船のチケット
街を観光したいけど、マギラに着かない限り私に平穏な日々は訪れない。私は旅が好きなんじゃない、平穏な日々を手に入れたいだけなんだから。そして、本当の家族と人生をやり直す。それが、私の当面の目標。
そんな決意を胸に秘め、私は宿屋を見つけた。初めて見た。他の領地に行く時は各領地の貴族の城にお世話になってたから、なんか新鮮。一人だけで泊まるなんてドキドキする。そっと、宿屋の入り口の扉を開け、中に入った。まだ朝だからか、朝食を食べている宿泊客で賑わっていた。建物は三階建てだったから一階部分は食堂になっているから、食事処として使っているのね。へぇ。
受付に向かい、チェックインをする。一泊千リル。小銀貨一枚か。安い。私は名簿に名前を書き、受付嬢に金を渡した。そして、部屋の鍵を受け取り、二階へ上がった。階段に一番近い部屋に鍵を差し込み、部屋に入ると、必要最低限の家具のみが備えつけられてあった。
「こっちのほうがずっと効率的じゃない」
私は誰に向けて言うわけでもなく、呟いた。ベッドの隣に鞄をどさりと置き、肩をぐるぐると回す。重かったぁ。鞄の重みから解放されたぁ。ベッドにダイブし、今日はひたすらだらだらした。
夜が明け、亡命の旅三日目を迎えた。今日の目標は国を出ること。この国を一旦出ると、どこの国にも属していない森がある。そこまで行ければ万々歳だ。太陽はまだ昇りきっていない。鍵は受付の横の壁に掛け、名簿に記録をつければいつ出て行ってもいいと言われたから、早く行こう。
顔を洗い、朝食をとり、歯磨きをして宿屋を後にした。
街を出る時、無法地帯の森にはどうやって行けばいいのかを門番に聞き、門を出る。とにかく行けるところまでいかないと。マナ曰く「船は毎日出ているわけではないから注意」だそうだ。カランとは別の大陸にマギラはある。一度海を渡らなくてはならない。船のタイミング予想をマナがしてくれたから、なるべく船が出る前日には港町に到着していたい。寄り道をせず、淡々と歩き続ける。
そんな感じで一日中歩き続けていたら、太陽が完全に落ち、月が淡く輝く夜空になった頃、森の入り口に到着した。
「な、なんとか・・・・・・間に合った」
私は服が汚れるのも気にせずに地面に座り込む。近くの木にもたれかかり、マントにくるまって、就寝した。もちろん、結界を張ったよ!流石に不用心だからね。
亡命の旅、四日目。今朝、朝食であるパンを食べきってしまった。私がどんなにチョコレート好きだと言えど、朝からチョコレートを何日も食べ続けるのは辛い。鬱蒼とした森を草の根かき分けながら進んでいく。全部似たような景色だから、己が真っ直ぐ進んでいるのか分からなくなる。うう、物理結界で虫除けしてあるけど、やっぱり気持ち悪い。
一度歩みを止め、方位磁針で方角を確認し、地図を見る。あと一時間ぐらいでこの森を抜けて、別の国に入れる。その国は海に面していて、目的の船に乗れる港町がある。今日はこの森の近くの街で食料調達をして、一泊しよう。水は魔法で賄えるけど、食べ物は不可能だ。そこまで万能じゃないんだ、魔法は。
森を抜け、一番近くに街はなかったが村はあった。もう夕方だし、つべこべ言ってられない。休めれば何でもいい。昨日、野宿をしたけど、起きたら全身痛くて地獄だった。元貴族令嬢には耐えられなかった。一日一食で耐えてるのが凄い方だ。自分を褒めてやりたい。
村に辿り着いた後の記憶はほぼない。とりあえず宿をとって、適当にパンを買い占めたのは何となく覚えているが、夜になって、眠ってしまった。マギラ王国、遠すぎだよぉ~
「マギラ王国行きの船のチケットはこちらの窓口になりまーす!」
「ススアラ大陸行きはこちらですよー!おばあさん、足元気を付けて」
おお、どこもかしこも人だらけだ。人間以外の種族もいて、耳が異様に長くとんがっているエルフや、獣耳を持った獣人。私の身長よりも背が低いドワーフ。流石、大陸一他の大陸に行く船が多い港町だ。立っていることさえままならない。人の波に飲み込まれてしまい、受付に近付けない。近付けたとしても別の船のチケットの受付だったりして、私も覚悟を決め、人をかき分けて無理矢理マギラ王国行きの船のチケットを販売している受付に向かう。
「はあ、はあ・・・・・・あの、今日の夕方の便って、まだ空いてますか」
私は息を整えながら受付のおじさんに問う。おじさんはすぐさま書類を確認して、チケットを取ってくれた。個室は取れなかったけど、致し方ない。マギラ王国は亡命者をたくさん受け入れている国として有名だ。カラン以外にも何かしらの理由により、亡命せざるおえない状況の国もあるはずだ。個室が取れるなんて端から思っていない。想定の範囲内だ。まあ、カランからの亡命者が一番多いらしいけど。特に王女様が。どうやって抜け出しているのか分からないけど、時々脱走して、他国に亡命する王女様がいる。数十年に一人ぐらいだけど。大抵、子供を産む道具として生き続ける。あの人達は最低五人は産まなければいけない。産めない体になれば、高位貴族の男達に売られ、愛人として死ぬまで扱われる。まるで、家畜。
そんなヤバい国カラン王国のことも重要だけど、亡命して、紙がそこまで貴重な品ではないことも知った。いかに交易が大切かも。
「こちらに、お名前と職業、マギラ王国へ行く理由をご記入ください」
「はい」
私はペンを借り、記入事項を書いていく。書き終わり、渡すと、最後の亡命について書いたところには少し驚かれたが、問題なく船のチケットを買えた。ちなみにこちらのチケットのお値段は十万リル。大銀貨一枚でした。
人波を再びかき分け、外に出る。この国に、大陸にもう、用はない。少々早いが、船に乗り込もう。四人部屋って言ってたよね。皆女性らしいから安心だ。港に行くと、昼の便が丁度出たところで、人はまばらだった。夕方の便はまだ準備が終わっていないみたい。
暇を持て余した私は、近くのベンチに座り、さっき買った新聞を開いた。あらゆる国の情報が載っている、世界大陸新聞に、カランの情報も載っていたから買ってみた。
おしえて、レインちゃん!
?「じゃあ、今日は属性魔法について教えて?」
レ「うん。属性は六つ。火、水、地、風、光、闇。魔法には初級、中級、上級がある。大体、一人につき一属性が普通かな。上級魔法は特に難しくて使える人は少ないよ」
?「レインちゃんは何属性なの?」
レ「ネタバレ禁止だよ」
?「ええ~」