87
「……古城跡A、夜、雨か」
まぁクソだな、場所は凡そ南東の外周近く。
頬を叩く雨が不愉快だ。
「さぁて……どう動くか」
コヒメちゃんに別れを告げて始まった大会予選、降り立った会場その1は最初っから荒れ模様だ。
西と東に計二つある廃城と、それを囲むように広がる大きな城下町。
結ぶ中央には開けた戦場跡たる荒野が広がり、街からは幾つかの整備された道や橋が伸びてはいるが、都心から少し離れれば森林地帯が広がり、その中に小さな砦や櫓、野営地が点在している独特な構造のマップ……それが古城跡Aだった。
「……ロスが厳ぃな、攻め込みやすいけど待ち有利」
このマップの特徴は最終戦場が城内か荒野のどちらかになることだ。
どちらにせよ廃城に陣取っていればエリア縮小には絶対に間に合うが、イコールで城内は常に激戦区になる。
嫌いなマップでは無いが、夜かつ雨と来れば話は別だ。
「屋外をどう見るかだなぁ」
本来夜単品なら野営地に焚き火なりがあって拠点にしやすいのだが、加えて雨となると、このマップには光源がほぼ無くなる。
泥濘や視界妨害が無いため、戦闘がしやすい室内をプレイヤーは確保しに行き……籠城する奴は必然的に多くなるだろう。
室内は基本的に敵がいると考えていいが、逆に屋外は屋外で、まず人に見つからないという利点も生まれる。
天候を嫌うか、逆に活かすかという択。
「……鬱陶しい」
安物のフード付きコートを深く被り、長巻片手に行動を開始する。
刀身が雨を飲み込み、嬉しそうに煌めいた。
綺麗だ。
******
バトルロワイヤルというものは、普段の一戦と大会の一戦で試合模様が大きく変わる。
キル厨だろうがダメージ厨だろうが、要は負けられない一戦である大会では、どんなプレイヤーだろうが"順位を上げるために潜伏し、消極的になる"のだ。
必然的に試合は長期化するのだが、デイブレの大会……特にその予選はより顕著になる。
「五連戦のスコアアベレージで本戦のランクが変わるんだから、そりゃ全員死にたくないよな」
試合人数100名に対し、一回目のソナーが終わって尚残り人数は88名。
私の近くにいるプレイヤー……赤点は8個に及ぶ。
多いんだよなぁ明らかに。
「要は負けずに全員ぶっ殺しゃ優勝っていう簡単なルールなのにね?」
ある方法でスキャンから逃れ、マップに表示された座標を"簡易地形記録用紙"にペンで記録していく。
サバイバーの初期配布アイテムであり、久々の登場であるコレは、メニュー画面に表示されるエリアマップより遥かに細かく表示されている他、メモにも対応している優れものだ。
「さぁーて……じゃあどこから漁夫りに行こうか?」
私が何度この大会に出たと思っている?
まだ使い方が覚束無い他のプレイヤーと違って、定期ソナーの使い方に関しちゃ一日の長がある。
他人にとっちゃ大会当日に知らされた特殊仕様なのかもしれないが、生憎と私はそれら全てを知っていて、かつ対策してきた上でここにいるのだ。
「一番近い点はこことここで、漁夫れる位置に一枚いるから……このハイエナを奇襲してから食いに行くか」
善は急げだ、早速地図を仕舞って走り出す。
アーティファクトは何の変哲もない場所より、都市部や野営地等の拠点に使える場所に設置される。
試合展開が遅く籠城がベターであるこの環境上、キルした時の旨みは普段の試合より遥かに高い。
「中央殴り込みはギリギリでいい、それまでに暴れて装備を整える」
雨降り頻る夜の森、顔半分まで覆うフード付きの黒コート。
雨が叩く木々の音が足音を遮断し、外見も図らずとも迷彩となった今、私を知覚するのは困難だ。
「──そうこんな風に」
「ッ!?」
近くに赤点が無く油断しきっていたプレイヤーに樹上からダイブ、美少女の抱擁だぞ受け止めろよその首で。
長巻の刃が頭に落ちて、重い手応えと共に少し軌道が逸れた。
「あー兜は見えねぇわ」
「痛ってぇなっ!」
「死ねば感じないよ、それ」
エアハンマーで相手の胸を叩いて初動をキャンセル、着地と同時に突きを放つがギリギリで弾かれる。
得物は……鞭か、運が悪い。
「なっ!?」
「はいおしまい」
"せめて刃が無いと"と、振るわれたそれを片手で掴み、同時に引っ張りながら高速の足払いで体勢を破壊。
そのまま顔面を蹴り潰せば、初撃で瀕死になっていたのもありそいつは死んだ。
ドロップは……HPポーションが幾つかと、未使用のシールドセルが二つと、合成で作ったと思わしきフラッシュグレネード三つ。
武器は鞭の他短剣が少々といった具合で、こっちは別にいらないや。
「さて、次」
淡々と戦利品を処理し、軽く辺りを警戒した後に、改めて目的方向へ走り出す。
足音はなるべく殺して、暗殺者にでもなったように。
「見つけた奴は全員殺す」
……気分はまるで作業だ。
なにこのここわい




