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「……次は誰を殺すんですか」
「死霊術師のババア」
「冗談で言ったんだけど……なんで?」
「私にとって存在が不都合だから」
「自己中ですね」
「そーだね」
遺跡平原を二人で彷徨う。
目に付いた敵を暇潰しに殺し尽くして、ナビが示す方向に進む。
クエストは種類によって案内の程度が違うが、今回のやつは大雑把な方角を指すだけだ。
方位磁石で言うなら、北から東までの90°くらいの道案内。
話に聞いてただけで実際に行ったことがないある魔女の隠れ家、それが今の私の目的地。
どうやらそれは、それなりに遠いらしい。
「にしても君、そっちが素?」
「……さぁ、どうなんでしょう?」
ガーゴイルの群れ。
質と量は更に増し、確認出来る最大レベルは68、最大数は5体まで上がっている。
それにハンマーと暴血狂斧の二刀流で処理しながら、観戦姿勢のコヒメちゃんに問いを投げた。
「あなたに私が自分勝手だとか好き放題言われて、色々と考えてたら自分が分からなくなりました」
「話っ、半分でっ、聞き流しゃいいものをっと」
「そうですね。でもあなたの言葉の暴行を受けて一つ、揺るぎない事実が分かりました」
「へぇ? それは何……ってうっぜぇなぁ!」
目まぐるしく動く状況。
お互いワンコンで沈むだけあって如何に隙を突くかの高機動戦の最中、四方八方から来る魔法の網を捌きながら接近し、一体、また一体と潰していく私に対して。
「私はあなたのことが嫌いです」
にこやかな笑顔を浮かべながら、コヒメちゃんはそう言った。
……ちょっと傷付いた、ぴえん。
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「なんなんでしょうね、なんかもうどうでもいいんです。……何も悪いことしてないのに酷い目にあって、必死に生きてみて、あなたに出会って、考える暇のなかった自分のことを辛辣に説明されて……色々と疲れました」
「ふーん」
「興味無さそう」
「まぁね。いうて分からんでもないけど」
義務的に着いてきている風のコヒメちゃんを連れて私達は歩く。
死んだ目とでもいうのだろうか、彼女は"ただ生きているだけ"の人間のようだった。
「"未来への夢や希望が無く"て、ただ絶望的な環境で息してるだけ。心情が擦り切れて、別に死のうがどうでもよくなって、ストレス振り切れてただただ全てが虚無い。そんな感じ?」
「気持ち悪っ、セイさんて精神科医ですか?」
「いやそれ私も経験あるからさぁ」
雑談はそれなりに好きだ。
何してようが暇潰しに出来るし、好き勝手自分の思考を口から吐き出すのは存外に楽しいし。
まぁ付き合ってくれる奴はほぼいねぇから、会話が上手いわけでもなきゃ、話してると大体嫌われるからすることが無いのだけれど。
元々嫌われててかつ離れられないコヒメちゃんならどれだけしてもいいからお得だね? この機に好きにくっちゃべろうか。
「今更だけどセイさんてなんでそんなにイカれてるの? 生まれつき?」
「んにゃ、一年くらい前までならまだまともだったよ。こんなお気楽自己中快楽丸になったのはつい最近かな?」
「セイさんが言うまともだったって信用出来ないんだけど」
「じゃあ君どう答えようが私が最初からイカれてるって説曲げる気ないじゃん」
「そうですね、私が思った結論がそれなので」
「解釈押し付けないで?」
「自分の出した解答は事実の正解より優先されます」
「あは、自己中だね」
「はい、あなたに学びました…………楽ですねこれ」
「虚無い体には良くキくよ、余りにも楽に雑に脳死で生きてける」
声のトーンは平坦ながら会話は続く。
それは決して盛り上がっているわけではないけれど、私にとってはとても楽しく、この雰囲気にどこか懐かしさを覚えていたた。
それを形容するのなら当てはまるのきっと感傷で。
別に秘密にしてる訳でもないし、どうせ長い間一緒にいるんだからと。
それは自然と口から出た身の上話。
「……そうだなぁ、今の目的にも関わってくるしちょっと話そうか」
「何をですか?」
「君が気になった私の過去と、私が人を殺してる理由だよ」
血みどろの記憶。
私にとってそれは掘り出すのが苦ではない、楽しい思い出でもあるクソッタレな世界の話だ。