宮廷鍛冶師なんて存在する価値ないよねと第三王子に罵倒された上に追放された……でもこれで自由じゃん!これからは自分のためだけに装備を作り無自覚に無双します。
「お前みたいな宮廷鍛冶師なんて存在する価値ないよね」
「え……急にどうされたのですか?」
私、アイラは宮廷鍛冶師として国家のために働いていた。
リトバー王国に存在する【世界最強】と言われている軍、そのほとんどに武器を提供している。
今日もいつものように作業をしていたのだが、第三王子であるカリン様が訪れてきたかとそんなことを言われた。
正直、理解に苦しんだ。
「どうして、私を罵倒するんですか?」
なぜなら、カリン様は過去に頭を下げてまで私を宮廷まで連れてきた事実がある。
一般市民上がりの私は宮廷鍛冶師なんてやりたくなかったのだが、強制的に働かされていたのだ。
「だってさ、もう必要ないんだ。お前が作る武器や装備は全て行き届いている。となると、アイラは宮廷にいる必要ないよね?」
いやいや、待ってほしい。
それってものすごく理不尽じゃないですか?
武器や装備はもう皆に渡っているから必要ない?
「僕はもう、君を必要としていないんだ。つまり、これがどういうことか分かるかな?」
言って、カリン様はニヤリと笑う。
「君を宮廷から追放させていただく。まあ、平民上がりの君が少しでも国家の役に立てれてよかったね。これで、後悔することなく死ねるんじゃないかな」
「待ってください! 追放までされてしまうと、他の人達が大変なことに!」
「もしかして命乞いしているのか? 残念ながら僕には効かないよ。諦めてくれ」
「いや……違います!」
もう、この馬鹿王子には興味はない。
ただ他の人達が心配だ。
当然のことではあるが、装備というものは定期的にメンテナンスをしなければならない。
特に、装備のメンテナンスは作った鍛冶師が担当するものだ。
「装備のメンテナンスは誰がするんですか! 私がいないと……武器の劣化は避けられません!」
「武器のメンテナンスなんてそこらの鍛冶師がしてくれる。何度も言わせないでほしいな。もう、君の役目は終わったんだよ」
やっぱり理解してくれていない。
鍛冶のことなんて一切分かっていない。
私は思い切りため息を吐いて、ちらりと馬鹿王子を見た。
……微笑を浮かべてやがる。
私を追放して、スッキリしているようだ。
「分かりました。なら追放は受け入れます。でも、どうなっても責任は持ちません」
荷物を手に取り、カリン様を睨めつける。
「その代わり、絶対に何があっても戻りませんからね」
「いい度胸じゃないか。ああ、もう宮廷には必要ないからね。もちろん戻らなくて構わないよ」
本当にこの人は分かっていない。
鍛冶師を馬鹿にしているとしか思えない。
嫌がる私をわざわざ呼び出しておいて、用件が終わったらこれか。
なんだかため息すら出てこない。
私は荷物をまとめて、馬鹿王子を一瞥する。
あの人を下に見るような目……本当に彼が王子だなんて思うと市民が可哀想だ。
「それでは、お世話になりました」
「はいはい。夜道には気をつけてねー」
別に問題ないです。
外は月が出ている時間帯ということもあり、静かである。
もう王都にはいられないから、どこか辺境にでも行こう。
はぁ……って待って?
これってさ、私……自由になったってことだよね。
嫌々宮廷鍛冶師をさせられて、毎日徹夜続き。
体調はいつもグロッキー。
でも、これで私念願の自由を手に入れたってことだよね。
これ……めちゃくちゃ喜ばしいことじゃないの!?
「なんだか嬉しくなってきたかも! ため息ばっか吐いてたけど、超プラス思考に考えたら最高じゃない!」
もう誰に縛られることもなく、自由に大好きな鍛冶ができる!
