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「ふっ……くくっ、あっははははははっ!」


「……ごめんなさい」


「いやぁ、派手にやっちゃったねぇ!?」


 所在なさげな顔で私の前で項垂れるコヒメちゃんと、堪えきれずに笑ってしまう私。

 声のトーンは対極、沈む彼女とは反対に私はどこまでも明るいものだ。

 少し赤みがかってきた空の下、色んなアンデッドを作っていたが、こんなことされたんじゃあ作業を中断せざるを得ないでしょ。



 こんな火事真っ只中の一軒家を見れば。



「確かに木造だけどさァ、マァジでよく燃えてんなぁ!」



 ──数分前、"なんか焦げ臭くね?"なんて思って視線を上げるとそこには煙立つ魔女の家があった。

 何事? とドアから中を覗けば、そこには燃え盛る室内から涙目で飛び出してきたコヒメちゃんが。

 曰く、揺らいでる火を見ると落ち着く(?)から、メンタルを回復するために室内で炎を焚いたんだと。

 それが燃え移って火事になり、消そうとしたけど慌てて何も出来なくてこのザマらしい。


 私がアンデッド作ってる間に一人でしてることが放火ってお前……お前……w


 いや精神衰弱しててもそれはしないだろとか、なんかもうやべぇなこいつとか色々と言いたいことはあるにはあるが、今はただツボにハマって笑うしかできない。


「ふぅー、はぁー……ははっ、くっそ落ち着こうとしてもおもろすぎて無理だっ、無様過ぎでしょこれマジで……w」


「そんな笑う!? というか早くどうにかしないとっ!」


「いや君が元凶なんだけどっ……ふははっ」


「そうだけどぉ!」


 ぼうぼう音を立てながら燃え盛る惨状をバックに私に縋ってくる萌え袖ローブの少女。

 状況は自分のポカの後始末を相談してきているという中々にギャグ地味た背景だ。

 滲む視界と苦しくなってきた息で私は、取り敢えずの解決をするべく暴血狂斧を取り出して構える。


「……え、いやちょっと何するつもりですか」


「じわじわくるタイプのギャグだけどさぁ、芸術性が足んないでしょ。これじゃただの放火だぜ?」


「何を言っているの?」


「研究資料はもう燃えてるし家主も殺したしいるもんもかっぱらったし、どうせ燃え尽きんなら面白い絵面のがいいっしょ」


「だから何を言ってるの!?」


「最初に気付いた時にインパクトあればもっと面白かったよねって話だよ。『暴走』『狂乱』『纏刃[炎]』『血液転換』」


 なんか申し訳無さそうに謝ってきたけど別に火事についてはどうでもいいんだよ、もうあの家に価値無かったし。

 仮に謝って欲しいことを上げるってんなら、燃やすんならもっとド派手にやれなかったのってことだろうか。

 火力バフって、暴血狂斧に炎をエンチャントして、チート血魔術で減ったMPをHPから補充して。


「『エレメンタルバースト』」


「ああああああああああああ!!??」


 爆炎の砲撃が直撃し、火事を豪快に爆破した。

 壁を押し潰し崩れ飛び散る建材が、炎上しグチャグチャになりながら彼方へと吹き飛んでいく。芸術的だァ……

 どうしようもクソも、用の無い施設の崩壊に何故対応しなければいけないのか。

 もし最初に見た光景がこれだったら、事情聞いたらもっと爆笑してただろうなぁと思いながら破壊を見送った。


「はい解決、これで憂いはないね?」


「憂いしかないけど!?」


「え、今の見てスカッとしないの!?」


「感性壊れてるの!?」


「いやコヒメちゃんには言われたかないんだけど!?」


 精神安定のために家の中に火を着ける狂人に感性がどうとか言われたくないんですけどー?

 よく見る有り得ないものを見た時の顔で突っかかってくるコヒメちゃんは、今日もやっぱり騒がしくて退屈しない。


(……てか、実はこの子割と狂ってないか?)


 ふと気付いた事実に対し、"まぁ狂ってる方が面白いからいいじゃん"という思考に至る。

 行儀がいいやつよりどこかしら壊れてるやつの方が私は好きだ、願わくば私に染まってもっと壊れてみて欲しい。


 倫理観狂ってる外見清楚ロリって凄く素敵じゃない? うわ超見てぇ。


「……また変なこと考えてる」


「失礼な」



 やましいことのない至極真っ当な性癖についてだよ。











「便利だねこの子」


「これに一枠割いたの割と暴挙だけど、まぁ別に私は槞ありゃいいし」


「ろう?」


「この鎧。旧聖騎士くん」


「ああ……そういえばそんな理由で……そうだセイさん人殺しなんだ……」


 あれから一悶着ありつつも、魔女の家跡地を出発した私達。

 凄く今更のことを再確認してきたコヒメちゃんが話題に出したのは、今自分が乗っているゾンビについてだ。

 それは私が貴重な『死霊錬成』の一枠で作ったペットであり、これからコヒメちゃんの基本的な移動手段にするつもりのアンデッド。

『死霊錬成』で作るアンデッドは作成自由度が高く個体で管理され成長もするという強力なものだが、欠点として作れる数が決まっている。

 現状二枠ある片方を態々イベントNPCの移動手段として潰すのは中々に狂っているが、いうて私の知ってる死霊術士ってリビングメイル以外ほぼ使ってねぇし支障は出ねぇだろ。


