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「まず"ディメンションコネクト"」
幾つかはただ合成元の能力をそのまま合体させただけだが、逆に能力が大きく変化したスキルもあった。
その内の一つである"ディメンションコネクト"を発動すれば、私の周囲半径5m程の球状の空間に次元の歪みが発生する。
『スキル・ディメンションコネクト
発動時、一定範囲内にアイテムボックスと接続された特殊力場を発生させる
力場内では使用者の思う通りにアイテムの出し入れ、合成が可能になる
顕現速度、合成速度は対象によって変化する
消費MP250、効果時間30秒、クールタイム60秒』
「今でMP2000ちょいだからちょい重いけど……まぁ私の場合回復手段は豊富だし許容範囲内」
言いながら触手の先端をアイテムボックス内の素材で魔改造し、適当な骨と皮と肉を組み合わせてうぞうぞ動く生体剣を作り、合成する。
『死塊大剣
斬撃31/刺突16/打撃26/切れ味29/強度21/耐久値100%
PS『生体剣』
・与ダメージの20%を吸収
PS『アンデッド』
・全属性被ダメージが増加
死した生物をツギハギ、仮初の命を与えて作られた冒涜的な生きた武器。
骨、肉、皮、血液、命。肉体を構成する要素を兼ね揃えたこれは、生を求める亡者として命を啜る』
低い攻撃力、劣悪な切れ味と強度を代償に、ドレイン効果を持つ特性の武器。打ち合いには向かないそれは、操血の血と絡まって圧倒的リーチの飛び道具と化した。
「うん、出来るまでが早い」
効果時間内であれば幾らでもMP消費なしでアイテムボックスを使用出来るこのスキルは、その効果だけで無く……特に私の場合、ショートカットとしての役割が大きかった。
一々前みたいに複数のスキル経由するのだるいし、何よりこのスキルには対応力がある。
作り出した剣を分解し、即座に盾に作り替え、そこから更に巨大な斧へと変更。
想像のままに融合素材を扱えるこれは、実に死霊魔術、血魔術と相性が良い。
「ざんっ」
最終的にあの時と同じ斧の形で、STRとAGIも乗せて案山子をぶん殴れば、ダメージ表記は4200と少しまで伸びた。
「魔法とか馬鹿らしくなるなこれマジで、"死の影"」
宣言と同時、私の全身が黒いオーラで覆われた。
お次の検証スキルは暗殺系のスキルを組み合わせた『死の影』
元はクリティカルダメージや発生確率に補正をかけるものだったこれらは随分と様変わりして、効果はシンプルかつ強力な物に変わっている。
『スキル・死の影
発動時、二秒経過するか次の攻撃まで、気配を遮断
更に次の攻撃は確定でクリティカルが発生し、クリティカルダメージが増加する
クールタイム300秒』
「正面暗殺!」
目撃者を全員消せば完全犯罪理論宜しく、潜伏もクソもない正面ゴリ押しタゲカットからの確定クリティカル。
寧ろ暗殺ビルドを馬鹿にしたかのような一周目のランカー御用達の厨スキルで放った触手の一撃は、凄まじい手応えと共に1万を超えるダメージを案山子に叩き出す。
「うーん過剰火力」
VIT、防御力、スキル、様々な軽減手段があったとしても、私でHP3300くらいなので対人ならまぁ基本瀕死にぶち込めるダメージだ。
PVEでも一撃火力技は最近手に入れたし、まぁ活躍してくれることでしょう。
「後は……『暴走する狂戦士』か、じゃあ"ヴァルプルギス"」
手元に暴血狂斧が無いためスキルで自傷を行い、武器……触手に接続された死塊大斧の攻撃力を確認。
手に持っていなくとも装備された武器はバフられる仕様によって、ダメージ倍率は一律で11伸びている。
『スキル・暴走する狂戦士
全ての被ダメージ発生時に、5秒間ダメージ量に応じて攻撃力上昇
状態異常による行動阻害を軽減し、状態異常中は攻撃力上昇』
『スキル・ヴァルプルギス
1秒毎に、HP1%をMP1%に変換
効果時間30秒、クールタイム120秒』
「固定値10+ダメージ量で上昇だっけ? バフ時間中に更に被ダメが起きたら……固定値の方は重複されない感じか」
ジワジワ減っていくHPに対し、微量ながら加算されていく攻撃力値。それは5秒が経過してから変動をやめ、HPも自動回復分である程度補填されていく。
感想としては効果が薄いと言わざるを得ないが、これが真価を発揮するのは暴血狂斧担いだ時だろうし、なんなら自腹を切ればいつでも簡単に使えるし、使いやすくていいじゃない。
「……こんなところかなぁ、他のスキルは勝手に発動するやつばっかだし」
取り敢えず私で確かめたいことが終わったので、今度はコヒメちゃんについて検証しよう……そう思って放ったらかしにしていた彼女を探せば、この部屋の隅で縮こまるように眠っていた。
「……本当に寝るやつがあるぅ?」
割とマジのトーンでそう言いつつ触手で頭とか顔を触ってみるが、嫌な顔をしつつも起きる気配は無い。
えぇ……これガチ寝じゃん……あっ寝顔可愛い、後でイラストにして見せてやろ。
「あっ、いいこと思い付いた!」
******
「もう二度としないで……!」
「えー? 面白くなかった? 蜘蛛」
「あの悲鳴を聞いて!? 頭おかしいの!?」
骨付けた四本の触手を足にして水平に立ってるドッキリしただけなのに、そこまでキレること無くないか?
