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 ハレキソスの今日の占い(自分用)『腰痛に注意』







「君!その宝石をどこで取ったんだ!」


 そう言いながら教室に闖入ちんにゅうしてきたのは、銀髪マッシュルームカットの、肌も白い可愛らしい少年。


 しかし、その表情は不機嫌そのものだ。


「もう一度聞く。その宝石をどこで取ったんだ?」


 決して大きな声ではないが、腹から声を出すように一言一言はっきりと話す。それは人に言うことを聞かせるのに慣れている者の話し方だった。


 その気迫に、周りの生徒達も知らず後退る。


 それに対して何も答えないアレクサンドリア。


「聞こえているのか?」


 そう聞かれても、ただ黙っている。


 このような状況の時、アレクサンドリアはたいてい言葉を発しない。相手が自分に対して害意を持っていると感じられる時、じっとその様子を伺う。


 この様子に耐えきれなくなった、近くにいた生徒が、少年にそっと伝える。


「ハイル先輩。その子は留学生です。旅の生活をしていたそうなので、どこかで拾ったのかもしれません。」


 それを聞いた周りの生徒も、皆必死にうなずく。


 先輩怖い。アレクサンドリアちゃん可哀想。でも何となくアレクサンドリアちゃんも怖い。そんな状況を打破してくれそうなことを伝えたこの生徒に、皆心の中で拍手を送った。


「…そうか。返事がないのも、言葉が不自由だからなのだな。」


 皆、(違うよ〜…)とおもったが、心の中でとどめた。


 すると、ハイルは少し笑顔をつくり、ゆっくりはっきりと話し始めた。


「君。言葉は、わかるかい?」


 態度が少し軟化したことに安心する周りの生徒達。

 喋らない、動かないアレクサンドリア。


「この石、どこで、取ったの?」


 優しそうだけど言っていることは変わらない。再び緊張が走る周りの生徒達。


 腰に手を当て、一度深くため息を吐くハイル。

「これはね。君たちのような子には、想像も及ばない、大切ものなんだ。正直に言う。これは、おそらく国宝だ。」


 周りの生徒達も、予想外の展開に息を呑む。


「僕の家は。国宝を、閲覧できる、立場にある。」

 留学生(正確には通常入学の外国籍生徒)のアレクサンドリアにも分かりやすいように、できるだけ言葉を区切って伝えるハイル。


「その中にある、『8つの宝玉ほうぎょく』。これは本来9つでひとセットだと言われている。」それ故に『欠けた宝玉』とも言われているのだが、と小さな声でハイルはつぶやく。


「僕はその宝玉を何度も見たことがある。とても美しいのだ。そして、ひとつ足らないことが口惜しく、この宝玉への思いが深くなっていくのだ。そうしてこの宝玉の虜となるものが多い。僕もその一人だ。」


 つまり、宝石マニア。ハイルは留学生への配慮も忘れて早口になって語り始めた。


「そして、おそらくそれは最後の一欠片。」

 かわいい顔でアレクサンドリアを睨みつける。


「だから、君はただちにその宝玉を国に返すべきなのだ。」

 ハイルはそう演説を締めくくる。


 ながれでつい拍手しそうになって、我に返って手を引っ込める周りの生徒。


「ああ、そういうことですか。」

 ようやくアレクサンドリアが喋った。


「? しゃべれたのか。」


 驚くハイルには構わず続けるアレクサンドリア。


「つまり、このアクセサリーが欲しいと言うことですね。」


 その言い草にハイルは片眉をあげる。


「…君にはただのアクセサリーに見えても、これは計り知れないほどの価値があるものなんだ。どのようにして手に入れたのかわからないが、返すべきだ。」


「申し訳ございません。これは母から貰った大切なものです。あげることはできません。」

 事務的に返答するアレクサンドリア。


 激昂し、ひゅっと一度息を飲み込むハイル。


 そして彼が何かを言いかけたとき、アレクサンドリアがちらりと壁時計を見た。それにつられて時計を見るハイル。周りの子もつられて時計を見る。


 そして、忽然と姿を消すハイル。


 驚いた周りの生徒達。

「か、彼はどこへ行ったのでしょう?!」

 騒然となる中、アレクサンドリアは席につく。


「もう授業が始まる時間なので、教室に戻ってもらいました。」

 アレクサンドリアがそう言うので、『そ、そうなのね。』と周りの子達がわからないながらも納得したことにして、彼らも授業の準備をはじめた。



 唐突に教室に()()()()()ハイル。わけのわからないまま彼も授業の準備を始めた。


 その日以降何度もアレクサンドリアに会いに行こうとするのだが、なぜか会えない。


 そのことを同級生に愚痴ると、『あ〜魔除けでも持ってるんじゃない?』とからかわれ、また激怒するハイル先輩であった。





 ハイル先輩を飛ばした日の放課後の帰り道。アレクサンドリアはハレキソスを自宅に誘うことにした。


「ハレキソス。私の家に遊びに来ませんか?」


「ありがとう。遊びに行きたい。いつがいいのだろうか?」


「そうですね。今日はどうですか?」


「今日? 時間はある。しかし自宅は遠いと聞いていたが。着いたら夕暮れではないだろうか?」


「大丈夫です。」

 歩きながら話していた、そのやり取りの次の一歩目にはアレクサンドリアの自宅に着いていた。


「こ、これは?」

 あまり驚かないハレキソスが腰を抜かしかけていた。


「転移魔法は便利ですね。」

 平然とそうアレクサンドリア。


 しゃがみ込むハレキソスにアレクサンドリアが手を貸してあげる。


 ハレキソスは、腰をさすりながら、今日の占いを思い出した。


「アレクサンドリア。通常は転移魔法は大掛かりな魔方陣を上級魔法使いが集まって作成して行うものだ。」


「そうなのですね。知りませんでした。でも今の転移は一番簡単なものですよ。母の場合はもっとややこしい転移を行います。」


「ややこしい転移?」


「時空を曲げる方法、分解再構築する方法、力づくで投げて空間に穴をあける方法・・・。」


「御母堂はすごい方だったのだな。」


「ええ。人騒がせな母です。」


 転移の驚きからようやく冷め、ハレキソスは周りを見渡す余裕ができた。


「アレクサンドリアはお城に住んでいたのだな。」


「はい。古いものを母と父が買ったようです。()()()()()()()()()()()


 変わった言い回しだが、ハレキソスも実家は季節ごとに移動する生活を送っているので、違和感なく受け止めた。


「家族が挨拶をしたいというのですが、いいでしょうか?」

「もちろん。」


 城の中は見慣れないものだらけだったが、ハレキソスは無駄にキョロキョロせず、背筋を伸ばして堂々とアレクサンドリアについていく。




 そしてまた、案内をされた部屋の中にいる人物に唖然とする。


「英雄…聖騎士殿。」


 そうつぶやき、今日の占いをまた思い出すのだった。

読んでいただきありがとうございます。


今日のアレクサンドリアのメモ『よそ見をすると、皆つられてそちらを見る』

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