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ステータス記載ガバする小説に対して真面目に作品書いて?なんてひっそりと思ってましたが、自分で特大なガバを晒したので悔い改めます(吐血)
「ただいまー」
「……遅かったですね?」
「試し切りにちょっとカジュアル潜ってたからね」
下手にレート戦行ったらランカーに手札バレるし、構築が通用するか試したかったらレートが上下しないカジュアルマッチに限る。
結構スキル縛って長巻と刀二本で回してみたけどまぁ成果は上々だ、全勝したし。
バトロワゲームで全勝するってのもおかしな話だけど、出来るものは仕方無いのだ。
「今日は一旦ログアウトー、明日は大体……九時くらいにインするかな」
「分かりました」
「ところでなんで部屋二つ取らなかったの?」
「最初は空いてなかったのとお金が無くて」
「ふうん、まぁ別に私消えるしいいけど」
形式的にベッドに潜ってログアウトを選択する。
正式なログアウト手順を取ったので、ゲーム世界に私のアバターが残ることは無い。
スペースの空いた小さなベッドで、コヒメちゃんも一人楽に眠れることでしょう。
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「あっ週報出てる」
アカウントとプレイヤーIDを入力し、適当に掲示板をパラパラと見ていたら、運営が発表した情報を見たユーザー達の反応によって、そこはプチ祭り状態に突入していた。
週報……それは一週間に一回公式が出す、全プレイヤーのデータを集計した記録表。
レベル分布から職業毎やビルド毎の勝率、環境に何が流行ってるかや果てにはダイアグラムまで、公表される情報は本当に様々だ。
「"環境知れて助かる""よし、このビルドでメタったろ!""おっそうだな(ランカー)""どうして……(惨敗)""ランカーは全員嘘つきだからね"」
脳死でよく見たテンプレを呟きつつカチカチとページを探し、レートの職業使用率と勝率、流行してるビルドから、不足している戦闘数を数字で補って取り敢えずの環境を割り出してみる。
「……あー、キャスが蔓延ってんのか。初期の装備やスキルプールだとまぁそりゃそうなるか」
対策手段の普及には時間が掛かる。特にリリース直後にまともなまとめサイトなんてある訳ないし、対策を持てなかった近接職を遠距離から狩れる魔法職が台頭するのは当然の結果とも言えた。
「次点で勝率ならハンター、まぁ序盤流せば後半キャス狩るだけで勝てるしな、残当。絶対数が負けてるからこの位置だけどほぼツートップの遠距離環境……割を食ってるのが数の多い前アタで、タンクは数は少ないけど勝率自体は悪くないと」
まぁタンクはキャス有利でハンター微不利だし、トラッパー遭遇や近接戦数嵩なきゃもうちょい伸びると見ていいかも。
数も勝率も悪いのはサモナーやテイマーとかの育成と手数が追いついてない奴らと、キャスとかの後方職に強くてもハンターに不利で前アタとタンクに五分以下のアサシンか。
「……んー初回だしランキング工作は薄いと見ても、トップは流石にメタメタ前提で考えた方がいいか?」
大体このゲームの本番って大会よりも週報が出た直後なんだよね。
その時の流れで出来る環境ってのは当然存在するんだけど、それがこうデータとして晒されると、大多数の一般プレイヤーは週報を参考にして立ち回りを変えてくる。
どうせ今頃各サイトで『現環境に刺さるメタビルド、戦術はこれだ!!!』とかいう見出しで動画なり記事なり作られてる筈だし、それを見た普通のユーザー達はパクって暫くしない内に『遠距離メタビルドが蔓延る環境』が出来てる筈だ。
「ミソなのは多いってだけで勝率が出るとは言ってないこと」
週報が問題になってくるのはこの『事前環境をメタったプレイヤーが爆増する』点にある。
当然ながら賢いユーザーはこう考える筈だ、"これメタったプレイヤーに勝率取れるビルド組めば強いんじゃね?"と。