「よし、すぐに辺境に行こう! 目指せ自由! 掴もう未来!」
私は妙にテンションが高いまま、王都の中心部へと走っていく。
ここまで来ると、静かな空間から若者たちの声で騒がしくなってくる。
やっぱり王都周辺は飲み屋も揃っているから、真夜中も楽しめるからね。
私……まだ若いのにこんな生活したことなかったな。
辺境では絶対にしよう。そうしよう。
夜も深くなってきたが、王都なのでまだ馬車は出ている。
馬車に乗り込み、
「適当にどこか遠い場所にお願いします!」
と御者さんにお願いした。
「どこか遠い場所か。王都からだと辺境は高くなるけど、お金は持っているのかい?」
まあ当然の疑問である。
距離が遠くなればなるほどお金はかかってくる。
「あの……これってお金の代わりになりますかね?」
「お、お嬢さん……これは!?」
私はポケットから、少量の金を取り出した。
少量といっても、これだけあればお金に換算するとかなりの金額になる。
「もちろん構わん! すぐに運ばせてもらうよ!」
「ありがとうございます!」
いやー……私を追放したのが馬鹿王子でよかった。
あれがめちゃくちゃ紳士的で有能な人だったら、こんなことできなかったな。
悪い笑みを浮かべながら、ポケットに入っている金を握りしめる。
これは軍隊の上層部、その武器に装飾する物だ。
それをちょびっとだけくすねてきた。
怒られるのは多分馬鹿王子だから問題ない。
ざまあみろである。
◆
「というわけで、やってきました! ここはどこだろう!」
「ヘルメス男爵領だよ。じゃあな嬢さん。俺は帰るぜ」
「あ、ありがとうございました!」
飛び降り、頭を傾げた私に速攻場所を教えてくれた御者さんには感謝しなければならない。
そもそも私が一切指定せずに馬車に乗り込んだからね。
にしても……だけど。
「さびれてるなぁ……」
なんと言う田舎。
王都は対照的な場所である。
閑古鳥も鳴きまくっている感じだ。
「とりあえずご挨拶しないと!」
辺境とはいえ、ギルドの一つくらいあるだろう。
初めて来た街。そこに移住したい。
そんな時、困ったら真っ先に行けばいいのがギルドだ。
挨拶をして……とりあえず店を出す許可を貰いたいな。
やっぱり鍛冶師は続けたいし。
……なんだろう。
ギルドを探して歩いているのだけど、視線がめちゃくちゃ痛い。
「なんだあいつ」
「たっく、よそ者が来やがったぜ」
「追い出しちまうか?」
す、すごく怖いんですけどぉぉ!
急ぎ足で歩こう。
頑張れ私。
強く生きるんだ私。
なんて考えていると、いつの間にかギルドの前まで来ていた。
田舎とはいえ、ギルドはさすがと言わんばかりに大きい。
「お、お邪魔します……」
こそこそとしながら扉を開くと、屈強な冒険者たちがギロリと私の方を見てきた。
これ、大丈夫かな。
殺されたりしない?
とりあえず受付嬢さんのところに……。
「てめえ、見ない顔だな」
「は、はい!!」
さながら小動物のようにバレないよう移動していたのだが、やはり見つかってしまった。
私は首根っこを掴まれた猫のように、震えながら男を見上げる。
「こんな場所に来るなんていい度胸じゃねえか。何しに来やがった」
「ああ、それはですね。えっと――」
言いかけた瞬間、男がバッと手を突き出してくる。
「みなまで言うな。分かっている。こんな辺鄙な場所にわざわざ来るやつの理由なんて一つしかない」
へ……?
何か勘違いされてる?
「冒険者として、辺境から成り上がるって魂胆だろ? 最近多いんだよな、そんな甘えた思想を持ったクソガキが」
「いやいや! 違います! 私はただ鍛冶師として――」
「冒険者として活動するには、まず冒険者ライセンスが必須だ。武器は……持っているよな?」
「武器ぃ!? えっと、私は何をさせられようとしているんでしょう……?」
恐る恐る尋ねてみると、当たり前かのように男が答えた。
「試験に決まっているだろ。ここの一番の冒険者は今不在だ。そこで、大サービスで俺様が相手してやる」
ひいいいいいい!
絶対ボコボコにされる!
