46
「工作の時間だーっ! あ゛〜テンション上げてねぇとやってらんねぇ〜っ!」
すげぇ勢いで私に拒絶反応を示すコヒメちゃんを家の中に放置し、反面に私は庭で元気良くそう言い放つ。
いや確かにだる絡みしたけどあんな怖がられなくても良くないか? 実質保護者みてぇなもんだし、私に助けられてんだからちょっとくらい趣味に付き合ってくれてもいいでしょ別に。
「『死霊錬成』……ふむふむなるほど?」
気を取り直して取り出した聖騎士の死体に魔術を使えば、初回使用時の説明がごちゃごちゃと表示された。
私が使える『死霊魔術』は四つ。全てがアンデッドの創造に関する魔術であり、その内、その場限りの召喚ではない魔術は『死霊作成』と『死霊錬成』の二つ。
どちらも素材から手作りするのは変わらないが、相違点は"作成"の方が成長しない一般兵になるのに対し、"錬成"は経験値を得て成長する相棒になることだ。
(20レベ毎に作成上限が増えて……現状二体か、んーもう一体何にしよう)
作成が数を揃えるための魔術に対し、錬成は質を求める魔術。使える数に限りが設けられている貴重な一枠を使って作り出すのは漆黒の不沈艦。
雑な思考をしながら手を動かして、スキルアシストに記憶を乗せてそれは構築されていく。
聖騎士……クソだるい条件を満たして到達する防御力と回復力に長けた聖なる職業。
本来死属性と相容れることのない彼らは、本人の同意があって漸く弄り回すことが出来るようになる。
洗脳を使わず言質という正式な手続きによって私の物となったそれ。
回復魔法に加えて聖属性耐性に聖属性魔法を持つ、アンデッドの天敵たる騎士が裏返る。
壊れかけの装備を着た金髪の人間が堕ちていく。
生気の消えた顔が更に死と影を纏い、どこまでも暗く黒ずんでいく。
「チッ、鎧足りねぇし……もっと装備くらいしとけよなぁ、『合成』」
アニメチックなド派手なエフェクトが死体を中心に巻き起こり、それに手を翳してあるスキルを発動。
それは"ガーディアンゴーレムの装甲"だったり、"ガーゴイルの魔石肌"だったり、"ゴブリンの破損した軽鎧"だったりで。
錬成先リストが気に入らなくて追加のリソースとして突っ込んだそれらによって、新たな錬成先が表示された。
『錬成可能リスト
→ゾンビ
→スケルトン
→ゴースト
→アンデッドナイト
→カオスナイト
→リビングメイル
→リビングメイル・カオス』
「さあ生まれろ、私の鎧」
ノータイムで選択した転生先、直後一際大きな発光が視界を奪いMPが吸われる虚脱感が私を襲った。
ついふらっときて踏ん張れば、気を使うような硬質な感触に抱き留められた。
硬く、力強い金属による腕。
それはたった今完成した私の下僕で、これから酷使するであろう相棒だ。
「あら紳士的、ペットくらいだよ私に優しいの。この世界酷くない?」
離れて眺めてみた彼は二メートルの漆黒の塊。
生身の見えないフルプレートアーマー、煌めく黒鎧だけで構築されている肉体。
縁取りや装飾は鈍い金色、端が揺らぐ炎のように破れた長いマントは煤けた白色でおしゃれしていて、暗い威圧感を放つ鎧から奇妙な神聖さすら感じさせる。
然し兜の奥から覗く色彩は闇で、それが断じて尋常のものでないのが分かる。
感じる意思は、忠誠。
それは渾沌の黒騎士で、私の忠実な下僕である。
「そうだねぇ……私の鎧ってんならこの字かな?」
聖職者がアンデッドに堕ちた時に生まれるカオスという種族。
光と闇が合わさり最強に見える彼は、後に不死身の騎士となる私の防具だ。
一々頓着はしない性格だが、長く使うことになるものにはちゃんとした名前が必要だから。
特別に私の今の名前と同じ幽霊文字から、親愛の証として彼にプレゼントしよう。
別に彼に合う名前なんて他に幾らでもあるが、私の下僕としての名前ならこれ以上相応しいものは無いのだから。
「よろしくね、槞」
私の言葉に傅く黒騎士。
それは獣や鳥をいれるおり、或いは格子窓を意味する字の一つ。
嗚呼、実に私にピッタリじゃないか。
態々この字を選ぶ様式美こそ、私にとって大事なものだ。
『NPN:槞
種族:リビングメイル・カオス
職業:アンデッドナイトLv1
▪ステータス
HP:B
MP:D
SP:D
STR:C
INT:F+
VIT:A
MND:C
AGI:D
DEX:D
SECRET+【今は表示出来ません】
▪習得スキル
種族
