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「──出来はどうだ?」

「硬い! ゴツイ! 太い! デカい! 強い!」

「言い方がえっち」

「は?」


 場所は変わって隠し街の鍛冶屋、リビングメイルである槞の隅から隅まで改造された姿を見て感想を言った私に対し、ボソッとコヒメちゃんが変なことを呟いた。生憎と聞こえてるからなお前?

 まぁそれはさておき、(ロウ)くんの外見は黒い光沢に赤い宝石が各所に散りばめられ、縁には金、溝はエメラルドのラインが刻まれていて、マントをたなびかせる彼は、高級感と近未来感を感じる仕上がりになっていた。


「質量でVITを確保した。重量に関しては重量軽減を増えた面積で積んだ宝石でⅥまで伸ばして、魔術防護も鉱石で対応している」

「補正と特殊能力は?」

「頼まれた通りSTRに15、加えてHP40とMP20だな。特殊能力は再生、自動修復、魔法耐性Ⅱ、火炎耐性Ⅱまで付いた」

「うわつっよ、ガルナ最強かよ」

「どっちかと言うとあの黒天の使徒とかいう素材がおかしいわ。なんだよあの化け物みたいな耐久性、お前なんで倒せたの?」

「え、私が最強だから?」

「狂人の間違い」

「とか言われてるぞ」

「反抗期なもので」


 恭しく礼をする槞の表面を撫でてみれば、嬉しそうにガチャガチャと音を鳴らして喜ばれた。ああうるさいから動かないでくれる? あーそう、それでいいのよ、手触り確かめてるだけだからさ。


「なんか心なしかしょんぼりしてないか?」

「気のせいでしょ。それより他のやつは?」

「ん、ああ。それなら……ほらよ」


 そう言って手渡される、鞘に拵えられていた完全に研がれている柄の長い一対の直剣。

 使徒の使っていた武器、"断章・灰都"。私が付けた傷はどこへやら、新品の状態となって返ってきたそれは、使用不可だったスキルの名前と効果も判明していた。

 あぁー……これエグイな、マジでコヒメちゃんぶっ壊す気満々じゃんこのクエスト。


「ん(渡す)」

「ん(嫌がる)」

「ん!(無理矢理渡す)」

「んぅ……(渋々受け取る)」

「いや会話しろよ嬢ちゃん達……で最後にこれだ」

「ん♪」

「……」


 変な目で見てくるガルナを無視し、オーダーメイドで注文していた数十個の特殊な形状の武器を受け取った。

 うん、出来は良好だ。これでまた一歩私の理不尽さに磨きがかかったぜ。


 ああ、実に大会で暴れるのが楽しみだなぁ?


「戦闘靴や篭手は本当によかったのか?」

「あー、まぁ割とリソース余ってたから金の無駄かなーって。"武具化"」

「……こうも堂々と言われると最早清々しいな?」

「そう? 変な奴」


 槞が粒子に分解され、まるで魔法少女の変身バンクのように私の全身を覆う。

 私服にソードベルトだけだった姿は、一転して軽装の黒騎士に早変わり。

 以前の武具化と違うのは、主に纏う部位が違うことだろうか。

 それは各関節から腰に流れた後、重厚な靴と篭手になってリソースを勢い良く消費し、最後に鎖骨回りを覆った後に軍帽とマントを生やして終了だ。


「彁ちゃん魔王少女モードVer.2! ってとこ?」

「名前がダサい」

「名前のセンスが絶望的に無い」

「殺すぞ」


 マントをバサつかせながらカッコつけたらクソ辛辣なコメントを食らった。良かったな私の機嫌が良くて、状況によっちゃ殺してたぞ?? つか殺す???

