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今更ながらルビはコヒメちゃんがそう翻訳されて聞こえている単語
私がかつていた世界では死霊術士がプレイヤーの間で流行ってね。
流行った理由ってのは単純で、比較的簡単に作れて、強くて、何より生存力が高かったから。
……ああ、君たちは死んだら死ぬじゃん? だから私達が死を過剰に恐れるのはおかしいって?
まぁそれはそうなんだけど、私がいた世界ではちょっと事情が違ってね。
この世界に現れるプレイヤーってのは基本的に自ら、進んで、楽しむために来るものなんだ。
つまらなければ来ないし、辛いならやめるし。
かくいう私もそうで、楽しいからこの世界に来てるんだけど……まぁ中にはここが魂の場所だって私生活全てを使って没頭するキチガイもいるけど、究極的にプレイヤーは趣味として異世界を旅するんだ。
それはポジティブな動機だよ、それが趣味であるのなら。
じゃあもしネガティブな動機で異世界に訪れたプレイヤーはどんなことをするんだろう?
趣味でもなく、望んでもなく、地獄と別の地獄の二択の中、消去法で選んで訪れたとしたら。
まぁ、ろくなことはしないだろうね。実際にそうだったし何もしないだけマシだと思ってたけど、これは別に極小人数の話であれば問題は無いんだよ。
……そうだね、コヒメちゃんのいた村で例えばさぁ、読書が趣味の奴って何人居た? え、ゼロ? ……ああ田舎の村ならそんなもんか? じゃあ戦闘が好きな奴……おい殴んな鬱陶しい。
はぁ、兎に角、一コミュニティで同じ趣味をもつ奴なんて精々10~20%くらいなんだよ。
で、本題。もしそんな冒険が趣味じゃない興味外の一般大多数が、"仕方無くネガティブな動機で異世界に訪れた"としたら?
その頃私がやってたゲームは異世界にいる時に本体が殺されると、どういうわけか魂だか意識だかが残って異世界に囚われるっつー代物でねぇ。
え、意味が分からない? 私にも分かんねぇよ。ただ事実としてそうなってたし、実際そうなったし間違いねぇよ。……続けるよ?
んで、私らの本体がある世界に何故か異世界産のモンスターが現れてさぁ……無力な現実よりアバターとして強くなれる非現実にいる方が安全っつー理由で、大量の一般人があるゲームに疎開したわけだ。
ま、お察しの通り、私が遊んでた世界にさ。
最初は共存を目指したさ、言うても同じ人間だしね。……ただそれもすぐ無駄だって分かったけど。
元々居た原住民である私らはそりゃあもう強いわけで、一般人達は雑魚にしか見えないんだけど……アイツらは私達より遥かに数が多かった。
人間てのは倫理観とか道徳観とか、そういう常識で人殺しってのは普通は出来ないんだ。
アイツらは口と数でもって私達を攻撃したよ。
ストレスの吐き口とか、劣等感の消化だとか。
原住民側は幾ら力があっても常識が邪魔して手を出せねぇってのに、自分達を純粋な被害者だと思い込んでるネガティブな動機で来た一般人共は、集団心理という武器で不平不満を私達にぶつけてきたんだ。
少し抑えつければ虫みたいに群がってきて、人を殺す程の非難を個人に叩き付けたりもしてきたね。
そんなこんなのイザコザが半月くらい続いてね、とうとうある原住民が一般人共に"殺されたらアバターが消失するモンスターがいる"ってことをゲロっちまったんだ。
……え、そんなのいたのって? バリクソいたよ? 攻略ギルドのトップ勢でガチガチに情報規制してたから表には出なかったけど。
まぁ遅かれ早かれバレたんだけど、丁度その時一般人共は政治だとか法律だとか愚かにも統治をしようとしてる真っ最中でね。……いやーあの阿鼻叫喚っぷりはマジで笑ったなぁ、状況は最悪だったけど私らみんな大爆笑だったよ? ……あーはいはい続きね? つってもあとは想像通りだと思うぜ?
