魔力と船酔い
総合ポイント、50越え!
一番偉い人だったのか。師団長さんが率いる第四魔術師団は他国の調査を担当しているらしい。他国の調査と言っても、魔物の生態系や数の確認を各国から提出された書類でして、実際に見てまわる仕事のこと。スパイ活動とは異なるそうだ。
「国家魔術師には二種類の枠があるの。一般と亡命者特別枠。あなたはどちらなのかしら」
「私は亡命者なので、亡命者枠で受けようと思ってます」
師団長さんは、私が亡命者ってことに凄く驚いていた。まあ、ただの子供にしか見えないもんね。実際、まだ子供だし。それよりも、もっと知りたいことがいっぱいあるんだよ。時間は限られているから、聞きたい情報を絞らないと。
「魔術師団は何個あるんですか」
「七つよ。これは騎士団も同じで、基本は騎士団と協力して行動するのよ。一番入るのが難しいのが第七魔術師団と第七騎士団。この二つは王族の護衛が仕事だから、相当な実力者じゃないと入れなくてね。人数も他のところに比べて少ないの。その分、お給料も他のところより多いの」
「階級、みたいなのはあるんですか?」
「もちろん。師団長はローブに金糸の刺繍が、団長は鎧に金色の装飾。副師団長と副団長は銀色。それぞれ一人ずつ。その他は紫。そうね、あとは各団にイメージカラー的なものもあるのよ」
「じゃあ、一目見れば、その人の階級や所属が分かっちゃうんですね」
「そう。第一は白、第二は黒、第三が緑、第四は黄色。このローブを見れば分かるわよね。そして、第五は赤、第六は青、第七が灰色」
そんな感じで話を聞いていると、他の乗客がやってきていた。その人は鎧を着ていた。あれ、黄色の鎧に金色の装飾ってことは、もしや・・・・・・
「レインちゃん、この子が私の相棒であり、第四騎士団団長」
師団長さんが鎧の人を私に紹介した。ですよね!分かってました。まさか、師団長・団長コンビに会うとは思わなかった。団長さんは軽く私に頭を下げ、師団長さんの頭を思いっきりチョップした。ガン、と師団長さんの頭から鈍い音がした。うわあ、痛そう。師団長さんは頭を抱え、呻いている。なぜに叩いた、団長さん。
「何をべらべら話してるんだ。まだ子供だからと言って、油断するな。何であたし達トップの写真は記者達に撮らないように通達していると思ってるんだ。あほ」
「うう、だって、この子、国家魔術師試験を受けるって言うからぁ、いいかなと思ったんだもん」
師団長さんが涙目になりながら団長さんにそう言い訳をした。そこで私に振るなよ。団長さんは私を一瞥し、師団長さんの荷物を漁り出した。その行動に驚愕して、師団長さんを見るが涼しい顔をしている。団長さんの荷物だったのか。なるほど。団長さんは手のひらサイズの水晶玉を私に差し出してきた。これ、鑑定水晶だ。昔、魔力を測定するために使ったんだよね。懐かしい。
「これに手を翳してみてくれ」
「魔力を測るんですよね。多分、この水晶、弾けますよ」
私がそう言うと、団長さんは鼻で笑った。ちょっと、むかつくな。子供だからってちょっと舐めすぎでは?マジで弾けたんだから。幼少期に測定したから、今はその何十倍にも魔力が膨れ上がっている。今測ったら、鑑定水晶がどうなるか分からない。はっきり言って、船ごと爆発する可能性もある。
「ふん、マギラの鑑定水晶は世界一丈夫なんだ。弾けるわけがない。もし、弾けたら、試験の時、あたし達が口添えしてやる」
「本当ですか」
「ああ」
団長さんはそんなことを言った。ふうん、そこまで言うなら受けて立とうじゃないの。私は鑑定水晶に手を置き、魔力を込める。あれ、本当だ。カランの鑑定水晶よりは丈夫らしい。でも、もっと込めても全然私は余裕だよ。もっと込めてやる。私は魔力を込めて込めて込めまくった。水晶の光はどんどん強くなり、虹色の輝きが部屋を満たしていく。ピキリ、と水晶にひびが入る。ひびは大きくなり、最終的に、水晶は粉になり、団長さんの手からサラサラと落ちていった。よかった、弾けなくて。砂になる程度で済んだってことは、本当に丈夫なんだね。こっちこそ舐めてました。ごめんなさい。