「あの! だからあの!」
「いいから来い!」
どうにか説明しようと頑張ったのだが、私は何もすることができずただただ運ばれていった。
◆
「今から武器を作るだぁ?」
「ええ……はい。武器がないので……」
もうここまで来たら勢いに乗ってやろうと、私は冒険者試験を受けることにした。
勝っても負けても、最後にもう一度落ち着いた状態で説明すれば聞いてくれるだろうという甘い考えではあるけど。
ここは当たり前だが、工房がない。
だが、私にとっては無問題である。
私は鍛冶職人ではあるが、普通の鍛冶とは違う方法で装備を作る。
武器を打つのではなく、武器を錬成するに近いだろうか。
私が持つのはハンマーではなく、魔力である。
純粋な鉄をバッグから取り出し、手で握る。
そして、一気に魔力を流し込むと――
「おいおいおい……武器を一瞬で作りやがった……!?」
私の手には、短剣が握られていた。
やっぱり、これだけの鉄じゃあ短剣しか作れないか。
「準備はできました。ええと、戦闘経験はないので優しくお願いします」
「……ふん。クソガキが生意気だ」
準備ができたことを伝えると、すぐに闘技場へと案内された。
「来やがったぜ!」
「やっぱりよそ者をボコる瞬間を見るのが一番楽しいんだよなぁ!」
やはりというか、私はあまり歓迎されていないらしい。
というか、肴にされている。
「嬢ちゃん。すまないが、手加減するのは苦手でね。たとえ女の子でも、遠慮はできないぞ」
「あの……手加減してほしいな……なんて」
言ってみるが、案の定無視された。
ここは仕方がない。
やれるだけやるしかないだろう。
「それじゃあ行くぞ!!」
「は、はい!!」
男が大剣を手に持って、思い切り迫ってくる。
あんな大きい物、よく振り回せるなぁ……。
しかし、職人病だろうか。
相手の剣が少し……というか、かなり荒い物だと気がついた。
これじゃあ、下手すれば魔物の一撃で破壊されちゃう――
「なんて考える暇なんてないんだったぁぁぁ!!」
私は悲鳴を上げながら、短剣を突き出す。
瞬間、ピキン! と言う音が周囲に響いた。
い、一体何が起こったのだろうか。
私は恐る恐る閉じていた目を開いてみる。
すると、私の短剣が相手の大剣に突き刺さっていた。
「なっ……!?」
そして大きな音を立てて、相手の大剣が粉々に散っていった。
「あ、あれ?」
私の短剣はひび割れてなんかいない。
どころか新品同様なのに、何故か相手の大剣だけ破壊されている。
ええ……一体どんだけ荒い品物だったんだろう?
「てめえ……何やったんだ?」
「わ、分かりません」
静まり返る闘技場。
「大剣が短剣に負けた?」
「ていうか、破壊されたよな?」
「ありえるのか……そんなこと」
冷静になってきたのか、会場からそんな声が上がってくる。
私も正直愕然としていた。
確かに私の作る装備は一定の品質はあると思うけど、こんなにすごいものだったの?
自分で試したことなんて木を斬ってみたりだとかしかなかったから、驚きしかないんだけど……。
いや、さすがにたまたまか。
うん。絶対そう。
たまたま……短剣の一撃で大剣が破壊される……。
たまたま?
「ちょっと君。少し君の武器を見てもいいかしら?」
「エ、エレナさん!」
男の人が、突然割り込んできた女性を見て声を上げた。
エレナさん……一体誰だろうか。
でも、反応的にここの偉い人なのかな?
「も、もちろん構いません」
私は恐る恐る武器を手渡す。
エレナさんは丁寧に武器を見定め、そして腰に下げていた自分の剣を引き抜く。
引き抜いた剣を地面に置き、持っていた私の短剣でコツンとつついた。
パリンっっっ!
「え、ええ?」
簡単に破壊された剣を見て、私は困惑してしまう。
剣ってこんなにも簡単に壊れるものなんだっけ?
「君の名前は?」
「アイラです……」
名乗ると、エレナさんが立ち上がって短剣を渡してくる。
「これは君が作ったもので合っているかな?」
「はい。私が作ったものですが、それが……」
「一体何で作ったの? どういう工程を挟んでこれを生み出した?」
「鉄です。ええと、作り方は魔法を使って、えいって感じで」
「鉄……ありえない。簡潔に言うけど、この短剣は俗にいう【聖剣】と似たようなもの。つまりは【伝説級】の代物と同じと言っていい」
「聖剣!? そんなまさか」
「そのまさか。私も正直驚いているけど……こんなにも質が高い武器を生み出せる人間なんて初めてみた」
エレナさんはじっくりと短剣を見た後、私に手渡してきた。
「おっと、ごめんね。私はエレナ。ここのギルドに所属している冒険者」
「エレナさんはSランク冒険者で国家にも認められたすごい人なんだぞ!」
隣にいた男が、付け加えるように言う。
Sランク冒険者!?
それってめちゃくちゃすごい人じゃん!?
