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クエストNPCはクエストを受注したタイミングで生成される。
生成場所……つまるとこ目的地は、ある程度の法則を持ちながらも、設定された区域内にランダムで出現する。
クエストにもよるけれど、例えば救出系なら何の脅威の無いところには絶対に現れないし、区域内に幾つか存在する長ーいダンジョンとか、或いは時間制限のある状況に置かれてたりとか、まぁつまり"クエスト目標を難しくする特殊環境"があるのが条件となっている。
それは時に、分かりきった罠を踏まねばならない状況を用意されることだってあるのだ。
「……そもそもセイさんは何しに深夜に移動してるんですか?」
「クエストだよクエスト、それも人命救助」
「……!? ………………!?」
「いやなにその信じられないものを見た時みたいな二度見」
やかましさに負け、戦闘を避けてエリアを往くこと暫く。
落ち着いてきたコヒメちゃんが目的を聞いてきたのでそう答えれば、何言ってんだこの人!? みたいな私がよく人に向けられる顔で凝視された。
話しかけんのはいいんだけどあんま顔は動かさないで欲しい。髪が擦れてちょっとこそばゆいのだよ。
「だ、だってセイさんって、他人がどうなろうと知ったことじゃなさそうな自己中心的な人じゃないですかっ!」
「どんな目で私を見てんのさ君、じゃあなんで今私は君をおんぶしてんのよ」
「え、暇つぶし?」
「あと利益」
「あ、解釈通りでした。人助け自体にはやっぱ興味無いんですね……」
「まぁ褒められるのは気持ちいけど、態々そのためだけに人助けしにいかないのは確か」
雑談は嫌いじゃない。大抵一人でいるし人にあんま好かれないから話さないってだけで、時間が早く感じる程度には楽しいよ?
果てさてどのくらい時が経ったのか、ランタンの光が照らす距離に不自然な凹面の地形が見えてきた。
周りの風景と比べて色が少し違い、環境から浮いている訳では無いが、材質が異なっているのは見て分かる。
なるほどと状況を察した私は思わず顔を顰め、暴君をアイテムボックスに仕舞って代わりにサバイバルナイフを右手に握る。持ちやすいんだよねこっちの方が。……かなりの衝撃を受けても離さない自信があるくらいには握りやすい。
ふと暫く立ち止まってみるが、コヒメちゃんに特に気になった様子は無い。
ガーゴイルから逃げ始めて精神が安定してきたが、果たして彼女はこの光景と状況に対して危険を感じてないようだ。
私のこれまでの言動とか、状況からの予想とか。想像力と観察力が足りて無くないか?
「……今から心配になってくるなぁ」
「? 何がですか?」
「君の危険感知能力、このままだと何時か死ぬよ?」
痛い目見て経験を積ませるため忠告無しで私は歩き出し、文字通りの見えている地雷を踏む。
それはクエストの目的地として指し示された座標であり、窪んだ地形の中心部。
足が沈み、抜けて。
予想通りの浮遊感に落ちる瞬間でさえ彼女は、地形にも会話にも注意することは無かった。
「え……っきゃあああああああああああ!!??」
「って耳元で叫ぶなあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
大きな音を立てて崩落を始める地面。
ぶち壊れて重力に従い落ちていく体、巨大な分かりやすい落とし穴は私達を底へと誘う。
予想していた浮遊感の中、コヒメちゃんは恐怖に思い切り悲鳴を上げて、そしてどうやら想像力と観察力が足りていなかったらしい私は、そんな悲鳴を間近で聞いてうるささに悲鳴を上げた。
耳がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?!?!?!?!?
………………
…………
……
「いっ、つぅ……」
視界がぐらつく。身体の節々が物理的に痛い。
硬い岩肌に全身を叩き付けられ、人間二人分の重量が変換されたダメージがHPを大幅に削っていた。
「ステータスは……持続してるか、地味にVIT上がってて助かった」
『妖刀』の維持条件は武器を手から離さず装備していることだ。
悲鳴で意識が削がれ自傷跳躍が不発し、モロに受けた落下ダメージは、妖刀で上がった防御力の上で尚七割も削っていた。被弾上限抜かれてんな? コヒメちゃん分で二回判定食らったかコレ。
反面、正面に抱き抱えているコヒメちゃんに怪我は無く、呑気に気絶している頬を憂さ晴らしにつまんでみる。
ぷにぷにして柔らかく伸びる肌、思わず少し夢中になる触り心地だ。きもちい。
「うぅ……硬い……」
「殺すぞ」
「ふぎゃっ!」
気付けば反射的に彼女を突き飛ばしていた。は? 誰のどこが硬いって???
