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驚天動地の四回行動
こういうゆるっと狂ってる雰囲気好きなの分かる人いません……?
「一人殺せば犯罪者でも、百万人殺せば英雄で、数が殺人を神聖化させる……だったっけ?」
灰色のコンクリートで造られた街並み。
住宅街ぽいそれには多数の罅が入りつつもまだ形を維持していて、当然ながら人の気配なんてない。
赤い染料が辺りを染めていて、一応は水分であるそれは道端のたんぽぽにかかっていた。
道割って生えてるけど、育つのかなこれ? 栄養過多かも?
詳しくは知らないから分かんないや。
「そもそもの話裁く奴毎殺しちゃえば罪人も英雄もクソもないよねってのが実体験です、参考にしてくれ世界の脚本家」
コツコツと舗装路を靴底が鳴らす。
傾いてるしバッキバキに割れてるけど、久しぶりの道だし敢えてここを行ってみる。
理由なんてなんとなくだ、まぁ人生なんてそんなもんでしょ。
「おー川が浸食してる」
建物の隙間から通った視界には珍しく音があって、緩い流れは小さな砂利を拾って人口物を削っていた。
興味本位で近付いて、バランスを取るように無意識で壁に触れた掌。
「…………」
少しの沈黙を経て、壊れかけの篭手を脱ぎ捨てた。
……ひんやりしてる。
「思ったよりつるつる」
ボロボロに砕けてるくせしてザラつきはない、ゲームならではだろうか? それとも運かな?
「ひゃあっ冷た!」
靴を脱いで入ってみた川は澄んでいた。
誰に憚ることなく思いのままに声を上げて、ぱしゃぱしゃと水流を肌で感じてみる。
魚はいないけれど落ち着く温度。
なんだか楽しい、なるほどこれが水遊び……!
「ばーべきゅーなるものでもしてみる?」
幸いデスドロップで食料はクソほどあるんだ、河原でキャンプなんてのも風情があっていいだろう。
殺風景なのが玉に瑕だけど。
「涼しくていいなぁ」
倒壊していた図書館の瓦礫を退けて、幾つかの本を探し出した。
まだ日は落ちていない。残骸の山に腰掛けて読んでいる内に風が吹く。
ページが飛びそうになったので抑えて、どこまで読んだか忘れて先頭段落から再度読み直し。
よくあるよねー。
「……あっ、お気に入りの漫画やアニメも観れないのか」
積み本や録画だけ溜まってたやつもアレ現実だし、こっちじゃ知らない漫画も手に入らないのか。
うーん不便だ、そして飽きる。
取り急ぎ趣味を増やさねば飽きて死ぬぞ?
「植物って思った以上にタフなんだな」
パタンと閉じたその本を読み終わった感想。
今更ながら解説図鑑のようなこれは本と読んでいいんだろうか?
解釈出来るのは私しかいないんだから、言葉の正確な意味とか要らないか。
「次は料理本でもいくかなぁ」
日も暮れてきた道路を裸足で歩く。
たまにある小石をステータスで踏み潰し、平坦な道として強引に往く土の曲がりくねった細道。
それもその筈、今いるのは両脇を花畑で囲んだ散歩道だから。
「綺麗だね」
だんだんと橙に染まっていく青空のコントラスト。
ついさっき見たたんぽぽの群生地だった、この場所の中央から見回した黄色い地平線。
嘘だ、そこまで滅茶苦茶生えている訳では無い。一面ではあるけど、地平線までは言い過ぎた。
実に適当、私らしい。
「おっと……ははっ、金色の風だ」
風が吹き、花弁……花弁なのかこれ? ……まぁとにかく、それが空に舞う。
黄色のか弱い欠片が数を重ねて描くその様は、現実的でありながら幻想的だ。
暫し見蕩れてその光景を眺める。
……ああ、いいなぁ。
「回り回って原点を思い出すとはねぇ」
散歩を再開した。
「〜〜♪〜〜〜〜♪」
小さなオルゴールの形をした音楽再生プレイヤーから、スローテンポで優しく穏やかな曲が流れる。
静かなる日々にアクセントを加えてくれる、誰かの心の拠り所であっただろうBGM
覚えてしまった曲の名は風になる。
鼻歌を合わせながら、小高い丘の上で絵を描いた。