 ……いや、ここで殺すと後がだるいな。ガルナは別にいいがコヒメは替えがきかねぇし。


「なんか寒気を感じたんだが」

「キノセイデショ」

「……カタコトなのが気になるが、まぁいい、お前と真面目に話す方が馬鹿らしい」

「死ぬか?」

「はいはい、殺すなら代金を払ってからにしてくれな?」

「……ああそっか忘れてた、預けてた素材から引いて足りる?」

「余裕で」

「じゃ、それ売るから、引いて残った額を現ナマで頂戴」

「了解」


 そう言って雑に取引される8ケタの大金、うぇっへへ〜大金持ちだぜ〜……これくらい別に秒で溶けるけど(スンッ)


「てか、コヒメちゃんはいつまでそんなうんこ嗅いだ猫みたいな顔してんのよ」

「どんな顔!? これでも割と葛藤してるんだけど!?」

「女々しい」

「そもそも女の子なんだけど……」


 いや別にそんなこと言いたいわけじゃないんだけど……あ、私は男の娘にも理解あるよ?


「いいから用事が終わったら出てってくんねぇかな」


 そんなオッサンの声は果たして私達のいちゃらぶ会話に混ぜてもいいものなのか、世界に審議を投げかけながら店を出た。


 ……ねーコヒメちゃん、何をそんなに怒ってんのー?






 ******






「てなことがあったのよ」

「あら〜それは災難だったわねぇ」

「ハルヒトはどう思う?」

「不憫でならないわ、貴女以外が」

「やっぱお前今日からカマニキな?」

「あら残念、仲良くなれなかったわ」


 改造され生まれ変わった機套を受け取り、愚痴混ざりの雑談をすれば返されたのは悲しいことにアンチ発言だった。

 なんでこう私の関わる奴って私に対して辛辣なんだろう、この世界っておかしくないか?


「……どう?」

「うーん凄く可愛いわ! まるでお姫様みたいよ!」

「可愛いね、取り敢えず角しゃぶらせて?」

「死ね」


 どうして対応にここまで差があるのか、片方は美少女で片方はオカマだぞ? 普通私に優しくあるべきじゃない?

 試着室から遠慮がちに出てきたコヒメちゃんは、白地に赤のラインが入ったゴスロリドレスに身を包んでいた。

 前が太ももまでの少し短いスカートはサイドが長く、模様のあるニーソックスの最上部が見えるか見えないかのギリギリの調整は、職人技というより性癖が感じられる物だ。

 肌面積は狭い。首元は立つ襟のある小さなベストが飾り、角の位置に合わせて突き出たフードが背中に流されていた。

 袖は開いた花弁のように大きく膨らんでフリルで装飾され、指抜きされた薄い黒手袋が細い指を染めている。

 又、衣装の至る所にあしらわれたリボンは優雅さを演出する他、ヘッドドレスと共にコヒメちゃんの二本の角すら飾り付けていた。

 なんか生えた翼にもリボンの紐が少し巻かれていて、恥ずかしいのかぱたぱた揺れる度にゆらゆらして癒される。


 さしずめ冒険に憧れる貴族のお嬢様ってとこだろうか。なら私はそれを守る護衛的な? あ、やばい良い、絶妙に一枚書けそう。


「ねぇ、これちょっと私にはかわいすぎない?」

「見た目ガン振り?」

「性能も担保してるわよ」

「文句なし」

「二人とも聞いてる?」


 顔の赤いコヒメちゃんを無視してドレスの性能表を手渡された。……いやお洒落したかったんでしょ? 態々頼んであげたんだからもっと喜べばいいじゃん。


『煉黒の魔女の聖衣[模造]

 MP+40/VIT+15/INT+30/MND+30/強度40/耐久値100%

 魔法30/魔伝導70/消費MP軽減20%/詠唱短縮2

 属性適合[炎][闇]

