりするレティシア。
「失礼いたしました。アトラス領子爵家のアンナと申します。お初にお目にかかります。」叫んだあと咳払いをし、なんとか立て直して、挨拶をするアンナ。
苦笑しながら、聖騎士が挨拶をする。
「はじめまして。妻のアレクサンドリアが世話になってるようだね。」
差し出された手に即時に反応して皆握手を交わす。
交わしながら、少しずつ思考力が回復する。
「つま…妻?え?」レティシアがアレクサンドリアを振り返る。
「え、アレクサンドリア結婚していたの?」マーラも驚いてアレクサンドリアを振り返る。
アンナだけは、振り返ることはせず、青ざめる。
「アレクサンドリア、あなたの、あなたの母親は?」
息を詰めたアンナにそう問われ、アレクサンドリアはちらりと壁に掛かる両親の肖像画を見る。それが答えなのだろう。
知らなかったとはいえ、今まで自分はどんな振る舞いをしていたのだろう。
私の屋敷を見て何を学べというのだろう。
そして、どんな粗相をしただろう。
自己紹介の時、アレクサンドリアはなんと言っていたか。アンナは思い出そうとする。
外国籍、旅人、孤児。
何一つ間違っていない。
救国の魔女は外の国から来たという。
世界中を旅していると言う。
そして、救国の魔女も勇者ももうおらず、その娘は将軍に保護されたと聞く。
なぜ彼女を自分より下の者だと勘違いしてしまったのだろう。(そもそも外国籍でも旅人でも孤児でも下に見てはいけないことには、アンナは気がついていない。)
そんな自分を恥じた。
「アンナ。先日はありがとう。とても素敵なおもてなしでした。私も頑張ります。」
うつむくアンナに対して、アレクサンドリアの言葉はとても優しく感じた。
食卓へ移動した、3人娘と夫婦。
アレクサンドリアのもてなしは、珍妙だった。
よくわからないお菓子。
見慣れない飾り付け。
しかし、精一杯もてなしてくれているのはわかる。
3人娘は戸惑いながらも、アレクサンドリアと少し仲良くなれた気がした。
「アンナ。ひとつ教えてほしいことがあるのです。」そう言うアレクサンドリアの手には、おしゃれな封筒に入った手紙があった。
差し出されたので、それを手に取るアンナ。
「これは?」
そう聞きながら裏返すと、そこには差出人の名前が書いてあった。
「これは、第2王子からの手紙ですね。」
アンナはそう確認する。大物からの手紙に手が震えるが、顔には出さないようにする。
「はい、そうです。」
「これはどうしたのですか?」
「昨日ライオネルから渡されました。このタイプのお手紙の返事の仕方をあまり良く知りません。一度アンナも読んでみてくれませんか?」
「そうですか。まず最初にお伝えしたいのは、人の手紙を読むことは推奨されていません。」
「そうなのですね。アンナなら詳しいと思ったので、残念です。」
「私の場合は執事がこのような事を教えてくれます。アレクサンドリアには教えてくれる人は?」
「そうですね。上司のパトリックに聞いてみます。」
(英雄が、上司…。)
改めてアレクサンドリアの周りにいる人達が非凡なことを認識する3人。
しかし、困ったことを素直に聞いてくるその様子は、『何だか面倒を見てあげたくなるわ』とも思った。
その後しばらくおしゃべりをしたあと、解散となり、また馬のいない馬車で3人娘は帰っていった。
後日。
第2王子からの手紙をパトリックに確認したところ、単なる案内状なので返事を書く必要はないとのことだった。
そして、内容は卒業パーティにあたって、異国からの生徒達の意見を聞きたいというものだったので、協力することにした。
休み時間中に生徒会室に来てほしいと書いてあったので、上級魔法科の棟へとむかった。
これが放課後だったなら、きっとアレクサンドリアは時間がもったいないと、断っていたことだろう。
入口まで行くと、そこに紫色の髪をした少年が立っていた。
そして手を広げながら言う。
「やあ、もしかして、君がアレクサンドリアかい?これから素敵な場所へ案内してあげよう。」
女の子たちが歓声をあげそうな笑顔を見せた。
アレクサンドリアは、少し警戒した。
読んでいただきありがとうございます。
アレクサンドリアのメモ『おやつに辛いものはあまり好まれない。』