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『転職球[死霊術士]を使用します』
『転職条件『レベル30以上』『前衛職に就いていない』『特定武術を習得していない』『魔法を一つ以上習得している』『暗殺技能を一つ以上習得している』をクリア』
『クラス『死霊術士』に転職します』
『クラス『サバイバー』のクラススキルが断片に移動します』
『死霊魔法"ソウルヘイル"を習得しました』
『死霊魔法"ボーンブラスト"を習得しました』
『死霊魔術"魔力召喚"を習得しました』
『死霊魔術"遺物召喚"を習得しました』
『死霊魔術"死霊作成"を習得しました』
『死霊魔術"死霊錬成"を習得しました』
「ん……おっけ」
転職球……それは使用により"条件を満たしていれば指定の職業に転職出来るアイテム"だ。
入手方法は転職を行うNPCの殺害の他だとイベント報酬くらいしかない希少品で、今回手に入れたのはその死霊術士版。
一つ目の回収を終えた私は家主のいない居間を軽く片付けて、ソファに座りながら水晶玉を使った。
小さな光を放ったそれはそんなアナウンスを齎した。
食料もあるし休憩にいいでしょと暫く居座ることにした私は、体に走る変な電子信号を感じながらステータスを眺める。
『職業:死霊術士
死骸から死霊を作り、操る職業。屍の主たる魔術士は、強力な相棒と数多の亡者を引き連れ数で攻める。
職業スキル:『死霊魔法』『死霊魔術』『死霊強化』『ソウルハント』『アンデッドリスト』』
『スキル・死霊魔法
熟練度と行動に応じた死霊魔法を習得するようになる』
『スキル・死霊魔術
複数の特殊な死霊魔術が使えるようになる』
『スキル・死霊強化
使役中のアンデッドを強化する』
『ソウルハント
直接攻撃時、与ダメージの5%のMPを吸収
敵を倒す度に、MPが最大値の3%回復』
『アンデッドリスト
作成したアンデッドを保存出来る』
『PN:彁 人間
職業:死霊術士Lv36
契約:コヒメLv35
▪ステータス
HP:0
MP:0
SP:0
STR:50+50
INT:0+50
VIT:0+67
MND:0+50
AGI:42+67
DEX:0+60
SECRET+【今は表示出来ません】
ステータスポイント:0
▪習得スキル
職業
『死霊魔法』『死霊魔術』『死霊強化』『ソウルハント』『アンデッドリスト』
武術『暗殺術』『武芸百般』
魔法『風魔法』『血魔法』『血魔術』
防御『被弾上限』『継戦能力』
戦闘『纏刃』
身体『集中』『加速』『疾駆』『跳躍』『軽業』『露払い』『無慈悲』『視力強化』『脚力強化』
肉体『妖刀』『STR強化』『AGI強化』
探索『水泳』
生産『合成』
特殊『奇襲』『処刑』『暗殺巧者』『虚空接続』『緊急召喚』『早熟』
断片『投擲』『剣術』『棒術』『マッピング』『罠』『潜伏』『調合』『空間把握』『空間機動』『サバイバル』
▪アーツ
纏刃『纏刃[炎]』『エレメンタルバースト』
▪魔法
風魔法『エアハンマー』『ブラストジャンプ』『ヘイスト』
血魔法『ブラッドジャベリン』『眷属生成』
死霊魔法『ソウルヘイル』『ボーンブラスト』
▪魔術
血魔術『操血』『錬血』『血液転換』『ブラッドキャスト』
死霊魔術『魔力召喚』『遺物召喚』『死霊作成』『死霊錬成』
▪称号
『開拓者』『エイプキラー』『夜明けの始まり』『夜明けの一等星』『冒険家』『ベアキラー』『シレネの主』『咎人』『最初の咎人』『罪人』』
「長くなったなぁ」
勢いで振ってから地味に気になっていたSTR41をキリよく50まで振って、残りを全てAGIに突っ込む。
レシートみてぇなステータスは小説とかならさぞ文字数を稼げそうな程に長くなり、現状だと全てを使いこなしてるとは言い難い。
取り敢えず強いやつ全部取って出来たミックスプレートに方向性なんて無くて、これを一括出来る形容は果たして混沌以外にあるのだろうか。
(サバイバースキルは取らなくていいかな、この職業は初期アイテムが本体だし。……にしても魔法系も増えたなー)
"魔法"が使えば自分に合った魔法を新たに覚えていく成長型のスキルに対して、"魔術"は最初から複数の特殊技能が使える代わりに新たな技は増えない買い切り型のスキルだ。
"魔術"は"魔法"に比べて習得するのが難しい代わりに、習得出来れば魔法の自由度を大きく広げることが出来る。
『死霊魔術』で言えばこれが無ければアンデッドが作れないし、『血魔術』もこれ単品だろうがゲームシステムが急変する程度にはやべぇ物だ。
「まぁ知ってるだけで使ったことないんだけど。……『虚空接続』『死霊作成』」
ソファに寝っ転がりながら早速魔術を試用、アイテムボックスに手を突っ込み、死ぬほどある獣の骨からスケルトンを作ってみる。
『虚空接続』とかいう手を直にアイテムボックスに接続出来るスキルはサービス当初何に使うんだとか言われてたけど、素材を一々出して作る手間をショートカット出来ると判明してから『死霊術士』の人権スキルだった。
