44
一人称視点の場合、そのキャラの脳内で印象的で無いことは描写から省いてます
例えば最近特に苦戦しないためモンスター戦の描写が無いわけですね(彁視点の弊害)(カットの言い訳)
実際に起きた出来事と当人の記憶、認識、印象的箇所はズレるもののため、一人称視点の過去話は割と鵜呑みに出来ない
「そういや私が嫌いっつってる割にちゃんと着いてきてるのはどういう理由?」
「あなたの傍が一番安全だから。……例えあなたが人殺しだとしても、それは私には関係無いし」
「もう死のうがどうでもいいんじゃなかったの?」
「生きたいって渇望は無いけど痛いのは普通に嫌です。……なんだかんだ私の願いを叶えてはくれそうだし、私が一々気にしなければセイさん程信用出来る人はいなさそうだし」
「納得した」
私も別に痛みは無視出来るけど、痛いの自体は嫌いだし。
死ぬことは恐れないけど、出来るなら死にたくないなぁって認識の私と一緒だ。私達案外似てるね?
(私は結構好きだけどなぁこの子)
その内容はさて置いて、頼られる行為は好きだ。
それは私に価値を見出したことの証明で、下手から私という上手への懇願であり、それは自尊心を満たし優越感を齎す。
……私はまぁ、客観的事実としてクソ人間だ。
自分すりゃ気持ち良ければそれでいい精神構造なのと、多々ある人間的欠陥から、数少ない魅力を頼られて肯定されることは大きな意味を持つ。
コヒメちゃんは出会った当初から非力だった。
まともに戦闘が出来なくて、私の戦闘力を頼るしか無くて、私の言葉で精神が擦り切れようと、これから殺人の共犯者になるというのに、嫌いだと明言しているのに、こうして私に着いてきてる。
それが実利的な理由だとしても、そんな子に好感を抱かない訳が無いのだ。
なんだろう、ちっちゃい子なのもあってちょっとゾクゾクするんだよね。
「……チッ」
「急に何?」
「人の出入りの跡がある」
「それがどうしたの?」
「既にプレイヤーの死霊術士が誕生してんだよチクショウ」
「……セイさんの受けたクエストって魔女さんの家に素材を渡しに行くだけだよね? そもそもそれで転職出来る前提で話してる理由が分からないんだけど」
「あー? あー…………めんどくせぇなコレの説明」
雑談と雑考をしていた私は、それを見て舌打ちしていた。
遺跡の断片が散らばる世界は、いつの間にか暗い植物達と墓、そして霧に覆われている。
遺跡群エリアにあるそれなりの大きさの墓地に入り、暫く探して発見したのは魔女の家だ。
材質と色感は合ってるけどオブジェクトが風景から致命的に浮いている木製の一軒家。
クエスト『魔女の家への宅急便』の目的地たるそれは、つい最近人の出入りがあったように埃を踏んで出来た足跡が二人分あった。
それは一目見て分かるほど歩幅も大きさも違っていて、十中八九彼女に先を越されていることの証明だった。
「じゃあ理詰めになるけど、魔女は優しいことで有名、プレイヤーは珍しいものに飛び付く習性、それで魔女が死霊術士だってこの世界に来ですぐの弱っちい時に知ったら?」
「……………ふっくく……セイさんが魔女さんに頼み込んでる姿想像したら笑えてきた……っ」
「いや私は脅すんだが??? そんな場面想像して人を笑いものにしてんじゃないが???」
「あ、初めて本当にイラつかさせられた」
「え何君そんなこと目標にしてたの?」
「うん」
「ふはっ、趣味悪っ!」
予想外の返答に思わず吹き出しながら、玄関のドアをハンマーでぶち壊す。
破砕音と埃が舞った。
家の中は資料が散乱している分かりやすい汚部屋で、奥から驚いた人間が転んだ気配がする。
「な、なにごっ」「死ね」
部屋から慌てて飛び出てきたローブを着たババア、瞬時に距離を詰めて持ち替えていた刀で首に突きを放つ。
手応えは、硬質。
細長い杖によって攻撃が弾かれていた。
「ひゅう、やるね」
「くっ……何者だいあんた!?」
「え、美少女?」
狭い廊下での咄嗟の迎撃、戦闘経験思いの他あるなお前。
腕を翻し軽めの袈裟切り、当然防がれるがかち合うと同時に全力で床を蹴り飛ばす。
加速が作った物理エネルギーが防御を崩し、前進するまま壁を蹴って三次元機動。
横から蹴りを入れながら上へ飛び、反転した体で天井を蹴り上から奇襲。
体勢の崩れた魔女に全力の唐竹割り。それは防御に間に合った杖を叩き、然し体重で床へと魔女そのものを押し倒す。
マウントポジション。
衝撃で怯んだ一瞬に刀を手放して。
その隙を狙った私の貫手が、魔女の喉へと突き刺さる。
「かっ……!?」
「うーん肉」
貫いた指で生々しい感触を引き裂く。
人間は細いから殺してて楽しくないんだよなぁ。
念の為そのまま頭をぐしゃっと潰せば、ババアは完全に沈黙した。
刀を鞘に戻す間に、遺体はポリゴンとなって消失している。
『転職球[死霊術士]を入手しました』
『クエスト『魔女の家への宅急便』が進行不能になりました』
そんなアナウンスと共に、水晶玉がゴトっと音を立てて床へと落ちる。
落下先は死体の跡地。
飛び散った血の跡がアートのように染み込んでいる、その中心だ。
「いや脅しもしないじゃん……なにそれ?」
「転職球だって。これ使えば転職出来るんじゃない?」
「便利だね」
「そだね」
お目当ての物の回収に成功し、しれっと初見のような反応をした私に、玄関で一部始終を見ていたコヒメちゃんは興味無さげにそう言った。
最初に出会った頃の彼女はどこにいってしまったんだろう。
因みに死霊術士先駆者ちゃん(いずれ出す)は普通に仲良くなって慕っているのでまぁまぁ酷いこと起きてる