気持ち良く歌う私の目の前には、終末が広がっている。
そうだなぁ、絶望とも喩えられるかも。
そんな表現が適していた。
「〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜♪」
雨の代わりに降り注ぐのは緋色のレーザー。
草木は紫に変色し、鉱質の建物すら触手のように侵蝕し世界を染めていく。
捻れ、穴の空いた建物が並ぶ。それだけが並んでいる。廃墟となって存在している。
遥か彼方に見える黒い壁は、人智を超越した巨大な津波。それを統べる青い赤子。
やがて果てに在るは、神。
偉大で、無慈悲で、宇宙的な、幾何学的な、神が在る。
一皮剥いてしまえば、本当のこの世界なんてそんなものだ。
態々見る意味もねぇし、綺麗なものだけ見てるけどね。
「いい出来」
椅子に腰掛けキャンパスに描いた絵は四枚だ。
人の消えた廃墟で水遊びをする私、瓦礫の山の上で読書をする私、黄色い花畑を歩く私、たんぽぽの花畑。
私抜きの単品で描くくらいには美しかった光景が、今回の自信作だ。
「アレは描かないのかい?」
「描き飽きたしねぇ」
未だに破壊をやめないクソ災害を眼前に、平穏な位置からそう吐き捨てる。
綺麗な景色を探して楽しく暇を潰す方が何百倍も楽しいでしょ。
「別に歴史や現実を描きたいわけじゃないんだよ。歴史小説家じゃないんだし」
言うなればこれは日記だ。
誰に見られることはなくても、私がここに生きた証。
世界で一番絵が上手い私だけが出来る、ささやかな趣味のようなものだ。
「……諦めたのかい?」
「まっさか〜? ……そうだねぇ、息抜きみたいなものだよ」
どうせ仮想現実だとか、こっちが現実になっても戦いでする暇が無かっただとか。
未だに消えないレイド中の表示、余りに過剰な分母に対して分子は1だ。
「──漸く介錯の旅が終わったんだ。急かす奴も意味も無いし、やりたいことやってもバチは当たらないでしょ」
最も、当てるやつがそもそもいない訳だけど。
ふふ。
「元気な体で自由気ままに旅がしてみたい、出来なかったことをやってみたい。今になって好奇心が止まらないんだ」
料理を学んでみたいし、小説を書いてみたいし、おしゃれとしてスカートを履いてみるのもいいかもしれない。
「──だから、この旅行はもうちょっと続くよ」
一つ愚痴を述べるなら、旅する世界がクソなことくらいだ。
まぁ私色に染められると考えれば……プラス、なんだろうか?
「で、なんの用かな元凶さん?」
「……ああ、そうだな、目的を果たすとしよう」
「喋り方仰々し過ぎー、もうちょい緩く行こうぜー?」
風がここまで黄色を攫ってきた。
はためく彼のコートと、くるくると回る頭のルービックキューブ。
トレンチコートが包む異形頭は……このゲームの開発者は、私にある問いを投げかけた。
「君は自分を龍か龍殺しならどちらだと思う?」
かっこつけた質問だなぁ。
痛くて抽象的で皮肉に塗れていて、きょうび中学生の方がもうちょっと面白いこと考えるぜ?
「世界で一番人を殺した奴は、誰よりもきっと人間でしょ」
世界唯一の人間のモデルケースが言うんだから間違いない。
「……ある意味、人間はこの世界にもう居ないのかもしれないな」
「話聞いてる? 耳付いてますかー?」
「見て分からないのか?」
「あら本当」
付いてなかった。マジレスかよきも。
「……私を殺せば全てがやり直せるとしたら」
「んあ?」
「君は、どうする?」
もう興味が失せてきたオワコンがまだ話しかけてくる。ストーカーかよ。
変な質問だったが、しゃあなしに真面目に考えてみて。
「もうちょっとこの世界を描いてみて、それから決めるよ」
詰まんなかったので未来の私に放り投げた。
これにて一章完結です、次章予告を一話挟んだ後すぐにでも二章を開始しますので、これからもサイコちゃんの冒険を応援頂けると幸いです
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