私の場合色んな武器使うから普通に使ってたけど、なるほど確かにこれは楽だ。
選定作業無しで想像通りの素材をアイテムボックス内から使えるってのは、時短になるし楽でいい。
最初で慣れてないからだろうか、十秒程かかってそれは私の前に現れる。
『……カカッ』
「飲み物持ってきて」
『カカッ!』
骨の下僕。
大体1m半程の体高の人型の白骨が、カシャカシャと音を立てながら台所へ歩いていく。
脳は無いのに知能はあるのかぁ、変なの。
少し待っていればお盆にコップを乗せた骸骨君が戻ってきた。
ふらふらと心配になる足取りだが、それはちゃんと私の前まで辿り着く。
中身は何かしらの冷えている茶。
……うむ、どうやら麦茶のようだ。優雅な一服は心をとても和ませる。
最早タイムリープして以降一番リラックスしてるんじゃないかってくらい、私の心は落ち着いていた。
ソファに体重を預ければどこまでも応えてくれるクッションが私の体を沈ませる。
書斎にいるような湿りひんやりした紙の匂い。
あー……やべぇ、動きたくない。
自分の肉体に対する信頼と、状況に対する安心が私を無気力にさせていく。
「自分の家のように寛いでますね」
「何かいいものあった?」
「ポーションと魔法のスクロールが幾つかと、魔法使い用のローブと杖が一式。後は食べ物を除けば研究資料や本ばっか」
「装備は君が使いなよ、着物ボロボロだし」
「盗人猛々しい」
「私に着いて来てる時点で共犯者だし、家主がいない物件から何持ってこうがいいでしょ」
「理不尽な言い分ですね、何れ地獄に落ちますよ」
「なんなら出禁になって家出してきたよそこ」
カクカク揺れる頭骨を掴んで撫でながら捜索から帰ってきたコヒメちゃんと会話する。
のほほんとした脳死の受け答え、その果て。
私の思想と行動に慣れてきた彼女は背に腹は変えられないのか、汚れを気にしていたのか、壊れかけの着物を脱いで魔女のローブに着替え始め──
──その時、私に電流走る。
渋々と言った表情で、眼前で生着替えを始める12、3歳ほどの少女。
それは私と行為に対する嫌悪感から来たもので、罪悪感で多少味付けがされている。
ともすれば見下すような死んだ目のそれ。
帯を緩めて着崩して、肌を擦りながらゆっくりと床へと落ちていく帷色。
小さな土が雪化粧のように払われる。
服に抑圧され、不自由に柔らかに揺れる絹糸のような黒髪。
それは舞うように優雅な軌跡。
かすり傷と汗が彩る玉のような肌。
光と穢れのコントラストが対照的に作品を盛り上げる。
私の眼球が慌ただしく揺れ動く。
経緯を無くし場面だけを切り取るのなら、それは酷く背徳的な状況として映るだろう。
(あ、いい。凄くいい)
有り体に言うなら性癖に悪い光景で、いや寧ろ別の意味でぶっちゃけ悪くない。つか寧ろいい。
謎の光が彼女の細部を隠し、しかしそれが想像の余地を生みインスピレーションを刺激する。
網膜への情報過多。
久しぶりに発生した職業柄の情景観察、或いは言い換えるならば悪癖に、忘れていた感覚に突き動かされた私は、ただ欲望のまま口を開いていた。
別にいつのものことだが。
「あっそうだ、お風呂入ろっか」
「ジロジロ見てきたと思ったら今度は何ですか!?」
「いや君生身の方も汚れてるし、なによりそんな可愛い顔してんのに勿体無いでしょ?」
「唐突に何っ!? 誰ですかあなた!? 気持ち悪っ!!」
「うるせぇいいから今の私に湯上り時のお前の顔見せろっつってんだよ! 絶対良いから!」
戦闘も危険も久しく、酷くリラックスしていた状態で得た芸術。
美しいものを見る時に重要なのはその時の精神の有り様だ。
ここまでの道中に絶景なら何度も見てきたが、それはただ単にタイミングが良かったのだ。
たまたま感受性があった時に、たまたま彼女がそうだっただけ。
あるスイッチを踏み抜かれた私は、綺麗な人形を買って貰った子供のように。
被写体たる彼女に対して、様々なシチュエーションとポーズを取らせたくて仕方が無くなっていた。
「ふおお……え、やば、激カワ? コヒメちゃんもしかして造形が天才……!?」
「あのもう脱いでいいですか!?」
「寧ろ脱いで、じっくり脱いで、網膜に焼き付けるから。んでその後は着て? じっっっくりゔぇっっっとり着て?」
「気持ち悪い! セイさん本当に気持ち悪いっ! 何で!? どうしてこうなったの!?」
……余談だが実際に彼女を風呂に入らせローブを着てもらったところ丈が合わず萌え袖ズリ裾のブカブカで、コヒメちゃん曰くその時の私の顔は「今までで一番の笑顔をしてた」「生理的恐怖を感じた」ものになっていたらしい。
サイコちゃんは今までの体験と行動で無意識的に癒しを求めてるけど、当人がそういう人間性の疲れに気付いてないので普通に無茶して際限無く疲れていく人間に向いてない悲しき生物
だから偶然の息抜きでその反動がドカッとくるというか、職業柄も相まって偶に大分気持ち悪くなる(一応コイツ仕事はある)




