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スプラトゥーンで勝てないので怒りの更新
「何も逃げなくても良くないアイツ?」
場所は変わって表通り。隠し街でやることは終わったので戻ってきたが、"先に宿に帰ってます"と言ってコヒメちゃんは消えたので、相変わらずプレイヤーの数が少ない街を久々に一人で歩く。
マップを開きながらうろうろする様が初心者のようでどこか滑稽で、そんな彼らを置いて一直線に目当ての店に入った。
中には水晶玉が幾つも棚に敷き詰められていて、奥に居た店主が直ぐに私に気付く。
「らっしゃい。……おや、まさかもうここまで鍛え上げた異邦人が現れるとは思わなかったよ」
「ヴァルプルギスと貪食が欲しい、あとスキル合成所使わせて」
「計800万」
「ほらよ」
自動的に袋に詰まった状態で現物化させられた所持金を投げ渡せば、声の主は少し驚いた顔をした後、二つの水晶玉を投げ返してきた。
パシッと受け取ったアイテムの名前には、それぞれ『スキルオーブ:ヴァルプルギス』『スキルオーブ:貪食』と表示されている。
「さんきゅ」
「合成所は右手だよ、説明は……要らなそうな顔だね、じゃあごゆっくり」
「ん」
勝手知ったるとばかりに店内を行き、"50"と魔法で書かれた扉を抜ければ、中央に台座があるだけのシンプルな部屋に出た。
「棚ぼただけど、50レベ超えたのが私の強化で一番デカいんじゃね?」
スキル屋……それは使用することで特殊なスキルを習得出来るアイテム『スキルオーブ』を売っている店であり、かつ、50レベル以上のプレイヤーに解放される『スキル合成』が可能な施設。
どちらも非常に金が掛かることから『集金屋』やら『元締め』やら『家賃』やら『実質パチスロ』やら、挙げたらキリがないほどあだ名(全て罵倒)のレパートリーが豊富なことで有名だ。
「……オーブでしか取れない強スキルが多過ぎんだよクソが。合成も合成で合成結果は見えないわ、解除に何故か合成時と同じだけ金取るわ、そのクセ作ったスキル同士の合成は更に料金が跳ね上がるわ……私達は餌ではありませんのよこのクソ淫売がよ」
思い出したら腹立ってきて無意識に愚痴を吐いていたが、幸いにも私は大抵のスキルの合成結果は記憶しているので金を溶かす心配は無い
……あの怨嗟と執念の果てに作られたwikiの合成表様々だな、これから私以外のプレイヤーがまた阿鼻叫喚しながらアレ作るのかと思うと何故だろう、笑いが止まらない。くくくくく……
『"スキル合成"のチュートリアルを始めますか?』
「いらね」
どれだけ私がコレに金溶かしたと思ってんだよカス。
久しぶりに、然し体に染み付いた動きで部屋中央のコンソールを操作し、現在使用可能なスキル一覧を表示する。ズラっと並ぶそれらは職業と『星火燎原』以外の全スキルが並んでおり、その数は39にも及んだ。
数だけで見ればまるで適当に取ったみたいな散らかりくらいではあるが、然し……
「まず『加速』『疾駆』『跳躍』『軽業』『脚力強化』」
スロットに迷いなくぶち込んだ5つのスキルが、洗濯機の回るような音を立てて消えていき……『合成成功!』という大きくてウザったいアナウンスと共に、新たなスキルとなって私の元へ帰ってくる。
『スキル・鞍馬の天脚
脚部の全能力に多大な補正
脚部を用いた全ての判定を強化』
「うん、想定通り。……まぁじゃなかったら困るんだけどさ」
スキル合成は複数のスキルを突っ込んで上位スキルを作るシステムだが、これはただ似たような系統のスキルを突っ込んでも同じ一つの上位スキルに変わる訳では無い。
例えば今混ぜたのが一つでも違っていれば脚を使うアーツの火力を爆上げするだけの『豪脚』やら、AGIを30上げるだけの『迅雷』になることだってある。
必ずしも期待通りのスキルが作れるとは限らない……それがスキル合成がクソだの沼だの言われる所以であり、検証が遅々として進まなかった理由だ。
「私のスキルはその点最初から合成先見据えて取ってるから、これだけ膨れても無駄はほぼ無いんだよね」
『集中』『視力強化』を合成、『認識加速』に変化。
『奇襲』『処刑』『暗殺術』『暗殺巧者』を合成、『死の影』に変化。
『妖刀』『露払い』『無慈悲』『継戦能力』を合成、『殺戮躍動』に変化。
『STR強化』『AGI強化』を合成、『好戦家の心得』に変化。
『合成』『虚空接続』『緊急召喚』を合成、『ディメンションコネクト』に変化。
『逆恨み』『不退転』『リベンジ』『根性』を合成、『暴走する狂戦士』に変化。
『ドレイン』『再生』を合成、『不死身の再生力』に変化。
『生存本能』『極限状態』を合成、『死線舞踏』に変化。
「んー、今作れるのはこれくらいかな?」
圧縮に圧縮を重ね、合成してないスキルはあと僅かになったが、残った物はまだ合成するには弾が足りないので次に回していいだろう。
別に今圧縮出来なくはないけど、対して性能変わんないし金の無駄でしょ、誤差だよ誤差。
「……随分とスッキリしたなぁ」
最後にさっき買ったスキルオーブを使って、一先ずスキルの整理は終了。
合成用に今後買いたいオーブの値段に顔を顰めながら、大きく変化したスキル欄を見てそう呟いた。
『PN:彁 人間
職業:死霊術士Lv51
契約:コヒメLv47
▪ステータス
HP:0
MP:0
SP:0
STR:50+5
INT:0
VIT:0+5
MND:0
AGI:42+10
DEX:0
SECRET+【今は表示出来ません】
ステータスポイント:30
▪習得スキル
職業
『死霊魔法』『死霊魔術』『死霊強化』『ソウルハント』『アンデッドリスト』
武術『武芸百般』
魔法『風魔法』『血魔法』『血魔術』
防御『被弾上限』『不死身の再生力』『貪食』
戦闘『死の影』『纏刃』『ヴァルプルギス』『星火燎原』
身体『認識加速』『ヒートアップ』『鞍馬の天脚』『暴走する狂戦士』
肉体『叛逆者』『殺戮躍動』『死線舞踏』『好戦家の心得』
探索『水泳』
特殊『ディメンションコネクト』『自己再生』『早熟』
断片『ビルダー』『特大武器術』』
スキルの分類に関しては
武術……武器等の扱いを強化するもの
魔法……魔法、魔術全般
防御……生存力に関係あるもの
戦闘……武術と魔法以外の攻撃手段
身体……ステータス以外の肉体強化
肉体……ステータスの強化
特殊……それ以外の特殊能力
てな具合です