こんな世界まで死にたくないって理由で来た奴らは、当然死に物狂いで死なないよう努力するわけだ。
ただ生きるために来て手慰みに狩りをしてる程度のレベルで、世間の風潮から私達を指して「強いことは悪だ!」っつー暗黙の認識、圧、プライドで雑魚のままでいた奴らがさ。
んで彼らは見つけたワケだ、比較的簡単になれて、強くて、生存力があるビルド……死霊術士の完成系、冥王を。
私達の反応は「へーあっそ」だったかな、もう別にアイツらがどうなろうが知ったこっちゃ無かったし、無干渉の姿勢を貫いてたよ。
で、非n……一般人共だけど、奴らは仲間の内では凄まじい協調性を見せてねぇ。
非難の前にトチ狂った一部の原住民も交えて効率のいい、辛くない冥王量産システムを開発したんだ。
そうして低レベルでPSも無いただ死ににくい肉壁が量産されてって……ま、これが死霊術士が流行った経緯だね。
いや別にさぁ、ここまでは良かったんだよ。
これでもう「強いんなら弱い私を守れ!」とか「どうしてその力を人のために使わないんだ!」とか真面目な顔で寝言をほざかれなくなるんだなぁとか思ってたんだけど……神様の野郎はここでまさかのゾンビ化ウィルスをばら撒くクソモンスターを私達に投げやがったんよ。
そもそも冥王って素の強さありきのビルドだから、ガワだけ整えた一般人共が性能を活かしきれるわけなくてさ。
生存力あるっつっても殺されないわけじゃない、敵さんから見たらおあつらえ向きの餌で、大量の冥王ビルドの一般人がゾンビ化してったよ。
ああ、因みにゾンビ化したらプレイヤーは死ぬよ。リアルの意味で。復活しねぇし、なんなら意識も多少残ってる。
これの問題だったのが"ゾンビ化したやつは強く、硬く、更に再生するようになって、かつ殺したやつもゾンビ化させる"特性があったことだね。
つまり基本性能に肉体が追いついて、更に強化されたクソ耐久再生ゾンビが大量発生したってわけだ。
無理ゲーじゃないって? うん。無理ゲーだったよ?
古参原住民でも簡単に殺せねえゾンビが数百数千匹でスキルや魔法を使って同時多発的に侵攻してくる上に、追い討ちをかけるように私達を殺せる怪物の大量発生が重なってね。
元々少なかった戦える原住民は精神的に壊れたり、単純に殺されたりして、そもそも人手が圧倒的に足りなかったのに数をどんどん減らしてってね。
懐かしいなぁ、あのクソみてぇに忙しくて、でも楽しいことしか無かった時期。
……あー、今にして思えば時間を稼がれてたんだ。
空が覆われきって、気付いた時には全部終わってた。それで………………
………………あーダメだ、ごめん、そっから先は話せないというか、覚えてないというか……つか話の本題から逸れてんな、戻すか。
何の話だっけ? ああそうだ死霊術士か。
まぁそんなこんなで私はかつて死霊術士に痛い目に合わされてねぇ。
この世界は私がかつていた世界に滅茶苦茶似ていてね、システムも、スキルも、デザインも、全部が類似してるんだ。
え? 似てるから同じだとは限らない?
うん。だから?
私がそう思って、死霊術士がいることが不快で、冥王が組めそうだから前と同じように挑戦する。仮に同じ物が出来なかろうが自分の回答を信じてやってみるってのは、今の君なら分かるでしょ? 自己中ちゃん?
……ま、そんな理由だよ。私が人を殺す理由は。
さっきのアイツ、聖騎士は冥王の素材に必要だから。
今探してるババアは、後続の死霊術士発生を防ぐために。
『私にとって存在が不都合だから』
さっきそう言ったけど、だから私のために殺すんだ。
別世界の私怨じゃないかって?
一点の曇りもないド正論は嫌われるよ?
実際サイコちゃんはコヒメちゃんに嫌われたしね(思っくそブーメラン)