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超絶怒涛の三回行動
こういう作品世界の世界観考察とか好きなんですよね、無限に設定生えてくる
VRMMOが台頭して以降、急速に数を増やしたのがVtuber……バーチャルユーチューバーの存在だ。
アバター作成のあるゲームの場合、VRアバターは意図して作らない限り大抵は美化されるため、美少女やイケメンは簡単に作れる。
かつてのVtuberの課題であった機材やライブ2D、立ち絵の用意などの課題が必要無くなり、好きなキャラが3Dで作れてゲーム世界を遊べる感覚没入型VRシステムは、Vtuberを目指す人々にとって正に打って付けの新時代だった。
ただ当然の話として溢れかえる同業者の中から抜け出ることは容易では無く、どうバズってキャラクター性を確立出来るかの熾烈な生存競争は今尚加速し続けている。
「こんるみるみ〜! という訳で始まりましたっ! 今話題のデイブレイクファンタジーの実況生配信、そのご!」
VRゲームをメインに登録者を伸ばす定石と言われるのは、新作のゲームの実況だ。
新たな視聴者が獲得し辛い既存タイトルよりも、まだ始まったばかりの手探りの時期に自分とは別の視点で楽しむ、或いは自分が感動した出来事に他の人がどう反応するのかが見たい等、様々な理由からそれは効率的な方法で。
ことデイブレイクファンタジーというゲームは、新作VRタイトルの中でも"実況映えしそうなゲーム"として、その界隈ではかなり注目されていた。
「いやー前回から間が空いちゃってすみません、ちょっと色々と忙しくなってしまいまして……ただ、今回はなんと! 逆張り企画としてバトロワ以外にも触れてみたいと思います!」
理不尽ではないランダム要素が上手く噛み合った、銃を用いない剣と魔法のバトロワゲー。
多数の実況者がこぞって生放送や動画投稿を行う今、彼女もそんな一人としてその日の配信を開始した。
それなりの企業に所属する、パッションと優れたリアクションが売りのストリーマー"綺瑠未ルミ"
オレンジの長いツインテールをたなびかせる豊満ボディの元気っ子は、久しぶりの配信でそれはもう張り切っていた。
来てくれた視聴者さんを楽しませるため、自分の楽しんでる姿を見せるため。そして何より人から外れたことをするのにちょっと興味があった彼女は、ふとこんな企画を思い付いた。
「はい、という訳で今回することは〜……ジャジャン! "視聴者さん達以外の野良でいきなりパーティを組んで、バトロワゲームなのにフィールドで冒険をしてみよう!" ……でーす!」
彼女の周囲を勝手に飛び回るライブカメラが衝撃を受けたように震えた。
自分の意思通りに操作出来るVRゲーム特有の配信方法である光の球体が視聴者に映すのは、がらんとした街並みだ。
何故かという問いの答えは簡単で、どこからでも試合会場に行けるシステム上街中にプレイヤーがいること自体が稀だからだ。
更に言えば生配信が出来るのは配信可能チャンネルだけだ。ライブに乗りたくないプレイヤーは別チャンネルに居るため、そもそもが人が少ない環境では選べる人が限られている。
「……さぁーて、と?」
原則として、ストリーマーとは撮れ高を求める生き物である。
ナチュラルに可愛い子や半裸鳥頭の変態等、そういったイロモノが居たとして、ノータイムで一般人よりそちらを選ぶのが彼ら彼女らの習性だ。
一目見て目に止まった、明らかに他のプレイヤーとは毛色が異なる二人組。
好奇心と撮れ高を満たすために"彼女ら"に声をかけるのは彼女にとって、極自然なことだった。
「あの、すみません! 私、配信者の綺瑠未ルミと言うものなのですが、もし良かったら一緒にフィールドに狩りに行きませんか?」
「んあ?」
「ふぇ?」
──悪名というものは知る機会があって初めて機能するものである。
ルミは最近デイブレの情報を断っていたが故に知らなかった、今こうして街中のカフェでぐうたらしている彼女達が何者なのか。
コメント欄がザワつく。
そりゃあそうだろう、何せ彼女は先日の公式大会において、暴れに暴れ散らしたのだから。
何故そうなるのかなどつゆも知らず、ルミが声を掛けたプレイヤーは幸か不幸か了承してしまった。
「んー………………まぁ、いいよ?」
病的に白い肌と長い髪に赤目のプレイヤーと、何故か一緒にパーティを組んでいる様子の、角と翼が生えている黒髪幼女。
【あっ……】
【えっマジで!?】
【僕これ知ってる、ろくな事にならないやつだ】
【今日のルミ虐会場はここですか?】
爆速でコメント欄が流れる最中、彁は眠そうにそう答えて。
こうしてVtuber綺瑠未ルミの、長きに渡る受難の日々が始まった。
う わ で た
逃げてルミちゃん今すぐ逃げて