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莠̵̧҇悟̴̛͜捉̸̡͠逶̷͢͡ョ̵͢͞縺҈͢͞ョ̶̢͡繧̷͢͡オ̸̨̛繧̷̧͠、̷̡͠繧̴͢͡ウ̷̧͞繝҈̢̛代҉̧҇せ̸͢͠  作者: ?
1章:WAKE UP FAFNIR!

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プロット構想完成してから改めて読み直してみると、割と重要な話なんだよねこの一話

「空気あるからっつってほぼ密室で焚き火は自殺行為でしょ」


「ははは、いやぁ面目無い!」


 私の魔法の火が薪跡地で明かりを務める部屋で、眠りから目覚めたおじさんは自分を『聖騎士クレイ』って名乗った。

 なんでもヨウジン? の護衛任務中にこの地下遺跡に落ちて、モンスターの群れから逃がすために一人でこの場所に残ったらしい。

 あの崩れかけの瓦礫の壁はバリケードとして作ったものらしくて、安全を確保したら疲れて眠っちゃったらしい。


 それとセイさんが薪を壊したのは薪が魔法じゃなく本物の火だったからみたいだ。明かり代わりに作ったらしいけど、もし私達が来なかったら死んでたんじゃないかとゾッとする。


MP(魔力)大丈夫?」


「あ、はい。これくらいなら寝てても出来ます」


「おっけ、ぱぱっとやるから待ってな」


「慣れているなぁセイ殿」


「ああうん、長いことサバイバルしてたしね」


「ほう!」


 起き次第クレイさんに水筒を渡したセイさんはてきぱきと簡易拠点を作っている。

 休憩のため暫くここにいると決めたセイさんだったが、その手際は見事な物だった。

 幾らでも転がっている瓦礫を軽々運んで唯一の来た道を塞ぎ、岩肌を削って大雑把に作ったテーブルやベンチを『合成』という声と共にちゃんとした家具へと変えていく。

 その様子はとても手馴れていて、時々作った物に満足いかなくて壊したりするけれど、作業は一度たりとも止まらなくて、そして早かった。


「……お腹減ったなぁ」


「ん? コヒメちゃんお腹すいてんの?」


「えっ? あっ、いやっ、その……」


「そういえば私も空腹ですな!」


「……あぁそうか、腹減るのか君ら、面倒な」


 思わず口から出た言葉に反応された。

 少し恥ずかしがりながらもじもじしているとそれに気付いたクレイさんが元気よくそう言って、セイさんが思案顔になる。



「うーん……じゃあしょうがないし私の腕食べる?」



 …………は?



「「は?」」


「いや私食べ物持ってねぇし、なら作るしかなくね?」


「……いや、だとしても何故貴女の腕なんだい?」


「どうせ生えるし」


「いやいやいやいや! まだモンスターのお肉を焼くとかあるじゃないですか!? どうしてわざわざセイさんのお肉になるんですかっ!?」


「まぁ見ててよ」


 感情がこの人に対する恐怖と混乱に埋め尽くされる中、そうさせた本人は何事無いように焚き火に近付いていく。

 壁まで逃げて戦々恐々としながら様子を見ていると、セイさんが虚空から何かのお肉を取り出した。

 そこら辺の棒で貫いたそれを焚き火に翳して焼き始めたかと思うと──それは数十秒程で消滅する。


「まぁこんな風にプレイヤー(異邦人)スキル(恩恵)が無いと料理出来ないのよ。ただ自分の体に関しては切ってから燃やそうが消えなくてね、非常食に便利でしょ?」


 便利でしょ? じゃないよ!?


「倫理観! 倫理観!!!」


「……それはつまり私が料理すればいい話では?」


「あぁそっか、それもそうだ」


 クレイさんと二人ドン引きでセイさんにツッコミを入れると、驚く程普通に引き下がったセイさんは何匹かの魚と生肉を、同時に出した調理台の上に置く。

 異邦人は謎の生態を持つのは知ってたけど、セイさんはそれ以前の問題として単純に変だ! ナチュラルに変なこと言うし! するし! なんなのこの人怖いぃ……人の形して言葉が通じてるのが変に感じてくるぅ……


「毛布とマットいる?」


「今普通に近付いてこないでくださいっ! ……えっと、欲しいです」


「おっけ、作ったら私は寝るから脱出開始は起きてからね」


「ああ、私の分も貰えるかな?」


「ん」


 会話が終わると特に気にした様子もなく生産活動に戻るセイさん。助けて貰ってる身分で言えることじゃないけど、正直さっさとこの人には寝て欲しい。


(……やばい、どっとつかれた)


 一日中寝てなくて、感情の乱高下を繰り返して、トドメにこの刺激物の擬人化とのやりとりだ。

 成長途中の体で受け切れる疲労はとっくにピークに達していて、漸くの休憩で気が抜けたのか認識から逃げていたそれを再認識する。


(……疲れたなぁ)


