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唐突な当作のいいね数ランキングなんですけど、当然ながら伸びるだろう一章最終話の次点がサイコちゃんに触手生えた回なのいつ見ても笑ってしまう
「どうしたら数日でこんな有り様になる!?」
「失礼な、一日だよ」
「一日ィ!?」
路地裏を抜けに抜けて辿り着いたツーブライトの隠し街、その工房にておっさんがみっともなく叫んでいた。
彼の名はガルナ、この街──引いてはかなり後半のMAPになるまでは、NPCの中で最も腕のいい鍛冶師であり……
そんな人が丹精込めて作った武具を使徒との一戦で全力でぶっ壊した私は、修理するために彼の元を訪れていた。
「何がどうしてこうなった、耐久性は問題無かった筈だし、余程お前の使い方が悪かったか……」
「敵が強過ぎた感じだねー」
「相手のレベルは?」
「80、超弩級、ソロ」
「そりゃこうもなるわ! 死なないからって馬鹿かお前!? 愚行に付き合わされた武具が可哀想だと思わんのか!?」
「ちゃんと勝ったよ?」
「はァ!? 化け物かお前!?」
散々な言われようだなちくしょう、寧ろコイツらはよく天命を全うした方だろ褒めたれよ。
「…………この斧、コイツの修理は請け負う。だが黒鉄のハンマーとライトメタルシリーズは推奨しない」
「なんで?」
「破損状態が酷過ぎるな、余りの熱量で融解してやがる。特に靴なんて凄惨に貫かれてるし、全体が絶え間ない衝撃で歪んでるし……なぁ、ダメージ量がおかしくないか? ここまで壊れるってことは、それだけ以上の時間馬鹿げた火力を死なずにお前が耐えてたことになるんだが?」
「靴貫通してからは足とかダメージ酷過ぎて壊死してたよね」
「サラッと言うことじゃねぇよ拷問経験でもあるのかお前? ……まぁそんな訳で、ここまで壊れるとなると修理するよか新しい装備打ち直す方が遥かに安上がりだし、何よりお前の戦闘に着いていけないだろ」
「なるほど、まぁ更新自体はする気だったから別にいいけど」
「これでも大分背伸びさせた装備渡したつもりなんだがなぁ……」とかボソボソ言いながら、瀕死の重体である暴血狂斧を預かるガルナ。
おお我が子よ、精一杯磨かれてくるのだぞ……治ったらまた酷使して私と敵の血を吸わせてやるからな覚悟しとけ。
「……で、装備の更新か」
「うむ、まずはこの子……コヒメちゃんの武器についてなんだけどさ」
「え、私?」
暇そうにそこら辺にある武具を眺めていたコヒメちゃんが反応する中、私はあの特急呪物『断章・灰都』を取り出して机の上に置く。
ガァン! と音を立てて現れたそれを見てガルナは興奮したように目を見開き、対照的にコヒメは嫌そうに目を細める。
「……焚歴の代物、それも眷属器だと!?」
「あ、歴史とかどうでもいいから。で、これをコヒメちゃんに合うように直してくんない?」
「……ちょうつかいたくない」
「とか言ってるが?」
「知らん、強いんだから使ってもらうぞ」
「えー……」
「いいじゃん、羽も生えたし、きっと使徒みたいでかっこいいよ?」
「もっと嫌になったけど!?」
えー? 使徒かっこいいじゃん。特に強いところとか……強いところとかさ。語彙力ねぇなぁ?
「……まぁ分かった、ちょっと採寸するからおじさんに手を見せてくれるかい?」
「え、あ、はい」
「絵面が完全に犯罪」
「おいそこ黙れ」
いやスキンヘッドのおっさんが幼女と同じ目線の高さで手を見せてって強請るのはどう言い繕っても犯罪でしょ。
……え、何見せられてんの私? 通報とかした方がいいかな?
「……気持ち悪いかもしれないが、手の大きさや筋肉とかは装備に結構関わってくるから、ちょっと我慢してな」
「あ、大丈夫です。あの人に比べたら全然普通なので全く気にならないです」
「おいさらっと毒を吐くな」
キレていいか?
******
「まるでVIPの対応だな」
「あんな小さくて可愛い子には普通優しくするだろ」
「私は?」
「性格矯正し直してこい」
「は???」
座敷で出された飲み物を飲んでいるコヒメと私の待遇の差に物申しても返ってきたのは当然だろとばかりの煽りだった。この実力だけのクソロリコンめ、しばき倒してやろうかしら。
どこからかブーメラン乙とか聞こえたけど幻聴だな。
「……はぁ、まぁいいや。で、私の装備なんだけどさ」
「ああ」
「まずコイツ」
パチンと指を鳴らせば、グンと減る私のMPを生贄に大質量が顕現する。
それは使徒戦で破壊されるまで私と融合していた、分配された経験値でレベルが跳ね上がった動く鎧だ。
『NPN:槞
種族:リビングメイル・カオス
職業:アンデッドナイトLv32』
「コイツ用の新しい全身鎧が欲しい」
「……お前、こんだけ近接武器使っておいて死霊術士なのかよ……」
「寧ろコイツ着るからそこらの近接職より強いよ」
「ああもういい、ツッこむのも疲れた。で、一口に鎧と言っても色々あるが……」
「ん」
無言で使徒戦の報酬で手に入れた、馬鹿みてぇにレベルの高い素材群を押し付ける。
多種多様な鉱石からガーゴイルの素材、使徒の肉片まで、有り余るリソースの暴力でガルナをぶん殴る。
あ、目が点になってる。やっぱこうやって実績で人を驚かせるの、なんかスカッとして気持ちええわー。
「物理は最悪いいから凶悪な魔法耐性、後は重量軽減Ⅳ以上とSTR補正が最低ライン。素材的にHP補正と自己修復と再生が乗れば上々かな、要求はSTR50までなら積んでいいよ」
「相当な無茶振りだな」
「だからVITは妥協してるんじゃん。で、次にこれ」
そう言って私は更に色々なアンデッドを召喚する。
その形は一つとしてマトモな者は無く、ある意味物と呼んだ方が相応しいラインナップだ。
「この形で、持ち手が骨製の武器を6本づつ。基本素材はさっきので問題無い」
「また変な代物を……」
「多少ならアレンジしても構わない、武器の使用用途は分かるでしょ?」
「当然。……だがそれにしたって癖が強過ぎないか?」
「寧ろこれが最適なんだよ。……で、最後」
最後に取り出したそれを見て、ガルナの顔は迷惑げに歪む。
ああ、何が言いたいかは分かるさ。だからこそ最初じゃなく最後に見せたんだ。
「──紹介状が欲しい」
「……本ッ当にいい性格してるよ、お前」
苦虫を噛み潰したような顔で彼は吐き捨てる。
実際に彼にはどうしようもなく、職人としてのプライドから断ることは出来ない私のお願いは、嫌そうながらも承諾された。
「……明日には出来てる」
「ん、槞はここに置いとくね。……コヒメちゃーん、行くよー」
「ありがとうございました」
ここでやることはもう終わった。ならもうここに居る意味は無く、生憎と製作風景を見学するような趣味も無い。
果てさて、どこまで良く仕上がるかな? ……なんて少しわくわくしながら、私達は工房を後にした。
因みに大会開始直前に彁とコヒメのちょっとしたデート回予定してるんですけど、需要ありますかね?