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デイブレには訓練所という施設がある。
体育館程の大きさの特殊空間内はプレイヤーの好きに弄ることができて、討伐したモンスターの再現、ステータスやHPを調整出来る案山子、自分のスキルの発動判定の調整等、正しく訓練所という名前に相応しい練習場だ。
「私要ります?」
「暫く要らないから寝てていいよ」
そんな場所に早朝からやってきた私達だが、コヒメちゃんの検証より私の検証のが重要だし、体調も悪そうだから彼女には暫く待機しててもらおう。
NPCなのに悪夢とか見るんだなーとか考えながらステータスを眺め、取り敢えずの方針を決定した。
「じゃ、魔法から行くかな……まず"操血"」
ふとカジュアルで使ってみたらかなり使用感が違った、最近滅茶苦茶働いている血魔術の一つを発動。
私の意思に従って右腕の傍に現れた宙に浮く血の塊は……然し、生成上限に引っ掛かるまで出してもよくて私をギリギリ覆える程度の大きさしか作れない。
それは到底使徒戦の時のような触手を形成することなんて不可能な量だった。
「ふむ……まぁ本来の使い方とアレって相当違うからな」
血の塊の一部を浚って瞬時にナイフを形成、それを案山子に投げれば小さなダメージを与えると共に液体となって飛散した。
一応これがこのスキル本来の使い方で、ある程度自由に形を変えられる血液で即席の武器なり飛び道具なりを作る、あったらまぁ便利な魔法だよねってのが一周目の評価だった。
「結構あるSTRで加速させてこのカスダメなら、まぁまずダメージはINT依存でしょ」
このスキルの疑問点は"血塊の性能にステータスがどう作用しているか"だ。
メニューから現状で盛れる上限まで、まずMNDを0から50まで自分のステータスを変更する。
すると……
「なるほど? MNDは生成上限か」
栓が外れた燃料タンクが如く、ドクドクと勢いよく血塊が放出されて膨張する。
私の意思で血に染まる空中は凄まじい面積まで拡張され……それをかつての触手のように形を練りこもうとして、失敗した。
「なにこれ固った! 沼の抵抗がある中動かそうとしてるみたい」
動かないというか、入力に対して出力結果が粗過ぎる。
クッソ操作がしにくいし細かな調整も受け付ず、試しにDEXを50まで上げれば、一転してスムーズな操作が可能になった。
龍の形を作ったり、大量の槍にしてみたり、でかい手にしてみたり。今度は入力に対し出力は滑らかで想像通りに動作した。
「割とめんどくせぇ仕様だなお前?」
検証はまだまだ続く。
今度は四本に均等に量を分け、収まりのいい腰の後に生やして細長い形を形成。また前のような触手形態を取って、一本を鞭のように案山子に叩き付ける。
ダメージ表記は160、大体私の無補正のHPの5%程。
「"ブラッドジャベリン"……なるほど?」
魔法は基本的に自分の周囲からしか発動して射出出来ないのだが、同属性である"操血"の血塊は、血塊がある場所から血塊を消費することで"血魔法"を使うことが出来た。
10mは離れながら触手の先端……超至近距離で放たれた四本の血液の槍は、既に"操血"で払っていたためMP消費無しで案山子に直撃する。
奇襲には向いてるし素で殴るよりは強いけど、ダメージ表記は800と少し。
INTが足りてないのはさて置いても火力は低かった。
「血魔法って火力も速度も範囲も中途半端なんだよなぁ……メインに使えない代わりに血魔術含めて特異能力あるタイプだけど」
続いて血魔法"眷属生成"を初めて使ってみると、触手の一部が分解されて全身赤色の小さな蝙蝠が何十匹も現れた。
攻撃を脳内で指示すれば血の群れは案山子に取り付き、鳥葬のように四方八方から啄み始めた。
「"眷属生成""眷属生成""眷属生成""眷属生成"」
スキルを連打し操血の血塊を消費し切るが、この蝙蝠共に生成数上限は無いらしく、百匹以上の赤が案山子に微弱なダメージを与え続ける。
計測されたDPS、MP効率は共に悪く無いが……
「まぁ耐久性が見るからに無いし払われて終わりか」
指示通りに動くためある程度魔法は回避出来るかもだが、まぁ使えて牽制や目眩しか?