『NPN:犬

 種族:坩堝の死獣

 職業:騎獣Lv8

▪ステータス

 HP(体力):C

 MP(魔力):G

 SP(気力):D

 STR(筋力):C

 INT(知力):G

 VIT(防御力):D+

 MND(精神力):E

 AGI(機動力):A

 DEX(技術力):D

 SECRET+(隠しステータス)【今は表示出来ません】

▪習得スキル

 種族

『アンデッド』『死属性』『ゾンビ』『キメラ』

 職業

『騎獣』『肉弾戦』『AGI強化』』


 適当に名付けられた彼のシルエットは巨大な狼といった具合だが、様々なモンスターの素材を混ぜ込んだその実態は大きく異なる。

 骨と筋肉にはハリケーンとチャリオットの素材を使い、特にその脚は分厚く作ってあるため筋力と瞬発力が非常に高くなっている。

 外見はボサボサの黒皮の上に骨による装甲で包まれており、背中には骨で作った騎乗用の鞍を生やしている。

 又、首と背中から二本づつ計四本の触手も生やしており、これは騎乗中の鞍上に組み付いてバランスを取らせるために付けたものだ。


 片手を首に置いたコヒメちゃんの腰と足に絡みつく触手は果たして役目を果たしており、元気に駆けている犬の上で普通に話せるくらいには姿勢が安定していた。


「日ィ落ちてきたね」


「これ日没までに街に行けるの?」


「んーちょいキツいかな」


「じゃあ野宿?」


「夜間行軍」


「やだ」


「そっかぁ」


 転職しリビングメイルカオスが出来た以上最初の街付近でやりたいことは無いわけで、クソほど経験値が必要な今、次に目指すのは当然新マップになる。

 クエストの報告と出発準備のため一旦第二の街に戻ることにした私達の帰路は順調そのものだ。

 ゾンビのため疲れない犬の行軍速度は凄まじく、湧くモンスターも全て私が瞬殺するため基本的に移動が止まることが無い。

 偶に湧くガーゴイルの群れ相手だと少し手こずるけど、犬がその機動力でコヒメちゃんを守るため私が自由に暴れられる分、前より処理速度が上がっている。


 加えて──


「『黒炎槍』」


(……一撃かよ、レベル比火力おかしくね?)


 何がどう吹っ切れたのか、コヒメちゃんがガーゴイルに対して攻撃するようになったのが処理速度の向上に一役買っていた。

 唱えた初見の魔法によって生まれた五本の黒い炎の大槍が突き刺さり、魔法耐性が高い部類の筈のガーゴイルを一撃で屠り去る。

 彼女には私と違って妖刀のバフも無ければ強力な武器もない。あるのは死霊術士の婆さんが着てたぶかぶかのローブと普通の杖で、相手は今や平均68レベルまで強化されたガーゴイルだ。


「どういう心境の変化?」


「……セイさんと居たら感覚が麻痺しました」


「こんな短期間に?」


「こんな短期間に」


 良かったじゃん、私のお陰やな。

 苦虫を噛み潰したような顔で移動砲台を続ける彼女のサポートを受け六体の殲滅が完了する。

 流石EXクエストのイベントNPCと言うべきか、基礎スペからクソ強いのは知ってたが、有効に使えばこうも強いのか。

 彼女が抱えるもの(トラウマ)、それが解消した訳では無いんだろうけど、私との冒険……冒険? の内に、その重さが少しは和らいでいたらしい。

 今や怯えも小さなものになり、嫌がりながらも自衛のために攻撃を選択出来るように成長して。


 特に何か変なことをした覚えは無いが、流石私ナチュラルに人を救っているなんてまるで天使だな?


「……んー、にしても気にならない?」


「何が?」


「レベルだよ、じわじわ上がってたのにストップかかってる」


「あー……言われてみれば」


 戦闘が終わって落ち着いた頭で振った話題はガーゴイルのレベルについて。

 それは今までコヒメちゃんと会話にならなかった話であり、だからこそふと口に出していたのだろうか?


「これまで倒す毎にレベルが上がってきたのに69以上に上がらない。加えて、平均レベルから振れ幅が上下に2はあったのに、今は67から69までしか出てこない」


 例えば平均65レベルくらいに落ち着いていた時期に出現したのは、63から67レベルのガーゴイルだった。

 私はこれまで"ガーゴイルは倒す度にレベルが上がっていく"と思っていたが、それにはどうやら上限があるらしい。

 そうして気になったのは"なんで態々60から69っていう中途半端なレベル帯にガーゴイルのエンカウントを仕込んだのか"ということだ。


「……出てくる上限レベルが69で、平均値がまだ上昇してて今は下限が上がってる感じ?」


 別に探索を妨害するならハナからレベル100にでも設定しておけばいいんだし、絶妙に倒せる範囲のレベル帯に成長するガーゴイルを置いて、かつ成長にも上限を付ける意味が分からない。


「意図がはっきりしないんだよなぁ」


 多分だけど、レベル70という数字にはトラップが仕掛けられている。

 それは直感であり、そして分かっていようが避けられない将来だ。

 予測可能回避不可能、そんな言葉が頭をよぎる。地味に一度は言ってみたかったフレーズだな?


「……まぁ、何が来ようが粉砕するだけかな」


「来る者拒まず皆殺し」


「そうそう」


 果てさて鬼が出るか蛇が出るか。


 私は少しワクワクしながら、行軍を再開した。

犬、おお犬

おそらく犬、犬をご照覧あれ

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― 新着の感想 ―
わんわんおー。立派な猟犬になるんだよ。 血の狩人の友でも、とがった時空に住む猟犬でも、良いんだよぉ。
[一言] >爆炎の砲撃が直撃し、火事を豪快に爆破した。  壁を押し潰し崩れ飛び散る建材が、炎上しグチャグチャになりながら彼方へと吹き飛んでいく。芸術的だァ…… 芸術は爆発だ 爆破オチなんてサイテー …
[良い点] 主人公が狂ってて、格好良くてとても好きです。
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