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薄着で窓開け寝るのはやめようね!(鼻水ズルズル)
「さあ始まりました! 第一回デイブレイクファンタジー公式大会! 実況は私、プロゲーマー兼VTuberである獅道傑と!」
「解説に私、デイブレ開発チームスタッフの鳶でお送りいたします」
およそゲーム内世界の風景とは思えないニューススタジオのような特設会場、然しそれにつっこむような野暮な視聴者はほぼいない。
アニメキャラクターのようなオレンジ髪の快活なイケメンと、サラリーマンそのまんまな黒スーツにメガネを掛けた会社員が話すのは、たった今から始まるゲームイベントについてのことだった。
公式によって発信されている十数枠の生配信には、人気目当てでオファーされた対人エンジョイ勢の登録者百万人を超える大人気YouTuberから、反対に集客効果は低くとも知識や判断力に優れた対人ガチ勢の外部ゲストが招待されており、この枠はその中でもかなりの視聴者数を獲得していた。
というのも……
「──はい、簡単な大会概要も説明し終わったところで、その中でもこのチャンネルでは主に、最上位ブロックの試合に限定してピックアップ解説をしていきたいと思います! いやー緊張するなー!」
「傑さんはデイブレを結構プレイされてるとのことでしたが、大会に出なくてもよろしいので?」
「あ、それ聞いちゃいます? うーん参ったなー、ちょっと転職が間に合わなそうだからチキって棄権したとかいうしょうもない理由とは絶対に言えないしなー!」
「あ、ミュート忘れてますよ?」
「しまったー!?」
オレンジ髪の男性アバター……獅道傑は、プロゲーマーとして活躍してはいるが、その腕は最上位には通用しない程度の物だ。然し、彼は持ち前のトーク力と分析力を活かし、フットワークが軽いこともあいまり、こういったゲーム大会の実況依頼をよく任される稀有な人材である。
クソ茶番を混じえつつも、彼らが取り扱うのは最上位ブロック……有り体に言うならば、現環境最強のプレイヤーを決める一番の激戦区の実況だ。
最も熱く、激しく、かっこいい試合に溢れるだろうその枠に人が集まるのは、無理ない話であった。
「……えー気を取り直して、各種案内等の話ですけども」
「タイムスケジュールは事前告知の通り、これからブロック毎に五戦、予選となるランダムマッチを開始します」
「予選が終わり次第、他枠の実況解説様達と合流しての特別番組とありますが、鳶さんこれは……?」
「まぁ、ぶっちゃけ本戦までの繋ぎですね」
「ぶっちゃけましたね!?」
「予選のベストクリップ集が主になると思いますが、その他にも幾つかの重大告知がありますので、是非最後までお見逃し無く」
「そして18時から本戦を開始し、本戦最終試合……つまり決勝戦ですが、それがここ、第一チャンネルの実況解説の元行われます。いやー光栄ですねー!」
「閉会式は全試合終了30分後に予定しています。表彰式はそこで、という感じですね」
すらすらと行われるやりとりに緊張はまるで混ざらない。
熟れている二人の説明に視聴者達はこれからの実況が楽しみなのか、画面の華が薄くともチャット欄は賑わっていた。
「試合形式についてですけど、これが少し特殊になるとか……?」
「はい。こういう大会だとどうしても選手は消極的になりがちなので、時たn……戦闘の激化と見所を作るためのシステムをこの大会限定で幾つか実装しています。例えばエリア縮小速度の上昇と、定期的なソナーの発信ですね」
「ふむふむ」
「エリア縮小は文字通り、ダメージエリアの制定間隔が縮まります。これによってプレイヤーは潜伏を取り辛くなりますし、なにより戦闘密度の上昇や試合時間の短縮に繋がりますね」
「では、ソナーの発信というのは?」
「5分おきにエリア全域をスキャンし、プレイヤーの現在地をマップ上に数秒間表示するソナーを放ちます。色々と表示形式を設定出来るので、これをどう使うかがこの大会の鍵になるかと思います」
「なるほど、プレイヤーの腕の見せどころになりそうです!」
「ここで戦端が開かれそうだとかも分かりやすいですし、是非ご注目ください」
その後も彼らは流暢に、時々ユーモアも混ぜながら事前説明をしていった。
気付けば時刻はもう11時55分、予選開始まであと僅かだ。
「最後に勝者予想トトカルチョについてですけど、これは予選本戦どちらでも可能です」
「入賞……つまり五位以内に入るプレイヤーを予想したり、はたまた一位予想に一点賭けしてみたりも出来ますが、これは賭けるのが早い程勝った時の倍率が上がります!」
「締切は試合人数が半数を切ってから30秒後になります。今からでも本戦優勝者を予想することも出来ますが……」
「いやーそれは流石に現実的じゃないですよー鳶さん?」
「では傑さんがもし出場していたらどうしましたか?」
「そりゃあもちろん! 借金してでも自分の本戦優勝に全ベッドしましたよ!」
「破産おめでとうございます」
「酷い言われようだ!」
純度100%の冗談がスタジオと視聴者に笑いを誘う中、そうして大会の予選が始まった。
……彼らは知らない、トトカルチョ開始直後に自分の優勝に20億以上を賭けたプレイヤーがいることを。