そして環境を取った旧支配者達もこう考える筈だ、"メタビルドをメタった奴が増えるならいっそこのままの構築で立ち回りを変えて対応すればいいのでは?"と。
そして一定数いる天邪鬼はこうも考えるのだ、"環境とか相性とか知らんけど激変するならこの変態逆張りビルド刺さるんじゃね!?"と。
予想されるメタビルドの爆増に対して、それを獲るためのメタビルド、皮はそのままに戦法の中身が変わっている前環境覇者、逆張りで変なことしてくる謎人等……週報直後の試合は文字通り混沌と化し、何が正解か分からず全プレイヤーそれぞれ違う微修正を繰り返す結果、全員頭おかしくなるのがデイブレの様式美だ。
別に数日すれば落ち着きはするのだが、このカオスな状況が一番楽しいと言うプレイヤーは数多く居て……特に二周目初回である今回の週報は、それはもう荒れるだろうことが容易に予想出来た。
「うーん阿鼻叫喚」
掲示板の様子はそれはもう酷いことになっている。
週報があることを知らなかったプレイヤー、知っていたプレイヤー、大会直前にやることじゃないだろと発狂するプレイヤー、それを見て爆笑するプレイヤー、取り敢えず騒ぐプレイヤー、加速が止まらず板が高速で消費されていく様は見ていて実に面白い。まるで動物園みたいだな?
「大会前って直前に絶対に週報出されたから一度としてつまらない回無いのよく出来てるわ、見物客には。私達は運営のおもちゃじゃ無いんだけど」
基本的にカオス真っ只中で突入する大会は、如何に当日の環境を研究出来たかで結果が大きく変わる。
まぁ見てる側や中位ブロック帯に参加するエンジョイ勢にはお祭り騒ぎなんだろうけど、最上位帯で優勝狙うガチ勢、特にその決勝は本当に異次元の試合になる。
そこまで勝ち抜けたプレイヤーは当然各々研究は済んでいて、それを全員が分かった上で試合は行われるのだ。
隠し球や切り札、奇策と秘策のオンパレードは、ああ実に混沌を極める個性と個性の殴り合いだ。
「週報の直前にランカーみんなして態と本番と違う戦法でランキング工作してたの今思い出しても笑うよな」
レートトップ勢は週報以前に大会に持ち込む戦法と装備を決めているため、常連はこぞってそれを隠して大会直前にレートを溶かし、偽環境を週報に乗せる遊びなんてしていたものだ。
あれ、レート最上位帯だと大半がお互い顔見知りだから本当にタチが悪いんだよなぁ……本番は全員違うビルドなの分かった上で遊んで負けるし、上が下がったせいで何も知らない上位勢が環境誤認しながら最上位帯に登ってぬか喜びしてるところに、更に工作された週報渡して意味の無い対策させるとかいう悪魔の所業平気でしてくるからな。
まぁ私もしてたけど。
あのお互い薄ら笑いを貼り付けた適当な殺し合いは結構たのしかったです。
「それで本番で完膚なきまでに叩き潰されて人間不信に陥るまでがランカーに上がるためのチュートリアル」
暴力を撒かれる側から撒く側になった瞬間の気持ちよさったら、麻薬かと思うくらいモチベと戦闘力を安定させるんだよね。
"ランカーは全員嘘つき"とかいう中位帯の偏見は大正解なんだよなぁとか思いながら、掲示板と週報を見ながらそうして夜は更けていった。
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「……不機嫌だね?」
「な゛ん゛て゛も゛……ないです」
「声おもっくそ枯れてるじゃん」
「……別に、嫌な夢を見ただけなので」
「そう?」
私発祥じゃねぇならどうでもいいや。
「今日は装備受け取りに行く前に訓練所に寄ります」
「どうして?」
「色々とカジュアルやってて疑問が増えたから」
別に私は知識と知ってただけで、実際に使ったことの無いスキルなんて幾つもある。
特に死霊術士特有のスキルや『操血』とかはまだ半分は雰囲気で使ってるし。
いい加減真面目にスキルの確認と検証をします、多分そんな回が必要だ。
次回掲示板、地味にサイコちゃんのレベルが週報で晒されてます