『アンデッド』『死属性』『物理耐性』『武具融合』『武具化』『聖剣技』『回復魔法』『聖属性耐性』
職業
『剣術』『死剣技』『盾術』『盾技』『騎士の誇り』『再生』『緊急蘇生』
▪装備
全身:耐魔の黒曜鎧』
「ふーむ。じゃ、早速『武具化』……っとぉ?」
一通り能力を確認し終え、リビングメイル系統の目玉であるスキルを使わせる。
すると槞の兜の奥が光り全身が細かなポリゴンとなって分解されて、私を覆い尽くすように集まってきた。
黒い液体金属のようなナニカが私の肌を、服を伝い、武装として造形されていく。最終的には機械的なコートに合わせるように、プロテクターとしての形を取った。
それは文字通り私の鎧になった。
「まるで悪魔みてぇだな?」
元々機套の上に蒼銀の篭手とブーツで武装していたのが、またもや黒で塗り潰される。
肩、肘、膝等の関節部には金の刺繍の黒鎧が覆い、元々の武具には更に硬くするよう無理の無い範囲で装甲が加算された。
私が軽装だから重装甲が合わないと判断したのか、残った大半のリソースが象ったのは胸部装甲とコルセットのような留め具。
それは前を留めておらず自由にはためいていた機套を上から縛り、腰から上を引き締める。
すぐ上にはコルセット、下にはソードベルトとその鞘。その合間に挟まれた結果腰から下のコートが常時スカートのように広がるようになり、布地も薄い腰鎧を纏う。
組み込まれたそれは裾まで続くが、然しゲーム物理と広がり方によって下半身の可動域にさしたる影響は無い。
「あー頭はパス、邪魔」
金属の渦巻きが頭に取り付こうとしたのを拒否すれば、言う事を聞いた彼が集まったのは首元。
マフラーの内側に入り込んだそれらは肩から首にかけてを装飾する。遠目ならネッグウォーマに見えそうな黒いそれは、装備の防寒着具合を更に加速させた。
「ちと重いけど、加算ステで相殺出来る範囲だね」
最後に大剣と大盾に変化した槞が地面に落ちて武具化が終了。盾が光を反射し映る姿を確認しながら少し動くが、まぁ概ね問題無い。
試しに暴血狂斧を構えてポーズを取ってみる。
「うはっかっけぇ! 美少女魔王って感じ!」
素振りをするが速度は上々、上がった筋力によって加速した斧刃が空気を裂き、チャリオットの攻撃みてぇな轟! という風切り音が耳に残った。
「あっ、でも職業的には魔法少女か?」
暴力の化身みてぇなゴリラ化に成功したのは、リビングメイル系統のモンスターが持つこのスキルの効果だ。
『スキル:武具化
自身を武具として誰かに装備する。装備中は自身のステータスとスキルの一部を装備者に加算する』
「誰だよ最初に"前衛ビルドでリビングメイル武具化させたら強いんじゃね?" つった奴、なんで魔法職が前衛トップティアに数えられんだよ」
前衛のステ振りで転職の最低条件をクリアし、リビングメイルを武具化させてバリバリ前衛として戦う構築──所謂物理ネクロと呼ばれるこのビルドは、変態の発想だと一蹴出来ないほどに幾多の結果を残した。
何れ冥王というクソビルドに派生しなけりゃ私としてもゴリ押し感やばくて好きだっただけに、今こうしてその最前線を走ってると感慨深いものがあるな。
「……まぁ失速するけどなーこっから」
武具化した時の性能は武具化元のステータスに依存する。
つまり槞はまだレベル1でこれからどんどん成長していく訳なのだが、言い換えれば成長させなければならない訳で。
現状でさえ死ぬ程あるスキルとコヒメちゃんで成長速度が死んでるのに、これからは槞にも経験値吸われるってなるとレベリングが地獄確定なんだよなぁ……
「なんならこっから更にアンデッド作るしね」
そもそも武具化したのはステ加算でより上質な死霊生産するためだし、ある意味つまんないことから逃げるために無理矢理テンション上げてはしゃいでたってのもあるし。
「コヒメちゃん愛でたい」
ついさっき気付いた隣人の可愛さを思い出しながら、ポーションをがぶ飲みして私は生産活動を開始した。
設定:物理ネクロ
STRやVITを上げて前衛に有用な魔法を一つ取って物理性能が高いアンデッドを武具化して戦うデイブレで一時期流行った脳筋ビルド
MPも無いしINTも無いので魔法が弱けりゃアンデッドを召喚したりもしないので、大半の職業スキルが死ぬ凡そ死霊術士では無いナニカ
本来は魔法ビルドの貧弱な物理性能をカバーするための救済措置として用意したのに、運営の想定通りの使い方がされなかったゲームあるある