「"ブラッドジャベリン"……あぁ出来るんだ、へぇー。逆に"操血"とかは……ほむ、こっちも戻せるのね」
蝙蝠の群れが零距離で槍に変わったり、アメーバ状に繋がって空中に留まったりと、どっちかというとこれコンボ用のパーツだな。
「"錬血"……ふんっ!」
次、錬血の検証。つってもすぐ終わるけど。
イメージした通りに操血で生まれた血塊がナイフの形を取り、先のナイフのように案山子に投擲。
ダメージ表記は400ちょい。但しこちらは操作を放棄しても崩れることはなく、床に赤いナイフの形のまま残る。
ブラッドジャベリンを使おうとしても発動することは無かった。
「んーよりちゃんとした武器に変える感じだな……これは割と立ち回りの更新点」
学びを得た私は最後にSTR、AGI、INTを50増加させ、触手や血魔法、錬血武器のダメージを計測した。
結果としてダメージは大体4~5倍くらい伸び、如何にコイツが扱いにくい魔法なのかが身に染みた。
「要求ステータスが多過ぎる……これ殺戮躍動フルスペじゃないとマトモに使えんぞおい」
前々までステータスをバフしていた私の生命線たる『妖刀』は、合成の結果としてより私の殺戮マグロっぷりを加速させるように変化している。
『スキル・殺戮躍動
敵数が多い程、攻撃力上昇
敵を倒す度に、五秒間攻撃力上昇。更にHP、MP、SPを2%回復し、一部ステータスを強化
ステータス強化は二分間撃破判定が行われなかった場合、解除される』
ステータス増加の上限は変わらず50だが、バフ条件が緩くなったり、抜刀持続からキル条件に維持制限になったりと、細部は変わったが概ね使いやすくなったと言えるスキル。
あの激戦でもうこっちの方が慣れてきてしまった状態で、更に幾つかの魔法も検証する。
「"ブラストジャンプ"……っと、やっぱ威力跳ね上がってるな?」
加速力がエアハンマーによる自傷跳躍と雲泥の差だと気付いてから、入手時の評価とは打って変わって主力と化した風魔法、ブラストジャンプ。
それは蹴り飛ばした時の移動速度、距離共に、『鞍馬の天脚』入手後から異常なまでに強化されていた。
予想通りっちゃ予想通りだけど、流石に練習はいるなぁコレ。
「"アクセラレート"は……まぁ別にいいか。"ボーンブラスト""ソウルヘイル"」
瞬間的な加速スキルでしかない新風魔法は置いといて、触るのはこれまで一度も使ってなかった死霊魔法の二つ。
それぞれ結果として"ボーンブラスト"は足元から突き出る骨のカーペットが標的に向かって生成されて突き進み、"ソウルヘイル"はそれなりの大きさの青白いエネルギー塊が四本空中に現れて案山子に飛んでいって、着弾してダメージを与えた後に貫通した。
「物理と魔法派生って感じ? ボンブラは閉所で強そうかなー、ソウルヘイルはこれ地形貫通の生体ダメージ臭い」
使用用途がハッキリしていて優秀、かつ記録したダメージも悪くは無いのだが、私のビルドって直接攻撃で色々と回り始めるんだよなぁ。
MPは移動方法とか防御に使いたいし、魔法での直接攻撃はちとロスいかも。
「……まぁでも面倒臭くて後回しにしてた奴らを知る良い機会ではあったか」
二周目のプレイって大抵杜撰になるもので、私という人間は多少知ってることを態々その時その時で検証したりすることは無い。
強い行動を理解してるならそれを擦り続けるし、寧ろ下手に択増やすと返って邪魔になることもあるしね。
横着? まぁそうとも言う。
「さて、次は合成スキルを絡めてみようか」
一通り魔法の検証が終わった私は、手持ち無沙汰な触手を六本まで増やしてあやとりをしながらそう言った。
SANチェックされそうな冒涜的な光景だぁ……
設定:魔法の派生
魔法スキルは熟練度に応じて新しいのが生えるけど、生える魔法はプレイヤーの行動に応じて変化します
例えば彁の場合、自傷跳躍や自傷加速、縮地による高速戦闘をしまくってたから、ブラストジャンプやヘイスト等の補助系の風魔法が生えた感じ
血魔法はジャベリンをよく使えば普通の攻撃魔法、眷属をよく使えば分身とかより強い血液のモンスターとか出せる魔法が生える(但しそもそも魔法を使わなかったら熟練度が貯まらないので魔法は増えない)