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現実がエグ過ぎて死ねる

「……そんな大金何に使うんですか、というか返せるんですかそれ!?」

「余裕余裕」


 反抗期の妹分を回収し、大会参加の簡単な受付を済ませて通りをぶらぶら歩く。

 プレイヤーの出した露店に、立ち並ぶ食べ物屋台、財布が緩く楽しげな通行人達は、正にお祭りといった様相を呈している。

 ……尤も、今いるチャンネルは配信禁止かつ過疎っているチャンネルのため、盛り上がりはこれでも大分抑えられてる方なのだが。


「セイさんはいっつもそう! 何をやるにしても説明が足りてないし、もうちょっとこう、ともd……い、一緒にいるんだから、理由とか話してくれても良くないですか!?」

「もうせーちゃんて呼んでくれないの?」

「論点をズラさないで!」

「えー?」


 割とその呼ばれ方気に入ってたのに。君の不満より私の心象の方が大事だし。


「んーでもこういう仕込みって言わない方がサプライズ的になって面白くない?」

「あなたの普段の言動からじゃ何を秘密にされても不安しか無いんだけど!?」

「そう?」

「そう!」


 頬を膨らませて睨まれている。小動物みたいだ。

 指で柔らかい頬をつつけば、ぷうっと空気を吐いてわーきゃーと騒ぎ始めた。可愛いね? 往来だからやめなさい。


「そうだなぁ……じゃ、ぴんぽんぴんぽーん! ここでヒメちゃんに一つクイズを出題します!」

「ねえ離してっ、てか降ろしてっ! さもないと──」

「──そもそも私がなんでこんな面倒な大会に参加するんだと思う?」

「……ふえ?」


 うるさいので両脇抱えて捕獲した少女に、一つの問いを投げかける。

 意味の分からないことを言われて起きる、困惑と疑問の咀嚼のために彼女は止まった。


「……え、待って、出たいから出るんじゃないの!?」

「出る必要があるってだけで、別に出たい訳じゃないよ?」

「優勝とか一番とか最強とか好きそうなのに!?」

「自慢やちやほやされるのはまぁ好きだけど、別にだからといってそんな理由だけで頑張る程ダサくはねぇよ。……てかさぁ?」


 ああ本当に、何を言っているんだろうこの子は。

 数学のテストの問題で解と同時に証明もしろと言われた時のような、見りゃ分かるだろと言わんばかりのくだらなさが私を満たす。


「そもそも既に最強じゃん私。優勝なんてぶっちゃけ朝飯前なのに、なんで態々そんな価値の無いもののために出なきゃいけないのよ」

「アッハイ」

「なんだその顔はぁ」


 別に変なことを言ったつもりは無いし、これは嘘一つない純然たる事実だ。

 第一、私の目的はフィールド攻略及び怪物の駆逐だ。こんなミニゲームのために二日三日も最初の街で拘束なんてさせられてたまるかボケ。

 褒められる? いばれる? 自慢出来る?

 それは労力がかからない場合に美味いのであって、費用対効果に見合わない今回で言えば出場の理由足りえないのだ。


「……じゃあなんで出るんですか?」

「だからクイズっつってんじゃん」

「なら優勝賞品」

「あら、ほぼ正解」


 言いながら時刻を確認する。11時半、そろそろ公式配信の始まる頃かな?


「……………………んぅ?」

「どしたの」

「報酬のラインナップを見てたんだけど、これのために出るの?」

「違うよ?」

「…………???」


 大会はレート毎に参加者をブロックに振り分けた後、五回の予選試合を行い、予選結果に応じて最終戦の組み合わせが決まる仕組みだ。

 参加受付の締切は12時、予選開始はそこから数十分後。全て知っている情報が、大大と空から告知されている。

 公式生放送の中継モニターがそこら中に現れて、コロッセオには外からでも見える程の大きなものがある。


「──この大会ってさ、誰が決勝で勝つか予想するギャンブルが出来るんだよね」

「うん、それは知ってるけ……ど…………え、待って」

「それって賭けた時期が早いほど倍率が高くなるんだけどさ、ベットが可能になるのって12時からなんだよね」

「待って待って待って待って待って待って!?!?!?」


 選手名:冒険家さん、それはレベルと職業が非表示となっている、全くもって情報の無い状態の私の大会でのデータ。

 賭けるプレイヤーなんているはずのないキャラクターは、然し今この瞬間、借金とは言え莫大な資金があった。


「嘘……ですよね? 幾ら借りたと思ってるんですか? 正気ですか? ねぇ! ねぇ!? 嘘だと言ってくださいセイさん!!??」

「まぁまぁコヒメちゃん落ち着いてって。オールイン」

「何してるんですか!?」


 名誉も賞品も手に入れるのに莫大な金が必要だが、逆説的に、それは莫大な金さえあるなら買える物なのだ。

 ぶっちゃけこの大会にゃ死ぬほど興味無かったけど、そいや勝敗予想トトカルチョあるじゃんと思い出せば、すぐさま出ることを決めるくらいにゃまたと無いチャンスだ。

 それこそ、クソ面倒なストーカーのお願いから逃げれなくなるとしても、私を出場させるだけの理由になるほどには。


 まぁ、つまるところ金策だな。


「実はこれ、私に賭けて私が優勝すればクソほど金稼げるのよ」

「もし負けたら!?」

「まぁ……借金生活じゃね?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 金なんてこれからやることを考えたら億単位でぽんぽん飛ぶし、それを解決するってんなら馬鹿みたいな額のギャンブルをするしかないし?

 確実に勝てる競馬があるなら、借金してでもぶち込むのは普通でしょ?


 所持金全部を私の単勝にぶっ込む私を他所に、コヒメちゃんの絶叫が往来にこだました。

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― 新着の感想 ―
[一言] allornothing!
[一言] >現実がエグ過ぎて死ねる お、失踪か?
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