 火を眺める。

 それは私にとっての精神安定剤。

 故郷を焼いた火、扱い方を叩き込まれた火、求められた火、望んでなかった火。

 色んな"もの"を見てきたけれど、結局私の呪われた血は火に安らぎを覚えるようで。

 私が着けている火を無心で眺める。

 操作をほっぽりだして見るそれは、それだけで私を落ち着かせてくれる。


 ああ、いいなぁ炎。


「……嫌いなもの全部燃えちゃえばいいのに」


「……コヒメ殿もセイ殿のようになるのは勘弁してくれよ?」


「おやすみ」


 なにかの毛皮を重ねて作った簡単な毛布とマットを渡して、自分は刀を握りながら寝袋で寝るセイさん。


 戦闘用の暗器っぽい針を魚と肉に刺して、岩のベンチに座って魔法の焚き火で黙々と焼いているクレイさん。




 統率も何も無いヘンテコな集団だなぁと、そんなヘンテコ集団の一員である私はそう思った。











 ──────────











「……この人が一番寝てるんだ」


「おや、起きるのが早い」


「あぁクレイさん……私は短時間睡眠に慣れてますから」


「人のことは言えないが、その年からそれだと成長が遅れるぞ」


「成長……将来かぁ」


 ご飯を食べて、一眠りして。

 快眠とは言えない環境だけど十分元気になった私が起きて目にしたのは、一人火を眺めながら剣の手入れをしているクレイさんと、ぐっすりと寝袋の中で眠っているセイさんだった。

 時間は……分からない。目印になるものなんて無くて、減った魔力感から凄い時間が経った訳じゃないのが分かるくらい。


「……クレイさんはどうして騎士さんに?」


「ん? 私かい?」


「はい、参考に。……私は将来を考えたことがないんです」


「ふむ……そうだなぁ、月並みではあるが、やはり人を助けたかったからだろうか」


 自分の未来を想像出来なくて、私は大人に聞いてみた。

 手を止めてこちらに向き直るクレイさんは傷だらけだった。

 壊れて邪魔になる部位の鎧を外し、血塗れで、軽装に身を包んだ、とても最初に『聖騎士』だと名乗った人には見えなくて。

 でも、その理由は分かりやすいほどに立派なものだった。


「私は貧困な村の出でな、ある時山賊に村を襲われたのだが、その時に通りがかった騎士様が一人で助けてくれたのだ」


「一人で、ですか」


「ああ。その騎士様は高名な訳でもない聖騎士の見習いだったのだが、必死に戦ってくれてなぁ……襲撃を退けて村が感謝を述べ、礼品を申し上げたところいらないの一点張りだったのだ」


「……すごい人ですね」


「ああ、凄かったんだその人は! 金品は村の修繕に使え、人を助けるのは当然と、それはもうかっこよくて……気付けば騎士に憧れていたよ」


 輝いて見えた。

 ボロボロなのにその目は、声は、雰囲気は、とても澄んでいて綺麗だった。


「修行をして、騎士になって、聖騎士になった。ただ、私が憧れたのは聖騎士という肩書きでなく彼のような人を助けられる存在で、夢は叶いはしたが、然し未だ夢の途中なのだ」


「……人を助けるためにこんな目にあって辛くないんですか? ……後悔はしていないんですが?」


「全くもって身に覚えが無いな!」


 彼は豪快に笑う。

 信じられないような光が、目の前にいた。


「生憎と私は聖騎士ではあるが下っ端故捜索届け等直ぐには出ない、依頼を完遂できなかった駄目騎士でもあるしな!」


 笑う彼は"ただ──"と続けた。


「私が助けた彼らはきっと無事に街に着いたのだろう、でなければこんなに早く助けなど来ないのだ! こんな捨て駒になった下っ端の駄目騎士にだぞ! ……ああ、かくも世界は素晴らしい。こうして世界は優しさで回るのだ!」


 その瞳は夢を見ていた。

 幸せを謳い、世界を愛していた。

 私は呆然として言葉が出なかった。


「私が朽ち果てようと私の意思は潰えない。私の救った誰かが、もしかしたら君たちの依頼主が、また私のように騎士に憧れて沢山の人を救うかもしれないのだ。この夢は終わらないのだ。ここで私が礎になろうとも、誰かはきっと私の意志を、彼の騎士様の意志を継いでいくのだ! この道に辛さや後悔などあるものか!」


 私の知らない世界の話をされていた。

 希望に満ち溢れた、私が望んでいた、夢のある話だった。


 絶望なんて知らない綺麗事に、然し私は心動かされようとしていた。


「──コヒメ殿は若い、夢など幾らでも見つかるだろう」


「…………」


「だから今は色んなことを学び、そして感性を育みなさい。運命の出会いというものはきっと既に何回も起きていて、それに君の心が気付いていないだけなのだ」


「運命の、出会い」


「数度の会話で君の過去が辛いものであったのは推察出来る。なら君に必要なのは経験だ。……この世界は素晴らしい、心を育てて刺激に触れれば夢なんて簡単に見つかるものさ」


「見つからなかったら?」


「そうだな、"あの野郎嘘つきやがったふざけんな!"とでも私に言いにくればいい」


「私そんな言葉使わないですっ!」


「ははは、そうだなぁ……ではそんな未来を見るために、頑張ってここから脱出せねばな!」


 クレイさんは笑う。

 傷だらけの姿で、でも楽しそうに。

 それを見て、ふと私も笑っていることに気が付いた。

 洞窟の中、火を囲んで。

 暖かいなと、久々にそんなことを感じて。











「──ただいま」






 そして、彼女が目覚めた。

あっ……

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