背中がクールなあの人は ep1.ショアジギング
いったい、どのくらい経っただろうか。
「……」
ザバッ…ザッパン!
山々は朝日の訪れを隠しきれず、空は星が瞬く漆黒から仄青く変わり始める。
高い白波が岩の断面にぶつかって大きく飛沫をあげる。
海の真ん中には、ポツンと孤立した小さな磯が岩肌をむき出しにして、荒波の中どしんと構えている。
自然の荒々しさを讃えるような岩の上に、しかし、そこに不似合いな可憐な金髪縦ロールの少女が1人、水面を見つめて立っていた。
ザバッ…ザバババ…
少女が音の鳴る方を見ると、100m程沖の水面に不自然な大きな白波が立っている。
「…動き出しましたわね」
少女はクルリと踵を返すと、縦ロールのポニーテールが大きくはねた。
「今日は、大潮ですわ!!!!いっちょかましますわよーーーーッ!!!!」
軽やかに風を切りながら竿がしなると、勢いそのままに糸に繋がれた擬似餌が赤くキラリと光り、300mほど飛んでいった。
着水した瞬間、静寂……。一時の休息……ではなく、少女は手元に来る糸の振動の感覚に神経を集中させていた。
「…流れが変わった…二枚潮ですわね……35、36、37。水深は40mってところかしらっ!」
言い終わらないうちに、少女の右腕がリズミカルに波打つ。しなやかな動きはそのまま竿に伝わり、糸先に生命力を吹き込んでいく。擬似餌が泳ぎ出し、海を震わせる波動は周りの魚たちの格好の的だ。その一方で左手はリールを巻き、竿に引き寄せられた糸をタイミング良く回収していく。
「来なさい!愚民ども!私が紡ぐ魚類大躍動舞踏会へお集まりくださいなッ!!!」
すると突然、竿先がギュン!と引っ張られた。
「あ〜ら!多少はやる気のある方がいらしてねッ!!」少女が竿を勢いよく立てると、リールからドラグ音が鳴り響く。
「ヨイショ〜〜〜〜〜〜!ですわーーーッッッ!!!!」
竿に引かれてすぐに落ちてしまいそうな華奢な体を大きくのけぞり、竿に角度をつける。
ギュンギュンと竿頭を引っ張る糸の先には、とてつもない”何か”がいる…そう感じさせる暴れ具合である。
少女はスクワットの要領で竿を持ち上げると、リールをどんどん巻いていった。
「キタキタキタキマシタワーーーッ!」
そしてようやく姿が見えてきた怪物は、背中の青い大きな……
「ブリーーーーンジャック、様…おいであそばせ♡」
ブリーンジャックが釣れました。
☆悪役令嬢ものなのに男、出てこないのー!?次回、釣り人登場ー!