確かに凄い悲鳴と半泣き顔だったけど、私としては結構楽しかったよ?
「で!? 用事は終わったの!?」
「え、あぁうん、コヒメちゃんの魔法見て終わりかな」
「なんで私!?」
「いや、君の魔法の正確な威力とか知っときたいし」
「今更過ぎない!?」
まぁそれはそう。
思えばこの子捕獲してからこの子本人について、一度も真面目に話聞いたこと無かったな……あれこれっておかしいことなのか? 彁ちゃん他人に興味無さすぎる?
まぁ別に今聞いてるから別にいっか。
「あのよく使ってる黒炎の槍、アレをあの案山子に当てて欲しい」
「……的当て? 別にいいけど」
「あ、全力でお願いね」
「余波で彁さん飲み込むくらいの撃ったげる……!」
「いや怖いって」
──その瞬間が来るまで、私はコヒメちゃんのことを舐めていた。
使徒戦の被弾から彼女達が使う黒い炎には割合ダメージがあることは既に検討着いていて、態々行うこの他人についての検証で調べたいのは、"その割合ダメージの上限がどこなのか"だった。
デイブレにはHPに対する割合ダメージを付与する技が幾つかあるのだが、それらは総じて"割合ダメージで与えられるダメージ値"に上限がある。
例えばHP100万のボスがいたとして、割合10%の技を当てれば、ダメージ上限が無ければ一撃で10万ダメージとかいう意味不明な火力が叩き出せてしまうからだ。
結果その対策として割合ダメージ値に上限が存在するわけで、それは技が終盤のものになるに連れダメージキャップがどんどん上がっていく形で、ボスへの火力のバランスを取っていた。
(案山子のHPは1億に設定してある。終盤最高割合打点で500万出るか否かだし、100万くらい出れば最高かなぁ)
エンドコンテンツ九天奉姫、その特殊能力なら凄まじいダメージが出るんじゃないかなぁとか考えている内にコヒメちゃんの8本の炎の槍は直撃し、24000と少しの直撃ダメージと──
4000万の追加ダメージがドデカい文字で空中に表示された。
「……………………はえぇ?」
『称号『ダメージホルダー』を獲得しました』
『称号・ダメージホルダー
一定ダメージ以上且つ、サーバー内で現在最も高い一撃によるダメージを与えた者に贈られる称号
全最終与ダメージ10%上昇』
「……これでいいですか?」
『状態異常:黒炎やられ+炎上Ⅱ』と表示された案山子は、未だに毎秒200万と少しのdotダメージが発生している。
何事も無いように、何が起きてるか知らないように私に話しかけてくるコヒメちゃんに対し、私は変な声を上げて思考することしか出来ない。
「……割合ダメージの上限値が、無い?」
8hit4000万に200万のdotダメージ……1hit毎に5%の割合と2%の割合持続ダメージというだけなら別に優秀な魔法で収まるレベルの性能なのだが、それは常識的な割合ダメージの上限があるという前提での話。
単純火力という点に置いて、理論値の話であれば、私の"彗星"やあの"デスオリ"を抜くことは出来ないと断言出来るが……この子が叩き出した今のダメージは、基本的な攻撃手段に付いている追加ダメージによるものだ。
「コヒメちゃんさぁ」
「はい?」
「これより火力高い魔法、ある?」
「……使いにくかったり、使いたくなかったりしますが、それなりに?」
「ッスゥー……」
私は天を仰ぐ。
……あれコヒメちゃんもしかして化け物? 君マスコット枠じゃなかったの?
正確にはボスの大きさ次第で"その着弾部位への割合ダメージ"として処理されたり、"最終ダメージ軽減"でそもそもダメージ自体が軽減されたりはする。
まぁだとしてもコヒメの火力がぶっ壊れてるのに変わり無く、彁以上の火力を持つ最強のボスキラーが九天奉姫の黒の巫女。
そりゃ卒業試験が使徒みたいなボスになるわけです。