「な!」
「弾けはしなかったけど、粉状に・・・・・・」
団長さんは絶句、師団長さんは呆然と呟いた。だから言ったじゃん。壊れると。弁償しろと言われても、たぶんできない。鑑定水晶はどの国でも貴重品だ。それこそ、団長や王族、領主が治める街のギルドにあるぐらい。この強度だと、大金貨一枚と言ったところか。
「あの、弁償しろとかは、言いませんよね?」
「へ?ああ、い、言わないわよ、そんなこと。だって、あなたの言葉を信じなかった私達が悪いもの。私の実家がこれを作ってるから、実家に安く譲ってもらうわ」
団長さんを見ると手紙をすごい勢いで書いていた。え、こわ。顔が怖い。鬼の形相なんですけど。引くわ。
「セレナ、軍部大臣と第七師団長宛に手紙を書いた。風魔法ですぐに送ってくれ」
「え、でも・・・・・・」
「早く!こんな膨大な魔力を持った人間、いや、存在は初めて見た。エルフでもこんな魔力量は有していない!」
団長さんに急かされた師団長さんは呪文を唱え、船の窓からどこかに手紙を飛ばした。なるほど、その使い方があったのか。風魔法の新たな使い方を発見した瞬間でもあった。
私はその後、二人に根掘り葉掘り聞かれた。出身国、魔法属性、今までの経歴。初級から上級魔法全てを使えるか等々。それはもう、たくさん。その間に最後の乗客が来たけど、私達のことは無視していた。
「この子が国家魔術師になれば、マギラの発言力はもっと増すわね」
「うん、特にカランに対して、もっと強気でいられる。カランに戦を仕掛けてもいいかもしれん。あの国は、貴族の魔力の多さしか取り柄がないからな。だけど、それだけで攻め込めなくなってしまっていた。だが、彼女がいれば、形勢逆転だ」
なんか、話の規模が大きくなってる。私、そんなにすごいの?あのままカランで王子妃になってたら、化け物生み出してたってこと?え、亡命して正解だった。あ、もう頭がパンクしそう。二人は私を置いてどんどん話を進めていく。もう、やーめた!考えることを放棄します!私はベッドで眠りについた。最後の一人の乗客は、誰だったのか、最後まで分からずじまいだった。
「出港しまーす」
誰かがそう言うと、船が動き出した。少しづつスピードが上がっていき、グラグラと揺れてきた。ちょっと、気持ち悪くなってきた。これが、船酔いというやつか。うぇ、頭までおかしくなりそう。私は明かりの点いていない部屋の中を月明かりを頼りに歩いていく。船自体も揺れ、歩くのが大変だ。やっとの思いで部屋の外に出る。外は光の魔石が明かりの代わりにともされており、部屋に比べて明るかった。壁に手をつきながら、デッキに向かって階段を踏み外さないように、慎重に上っていく。
最後の段を上り、木製の扉を開ける。外気が入ってきて、ブルリと身体を震わせた。私は寒さに耐えながら、デッキに出る。デッキの縁の手すりに寄り掛かり、深呼吸をした。何もない、黒の海を見ながら、体調を整え、再び部屋に戻る。耐えられるかな、この船旅。私、大分船が不得意らしいんだけど。死ぬ気で乗り越えるしかないか。根性で頑張ろう。
そんな感じでスタートした船旅で、私が学んだことが一つだけあった。私に船旅は天敵、以上。ずっと船酔いの気持ち悪さに悩まされ、何もできなかった。部屋とデッキを行き来するだけ。ご飯も気持ち悪くて、固形物は喉を通らない。チョコレートは辛うじて食べられたからよかったものの、ろくに食事もできない日々が数日続き、マギラ王国に到着した。
おしえて、レインちゃん!
?「レインちゃん、異常でしょ。魔力量」
レ「だから、貴族になれたんだよ。国を滅ぼしかねないから」
?「そんな理由だったの?!」
レ「そうだよ」