「えっ、何っ、ここどこっ!?」
「ダンジョン、さっさと出るよ」
「……あの、どうして怒ってるんでしょうか」
「知らない」
別にある特定部位に対してコンプレックスがあるとかじゃ断じてないけど? ただこんな状況で無様に気絶してた君に腹立っただけですけど?
……地味に未来の私を知っているからこそ将来s私は何も知らない分からない覚えてない。
「というかセイさん怪我してるじゃないですか!」
「ん? ああそうだね、君を庇ったから余分にダメージ受けたよ。まぁ私"硬い"しね?」
「えっ、あ、すみません……ありがとうございます……いやじゃなくって! 大丈夫なんですか!?」
「……まぁ私は即死しなけりゃどうにでもなるし、肩代わりした方が効率的でしょ」
仕舞っていた暴血狂斧を取り出し、なんとか握り抜いたナイフを鞘に戻す。
ダメージは暴血狂斧のドレインで回収出来るし、妖刀バフで防御力はあった。
態々回復手段ある奴が他人とダメージを分け合うのは馬鹿だし、高々全身が痛む程度なら庇った方が効率的でしょ。
「外よりは明るいな、暗いのは変わんないけど」
コキコキと首を鳴らし辺りを観察。
現在地は遺跡の内部といったところで、地面というより床と言う方が正しいそれは灰色の石で出来ている。
上からは私達が開けた天井から月光が差し込み、瓦礫の山と私達を照らしている。
距離は目測……50m程だろうか? ぶっちゃけ縮地と自傷跳躍駆使すれば登れるけど、クエストが進まないし却下だ。
人工による空間にはキチンと横道があり、大広間のようなこの場所から一箇所だけ通路が通っている。まぁそっちから攻略して出口探してねーってことだろう。
光源は私のランタンと壁に生える薄く光る苔くらいだが、十分探索は可能かな。
「あっ、もう大丈夫です」
「そう?」
「はい。……それと、アイツらの気配がしません」
「マジかよ、ツいてないな」
「いや普通逆じゃないですか?」
背中を指すが登る気配は無く、とてとてと寄ってくるコヒメちゃん。
助かるけどもう慣れ始めてたから、体温が少し寂しいかも。
「じゃあさっさと攻略してクエスト終わらせよう」
「ここが目的地なんですか?」
「らしいよ、一つ目の」
「……いつわたしやすめるんだろう」
「? 戦ってるの私じゃん?」
「肉体的疲労は確かに無いですよ、はい……」
「ほら行くよ」
ガーゴイルが出ないらしいし、現状のレベル的に経験値もあまり期待出来ず、そして楽しいモブも出そうに無い。
こりゃスピード攻略でいいなと決めた私は、アイテムボックスから久々の"黒鉄のハンマー"を取り出した。
右手に握るは殺意の塊たる凶悪な大斧。
左手に握るは殺すために洗練された大槌。
合計要求STR70という馬鹿みたいな負荷のそれは、然し妖刀で補強されたステータスなら十分に扱える。
「打撃弱点マップならこの組み合わせに限るよなぁ」
対斬撃耐性持ち用に用意しておいた新品の槌は、暗闇の中鈍く煌めいた。
じゃ、二刀流で蹂躙しよう。
『黒鉄のハンマー
要求ステータス:STR30
打撃55/切れ味20/強度62/耐久値100%
PS『ウィークマスターⅡ』ダメージ属性が弱点の目標に、ダメージ20%増加
名工が打った黒鉄の大槌。頑強な黒鉄を鍛えたこの武器は非常に硬く、そして重い。
切れ味は低いがその攻撃力は折り紙付きだ』
設定:要求ステータス
武器の要求ステータスはその数値分のステータスが無いと上手く扱えません(某ソウル系とは違い両手持ちにしようと解決はできない)
注意点として要求ステータスは"装備条件"じゃなく"加算式の使用値"という処理のため、例えば『暴血狂斧(要求STR40)』と『蒼刀[打波](要求AGIorDEX20)』の二刀流ならSTR40とAGIかDEXが20あれば出来るけど、『暴血狂斧』と『黒鉄のハンマー』の二刀流ならSTR70が必要になります
Q.なんでそんな面倒な設定なの?
A.特大武器二刀流が貧弱な筋力で出来てたまるかー!……真面目な話"最低条件"だとステ振りのリスクが薄まってオンライン対人ゲームとしてつまらなくない? という考察の結果。ロマンにはそれ相応の条件や縛りが必要なのだよ。