 PS『灰燼』

 ・炎属性の与ダメージを10%上昇

 ・炎上状態の対象への与ダメージを40%上昇

 ・地形への与ダメージを200%上昇

 PS『自動修復[魔]』

 ・余剰回復したMPで装備耐久値を回復する

 遥か昔に生きたある魔女の正装、その模造品。

 彼女を信仰する信徒達にとってこれは制服であり、自らの祈りを形として具現化した修道服であり、然して誰も着ることを許されない神聖である。

 至る所に改造が施されている』



「……煉"黒"? 修道服? どこが?」

「この子に合うだろう型が辛気臭い色と姿だったから改造したわ」

「原型が無さすぎる」


 寧ろ晴天の下の海岸沿いみたいな色合いだろこれ。いやコヒメちゃんに似合ってるけど、似合ってるけどさぁ。


「そんな見た目改造すんならもうちょいいい装備とかあったんじゃないの? コレオリジナルじゃなくてレシピあるタイプの服よな?」

「──コヒメちゃんの姿と、貴女の渡してきた素材を見てビビっと来たのよ。作るならこの服しか無いってね」

「はぁ?」


 含みのある笑顔というか、何かを知っている顔でハルヒトはコヒメを流し見た。

 構って貰えず少し不貞腐れていたコヒメはその視線に気付いて、"(はてな)"を頭に浮かべて見返して……


「コヒメちゃん。貴女──()()()()のお姫様でしょ?」


 ハルヒトの次の言葉で、見て分かるほど動揺した。



 ******



「というよりかは成功作……違うわね、巫女と呼んだ方がより適切かしら?」


 ツーブライトの隠し街というものは、本来序盤に辿り着けるものでは無い。

 このエリアのNPC達は攻略中盤以降のプレイヤーにとって適切な調整がされていて、それは技術力やレア度、或いは……情報力という形で現れる。


「私を……()()()()()()()()()を、知ってるの?」


「職業柄ある程度はね。まぁ専門職には負けるけれど……触りを知っていれば、外見と素材から推測出来るわ」


 服飾……特に服に関しては、極めるにあたり相当な知識が必要になる。

 レパートリー、或いはレシピ。ごまんとある民族衣装に対して、より真面目な生産職人は形だけでなく、その歴史の変遷や理念すらそれぞれ自ら調べ学ぶものだ。

 畢竟、ハルヒトというNPCは、コヒメという特異な存在の正体に察しが着いていた。


 そこに悪意は無い。完全な善意と親切によって、彼は彼女にその地雷を花束として贈ってしまった。


()()()()()()()()に、()()()()()()に、この服を着せてあげない訳には行かないでしょ?」


「…………じゃあ、これ、は」


「どしたのコヒメちゃん?」


 トラウマとは何か、それは想起すれば恐慌状態を引き起こす悲痛な場面の記憶だ。

 コヒメのそれの克服は大元の元凶の切除という、強引で荒すぎる解法で行われていた。

 彼女は使徒の撃墜で前を向いたのか?

 否。彼女は差し迫る巨大な恐怖が消えただけで、精神的な成長はまるで足りていない。


 問題を乗り越えることと、問題が消えることは大きく違う。


「私、は……」


 彼女の過去は未だに辛く苦しく、可能なら思い出したく無いものだった。

 彁という自身より年上の人間との交流はまるで無く、正規の治療が行われなかった記憶の残滓。

 隣人の常識を逸脱した言動の降り積もりが、不安定だった精神が、自分を知る人物との遭遇が、与えられた綺麗な服装に込められた意味と彼の言葉が。


 ストレスと動揺が奇跡的に噛み合って、とうとう彼女の許容限界を超えた。



「私は、()()()()()()()()()()()()()っ!!!」



 コヒメの性格は本来、平凡な普通の少女だった。

 これまでの余りに多くの心理的負担は、12歳が抱えるには多過ぎて。


「えっ、ちょっ!?」


 何れどこかで爆発していた爆弾は今起きて、コヒメは彁が止める間もなく、感情に溢れた叫びを残して店の外へと飛び出した。

ここでこれまで彁がコヒメに対してしてきたことを読み返すと、そりゃいつかは爆発するよねって

サイコちゃんからしてみれば日常生活中に唐突に発狂して逃げられたという意味不明な場面だけど

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