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 この電脳世界で素人が一端の剣士であるかのように戦えるのは、スキルに動きをアシストされているからだ。

 特に『剣術』などに代表される"技術"スキルはどんなゲームであろうと必須品であり、相当なPSか現実での経験が無い限りまず抜かれることのない相棒のようなスキルである。

 さて、では仮に。"技術"スキル無しで戦う場合、どのようにして敵を倒すのが効率的だろうか?


「A.奇襲」


「フゴォッ」


 円錐のように伸びる、真っ直ぐで巨大な牙を持つ猪。

 ()()()()()観察していた、『槍猪』と呼ばれる獲物へ目掛け、飛び降りて頭上から鉈で奇襲。

 単純な話、スキルの有無が顕著なのは戦闘なんだから、そもそも戦闘せずに暗殺しちまえばいいのだ。

 位置エネルギーを乗せた一撃は、恐らく首だろう辺りにぶっ刺さるというか()()()()()。知ってたけど切れ味悪ぅ……


『槍猪:Lv13』


「君は漢字なんだよなぁ、マジでうさぎだけ浮いてやがる」


 いやまぁ、実際は『鑑定』持ってないからだけど。

 ポリゴンと化して空気に溶け、遺体に刺さっていた鉈が支えを無くし地面に落ちた。

 レベルは高いっちゃ高いけど、奇襲で即死叩き込めばやれますな。

 丁度よく目を引く目印もあるし、アサシンしてるだけで経験値稼げそう。


「んで、漸くドロップしたなちくしょう。かれこれ数十匹は狩ったぞ」


 行動ログに流れた『"槍猪の牙"を入手しました』という一文。

 態々燃える木々の中寄ってくるモンスターは稀で、偶然のエンカウントコントロールによりほぼ槍猪としか出くわさないってのに、目当ての素材を出すのにいったいどれだけかかってんだよ。


「まぁ愚痴ってもしゃあなし、このストレスは君の仲間で発散するからね?」


 アイテムボックスから取り出した、槍猪の牙。


 長くてぶっとくて硬くて鋭い円錐状のそれは、とても使えそうなブツだよね?






   ******






『猪牙の槍

 要求ステータス:無し

 斬撃10/刺突16/切れ味10/強度7/耐久値100%

 取り回しは悪いが攻撃力はある』


「あー……柄は買っといた方が良かったかな?」


 全方位を囲うように木を切り倒し、全て燃やして出来た炎のバリケード。

 簡易的な安全地帯の中、ナイフで形を整え、サバイバルキットの砥石で研ぎ、比較的一番形が良く硬そうな長枝を合成して出来たものがこちらになります。


 特に関係あるスキルや正式な素材、加工道具とかなくても松明が作れるように、このゲームは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようになっている。


 ただまぁガチの鍛治や裁縫、料理になると対応するスキルがなければマトモな物は出来ないのだが、こいつのような素人工作というか、夏休みの自由研究地味たクオリティを重視しないもの──


 ──蛮族の使いそうな石器時代の産物くらいなら、私でも作れるのだ。


「『合成』スキル様々だなぁ、品質低下しようが接着剤要らずなのは実に助かる」


『合成』

 MPを消費し、素材と素材を合成するスキル。

 完成品は材料の状態とイメージに依存し、時短と間の素材が必要無いのが強みで、手作業でやるより品質が下がるのが欠点となる。

 元は冥王必須スキルだから取っていたのだが、探索中ふと"あれこれ別に今でも使えんじゃね?" と気付いて槍猪狩りを決行したが、結果としては大成功だ。


 私の手元には1.2m程の木を柄にし、30cm程の猪の牙を穂先とする原始的な槍があった。


「うーむ、やはり長柄は手に馴染む」


 握る場所や重心バランスは適当だけど、まぁこれなら許容範囲内。

 ウチの火力は攻撃力5のナイフと長鉈、INT無振りの風魔法だけだったので、正直火力があるなら贅沢は言っていられない。

 腕で殺せるにしても、態々不便な思いをするドMじゃないし。


「スキル無いと加工時の耐久破損が跳ね上がるのが無ければ、私ら自分を食べなくて済んだのになぁ」


 軽く振り回して感触を確認しつつ、思い出したのは最終環境における空腹ゲージの苦い、というか痛い記憶。

 いやーあの頃は酷かった。『料理』なんかでスキル埋めたくないし、レベルカンストしたから簡単に腹は膨れないし、NPCが絶命危惧種な上プレイヤーも極小数だからっつって、プレイヤーが生きてる限り燃やしたくらいじゃ消えない自分の一部をちぎって焼いて味付けして食べて腹を満たしてたのは、ディストピア以外の何物でもなくないか?

 部位欠損は治るから実質食糧は無限とかいう風潮はマジで狂ってんだよなぁ。いや深夜テンションでやり出したの私だけど、それに納得して進んでカニバり出すアイツらも大概だぞ。


「そんな世界にはしたくないもんですねぇ」


 のほほんと呟いて、助走を付けて燃える倒木を蹴り飛ばす。

 砕けるだけのSTRは無いけど、退かすくらいなら今でも出来る。重い抵抗に全力を持って抗って、小さくできた地面の隙間に潜り込んで炎上の囲いを抜けた。


「あとこの森で作れそうなのは……爆薬くらい?」


 蹴りと抜ける間際で体力が少し削れたけど、ダメージなんざ早々受けないので無視だ無視。

 私は"サバイバー"、環境を生かして戦うのが強みの職業。

 前までと違い剣と魔法で脳筋するだけが私の戦い方じゃあない。


 生産方面にも目を向けれるのが、これからの強みになりそうだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ディストピアかな? (現状は)ユートピアだぞ。粛清されたいのか? >部位欠損は治るから実質食糧は無限とかいう風潮はマジで狂ってんだよなぁ。いや深夜テンションでやり出したの私だけど、それ…
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