比較するならば、勇者がトップならば二番目にすごい冒険者である。
そんな人物がどうしてこんなところにいるんだろう。
「アイラさんは冒険者になるためにここに来た……ってわけじゃないよね?」
どうやら、エレナさんは大方察してくれているらしい。
「はい。私は鍛冶師として店を開きたいなぁ……と思ってここに来ました。何故か冒険者試験を受けることになりましたけど……」
「なるほどね。うん、歓迎するよ。こんなにも優秀な人が来てくれて私も嬉しい。ええと、でもちょっとお願い」
エレナさんはこちらに顔を近づけて、耳打ちしてくる。
「人手不足だから少し戦闘にも付き合ってくれたら嬉しいな。君、強いもん」
「ええ!? 嘘ですよね!?」
「よろしくね! アイラ!」
「そ、そんな……怖いの、めちゃくちゃ嫌なんですけどぉ……」
なんて言った瞬間のことだ。
私が持っていた短剣がピキッと音を立ててヒビが入った。
「あ、やっぱり」
「ん? あれほどの短剣にどうしてヒビが?」
「私が作る装備、定期的にメンテナンスが必要なんですよね。多分、今回は数少ない素材で作った上に、無理をさせすぎちゃったからだと」
「なるほど……。となるともっとちゃんとした素材と、定期的なメンテナンスがあれば、あのような効果が永遠に続くと考えて良い?」
「そうですね。定期的なメンテナンスがあれば……あ」
ふと思い出す。
そろそろ、宮廷に配布している装備のメンテナンスの時期だった気がするんだけど……まあいいか!
あの馬鹿王子がどうにかしてくれるだろう!
「どうしたの? 何か考え事?」
「いえ! なんでもありません! えっと、よろしくお願いします!」
「よろしくね。それと、敬語じゃなくていいから」
「わ、分かりました!」
「敬語、じゃなくていいよ?」
「!! 気をつけるね……」
人見知りだから、ついつい敬語使っちゃうな。
でも……少し嬉しい。
私のことを認めてくれる人なんて、今までいなかった。
こうやってすごいって言われるの、悪くないかも。
よし、ここで自由に。
皆のために装備を作ろう!
多分、そっちの方が宮廷でいるより百倍いいことがあると思う!
頑張ろう、私!
◆
「すみません……こんな複雑な装備。僕ではメンテナンスできません」
「は……? 何を言っているんだ?」
カリンは、アイラの代わるである鍛冶師の一言に呆然としてしまう。
今日は装備のメンテナンスの日であり、軍の装備が山のように工房に届いていた。
メンテナンスなんて所詮、簡単なものだろうと思い安く鍛冶師を雇ってみたのだが……すぐに苦情が軍隊から入ってきた。
「武器が劣化どころか、粉々になってしまった」
「こんなんじゃ戦えない」
「アイラはいないのか」
と、山のように声が上がったのだ。
それを聞いて、慌てて工房に来てみたのだが。
そこには諦めの表情を見せている鍛冶師の姿しかなかった。
「簡単なことだろう? だって、たかがメンテナンスだぞ?」
「いや……たかがメンテナンスじゃないですよ! こんな複雑な装備、見たことがありません!」
「複雑? そんなわけがない! 武器なんて所詮、簡単に作れるものだ!」
「違いますって! はっきり言いますが、この装備たち。一言で言うなら伝説級です。そんなのを何百個もメンテナンスできるわけないじゃないですか!」
「で、伝説級?」
カリンからは、変な声が出てしまう。
伝説級って、一体どういうことだ。
「僕には無理です! こんな装備、扱えません!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
そう言って、安く雇った鍛冶師が工房から走り去っていった。
「伝説級って、一体……」
カリンはただ、放置された装備の山を眺めることしかできなかった。
これが……本当に【全て】伝説級なのか?
信じきれていないでいると、扉からノック音が響く。
先程出ていった鍛冶師がもう一度戻ってきたのだろうかと思ったが、違った。
一人の使用人が気まずそうに、こちらを見ている。
「カリン様……国王様がお呼びです。軍の件についてだと……」
「まさか……」
カリンはドキリとした。
今現在、明らかに軍から不満の声が上がっているのは事実である。
そして、軍事力がこの一日で下がったのも事実である。
今、こうやって国王様に呼び出されたという意味が、カリンにはなんとなく分かってしまっていた。
カリンの甘い考えにより、これから世界最強と呼ばれていたリトバー王国の軍は一気に弱体化していく。第三王子としての地位も危うくなっていくのだが――対してアイラは辺境にて自由に無自覚に伝説級の装備を生み出し、一気に知名度を上げていくことになる。
自分に自信がなかった少女が、実は自分が作る装備がヤバいことに気がつく。そんな物語。
その序章である。